アクション、アドベンチャー映画三昧

邦画より洋画、それもアクション多めの映画を多く見た年だった。

〆は「いとこたちの戦争」にフィクショナルな陰謀組織をからめた快作『キングスマン ファースト・エージェント』。ローテクなアクションに心躍り、ラスプーチンのコサックダンスに笑い、めそめそした和製戦争実写映画では拝めないロマンチックな台詞と戦士の雄姿を楽しんだ。『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』もおもしろかったがおセンチなくだりが長すぎ。『キングスマン』では、悲嘆にくれる主人公にすぐ喝を入れる部下がやってくる。ミステリ面に注意しながら見る観客なら、ラスボスの正体を当てられそうだ。Pacifistより勇者でありたいとするあのシーンには、日本の映画評論家がケチをつけそうだなぁ。

レイフ・ファインズの公爵、チャールズ・ダンス陸軍大臣とも、英国映画やドラマでお目にかかれるたび嬉しくなるいかにもブリカスのエスタブリッシュメントなキャラ。貴族の嫡男がはまっていたハリス・ディキンソンが、ドラマ『TRUST/トラスト ゲティ家のスキャンダル』のちゃらちゃらしたひ弱なゲティ三世をやった人とはまったく気づかず。ジャイモン・フンスーのナイフ・アクションたいへんかっこよし! 『アブセンシア』でヒロインの兄役だったニール・ジャクソンが、たぶん男優なら一度はやりたいであろう儲け役で光る。

エンドロールが始まったとたんに席を立ったら損である。

今作がヒットしたら、あの方向で次回作が撮られるのかしらん。ぜひとも製作陣の目標が達成されますように。

 

上記二作以外で印象に残ったのは、イラクのSWAT部隊とISISの戦いを描いた実話ベースの『モスル あるSWAT部隊の戦い』だ。『ブラックホーク・ダウン』に勝るとも劣らない戦闘シーンの迫力。ハリウッド目線の映画だとなかなか描かれないイラクの軍隊や警察の内部事情、人間関係。最後に明かされる秘密のミッションは完全に予想を超えたものだった。

金曜日はドラマの日

『和田家の男たち』

大石静脚本で大昔、『オトナの男』というドラマを楽しんだ記憶があり、今作も男中心だからという理由で録画スタート。ドラムを生かしたBGMと男三世代のかけ合いにグルーブ感がある。

三話まで見たかぎりでは、二話が一番笑えた。宮澤エマがファムファタール風――じつは仕事熱心なだけだったのだが――で魅力たっぷり。宮澤つながりで、宮澤美保の今後も気になる。マスクをしていても、絶対に美人だとわかるお人だ。

じーさんが新聞社社長、親父がTV局のお偉いさんなんて、絶対に関わりたくないタイプだが、温和でおとなしいだけではすまなそうな和田優は気になる。

国土開発大臣役で高橋光臣登場。ちゃんばらやらせたら文句ない役者だが、現代劇でいまいち見せ場を作ってもらえない感がある。今回は、優と異母兄弟なのか? と思いきや、もっと深刻な対立関係になっていきそう……。

寛が息子や孫に対して「あんた」とか「この人」とか言う距離感がいい。最後までべたつかずに男三人の物語が完走するか否か?! しゃらくさい世相批判に走りすぎず、コメディ要素を維持しつづけてもらいたい。

 

『剣樹抄』

まあ、山本耕史の時代劇なら大丈夫だろうという期待とともに見始めた。泰姫が「大丈夫、大丈夫」と光圀の背中をさする場面で、これは『光圀伝』の脚色ドラマなのか? と思ったら、たしかに原作は冲方丁だが、れっきとした「剣樹抄」という小説があるもよう。

チャンバラと人情物語で8週間楽しませてくれそうだ。

近衛家のお姫様で、かぎりなくおっとりしていて芯が強い、という泰姫を演じるのは至難の業と思われるが、若手から松本穂香を抜擢したのは、たぶんベターな選択なのだろう。吽慶がお久しぶりの石坂浩二でびっくり。BSフジの『タイプライターズ』MCでよい仕事をしている加藤シゲアキが意外にも悪役で登板。死に物狂いで山本耕史にぶつかれば、道が開けるかもしれない。

一部の大河ファン待望の『光圀伝』大河ドラマ化は実現しないのだろうか。それとも『剣樹抄』が試金石?

 

初回で却下したのは『SUPER RICH』。金持ちにも政治家にも迫力がないのが和製ドラマの特徴だが今度はどうかと見てみたら……「あなたの五分より私の五分の方が価値が高い」みたいな台詞だけはおもしろかった。あとは無欲で貧乏な春野優礼賛にいきそうな感じが手垢まみれすぎ。江口のりこ主演なら、こんなメジャーな時間以外で、違う味付けができるスタッフと組んでもらいたい。

二回目で降りたのは『アバランチ』。初回、アバランチ・メンバーの仲間のかけあいとアクションだけはおもしろいと思ったが、二回目でアクション部分が減ってしまった。世界一安全な政権批判めいたネタはやるけども、ホントに怖い芸能事務所の社長とか、宗教団体の幹部とか、✕✕団体を悪役にする度胸のないテレビ局が正義の味方ヅラすんのは見苦しきかぎり。アクション担当のスタッフに光が当たらないのが気の毒だ。高橋メアリージュンのアクション女優としての活躍の場が広がりますように! 金城一紀と組めればよいな。

そう言えば、『日本沈没』も初回でリタイアだった。TBSは時々味わいのある傑作を作るのに、今回のはおもしろみがない。小栗旬はある程度以上のドラマにしか出ない印象だったが、今回は本人が一番がっかりしているかも。大河では報われますように。

週末の連ドラ

『今ここにある危機とぼくの好感度について』

演出はよい意味でNHKらしく、退屈させない。神崎が過去につきあった女の画像データを脳内でぱらぱら検索する絵作りが愉快。ほかによかったのは

  • 神崎が国立大の広報になったと聞いて喜ぶ婚約者。「彼女が単純な女でよかったと心から思った」(うろ覚え)というナレーション。
  • お人好しで浮世離れした総長のキャラ。
  • アナウンサー時代の神崎の超ことなかれ世渡り術の描写、彼の番組卒業時のわざとらしい“お名残り惜しさ”の演出。
  • なぜかドラマにはびこる「教授」という現実にはない呼びかけがなくて、ちゃんと「先生」と呼んでいた。
  • ハライチが専門から服装からうさん臭い准教授であり“ザ・今どきの文化人”であり、目が離せない。

 

しかし木島をひたすら正義の被害者として描いていくつもりなのか? 彼女と学生新聞の部員の台詞がいかにもメディアや一部のSNSに載りそうな言葉の羅列で、ゲップが出そう。今どきのポスドクの実態を知る人からは、あまりに偏った造形に見えるのではないか。第一話は「世間はもっと複雑」みたいなナレで終わったが、どうも単純な反体制シュプレヒコールに向かいそうな懸念がある。

来週あたりで視聴打ち切りにするかも。

パワハラの告発の自由すらなさそうな音大を舞台にしたブラックユーモア・ドラマを見てみたいが、アイデアを出すクリエイターがいないのかしらん。

 

ドラゴン桜

演出の半沢直樹臭がはんぱないと思ったら、半沢担当Dだった。このくどさに最終話までつきあえるか自信がない。しかし、ひねくれた桜木建二が吐く台詞は、あいかわらず肚にズシンとくる真実味たっぷり。「大人は子供を傷つけないとでも思ったのか!」なんてのは、『今ここ』の正義感女の演説よりはるかに痛快である!

それにしても長澤まさみはよい女優になった。『コンフィデンスマンJP』よりこちらのシリアス風味のほうが合っているし、台詞もこなれていると感じる。

ラスボスは誰か?

『俺の家の話』は悲喜こもごもの傑作介護ドラマでホームドラマで中年男の人生やり直しドラマで……ほかにもいろいろな形容が当てはまる。

寿三郎の女癖の悪さはばれたけれど、なんやかんやで仲良し家族だよね! のノリだった第七話から一転、第八話ではほころびが一気に露呈し、家族はばらばらになる。第九話では深刻度が増して、寿三郎がベルイマン映画よろしく己の一生を振り返ることになるかと思いきや、臨終が迫るなか子供たち孫たちがふたたび戻ってきて、かなり幸せな最期を迎えられそう、という終わり方だった。

「二度目の奇跡は起こらなかった」というからには、最終回では寿三郎は死去するのだろうが、ここで気になるのが彼の亡き妻である。本邦の親子ドラマというとあまりに母性礼賛にかたよるので、今作くらい母抜きで終わっても極私的にはかまわないのだが、造りが緻密なクドカンドラマでそれはないと思う。ハワイ旅行の写真に姿がない理由が、なんとなく釈然としない説明の仕方だったし、記念写真以外でも母親を見せないということは、最終回であっと驚かせるためではないかと勘繰っている。三途の川を渡った寿三郎の前に立ちはだかって、「あたしゃまだ許してないよ!」という台詞を薬師丸ひろ子森下愛子か坂井真紀あたりに吐かせて視聴者を笑わせるのかしらん。ほかに複数回クドカンドラマに出た大物女優というとキョンキョンもいるが、虐げられた妻キャラはしっくりこない……と思わせて、彼女が復讐に燃えるラスボスだったりするのかな?

 

荒川良々演じるケアマネの台詞が啓蒙的でよい。脳梗塞を起こして倒れたら「動かしちゃダメ!」は鉄板である。踊介の弁護士設定はいつ役に立つのかと思っていたら、しっかり法人化の話を出してきた。発達障害児への接し方について、(脚本を練る段階では七転八倒かもしれないが)固く構えずに見られる演出になっているのもさすがである。

第九話のさくらの台詞にもにやりとさせられた。育休取って家事も育児もがんばっているというユカの新しい亭主に向かって、「え~、全然仕事しないでずっと家にいるんですかぁ? ムリムリムリ。他のお宅はともかく自分の家だったらムーリー。意識高すぎるっていうかぁ」みたいなことを言ったのだが、同じことを言いたくてもこのご時世口に出せなくて腹ふくるる心地の方々はひそかに快哉を叫んだことだろう。ユカが妊娠を喜ぶあまり元夫にはしゃいだ電話を入れるエピソードも、「無神経な元妻あるある話」なのかな。

落語の知識があまりなくても『いだてん』を楽しめたし、能についてはさらに無知でも『俺の家の話』を楽しめている。最終回ではまたあらたな能を紹介してくれるだろうか。

落語やっても能をやってもそれなりに様になる西田敏行は得難い俳優である。西田ほどでなくても長瀬智也も魅せてくれる。体幹がしっかりしているのも一因? この明朗でどっしりした男らしさの持ち主が、これで俳優をやめてしまうのはなんとも惜しいことだ。

大森寿美男フルスロットル!

時代劇専門チャンネルで『鬼平犯科帳』、『仕掛人・藤枝梅安』の新作発表があった。

『梅安』の過去作は一回くらい見てそれきり。新作にも興味はなかった。

鬼平』は中村吉右衛門にとどめを刺す。時代劇関係者もあらたな『鬼平』は作りづらかろうと思っていた。

が、新作の脚本を映画、連続ドラマとも大森寿美男が書くと聞き、がぜん視聴意欲が湧いてきた! 2022年映画『梅安』の撮影に入り、2023年公開。『鬼平』はドラマシリーズ、映画とも2023年撮影、2024年公開ということで、時代劇ファンには何よりのプレゼントである。

贅沢な不満だが、これでまた大河ドラマへの大森再登板が遠のいた。骨太大河が書けそうなのに未登板なのが羽原大介だが、佐藤健玉山鉄二が主演で何か実現しないだろうか。

テレビ中継の肝は主役発表であり、梅安役が豊川悦司鬼平役が松本幸四郎とのこと。トヨエツは好きでも嫌いでもないが、丹下左膳など時代劇に出ても違和感はなかったので、心配なさそう。幸四郎は叔父さんの当たり役を引き継ぐわけで、プレッシャーが半端ないだろうし、鬼平は誰が演じても時代劇ファンがなんか言いそうだが、新しい鬼平を作ってくれることに期待したい。

監督は『梅安』が河毛俊作、『鬼平』ドラマが山下智彦、映画が杉田成道。『鬼平』のドラマと映画を逆にしたほうがよさそうな気もするが……このメンツなら水準以上は約束されたと言っても過言ではない。

中継で一番楽しめたのは、松村邦洋の物まね大盤振る舞い。また、この手の特番でやってください!

『星影のワルツ』

津波にのまれ、海を漂流していた男性が43時間後に救助された実話のドラマ化。

ささやかな日常がいかに幸せだったか噛みしめる場面も忘れがたいが、乾いた布団が流れてきたというエピソードにびっくり(じっさいには自分で乾かしてから使ったとか)。それで低体温症を免れたのも生き延びられた一因だろうか。

ドラマの感想を眺めていくうち、男性を救助した護衛艦〈ちょうかい〉は地震発生後わずか2時間超の16時59分に横須賀基地から緊急出航していた――しかも、同基地から出航した艦のなかでは最後だった――ことを知る。当時の艦長、大川努氏のインタビューも貴重。救出された新川さんがおだやかな老後を送れますように!

『ペペロンチーノ』

宮城発地域ドラマ。NHK民放を問わず、地域発ドラマって当たりが多い、とあらためて思わされる。中央発より資金面では不自由でも、アイデアは自由に出しやすいのだろうか?

東日本大震災からちょうど10年目に、イタリアンレストランのオーナーシェフ小野寺は、友人を宴席に招く。

一番心を打たれたのは「俺は被災者じゃない。俺は料理人だ」という台詞。被害者のレッテルを自らはがそうとする人をも、外からはがそうとする人をも、潰しにかかるのが大マスコミだが、NHK仙台放送局は東京本社とは一線を画すらしい。

一色伸幸が脚本担当でなければ決して見なかったキャスティングだが、録画して大正解だった。

小野寺が料理で人を元気づけ、食べた人の反応が小野寺を励ます。酒に溺れた時には同病(!?)の医師がゴールを設定してくれたことで、禁酒に踏み出す気を起こす。人間関係の塩梅が心地よい。

わけありの医者がたいへん味わい深い造形。ポリコレ勢に噛みつかれそうなこと言ってるけど、これ落語じゃね?……と思っていたら、やはり落語の一節でひと安心。

ドラマは小野寺と妻、灯里の仲睦まじいなぞなぞで幕を開ける。その後、震災時から今日までの彼の苦闘が描かれる中で、「あれ、灯里がいるのになぜこんなことを?」と違和感を持たせるシーンがいくつかはさまれるが……クライマックスでその正体が明かされ、大きな感動を呼ぶ。そして小野寺を励ましたライターの小さな傷心も。

一色洋平は脚本家の息子さんとか。クドカンのドラマ『JOKE~2022パニック配信!』で見たはずが忘れていた。

作品の台詞はもとより、SNSでの発言などからお見受けするに、一色氏は日本の映画界ドラマ界に蔓延するバイアスからかなり自由なクリエイターのようだ。その点では橋口亮輔も貴重な映画人なので、橋口監督にもぜひ映画が無理なら地域発ドラマなどで仕事をしていただきたい。