『武士とその妻』

池波正太郎の原作は未読。

時代劇ファンとしては嬉しい丁寧な造りだった。粋やピカレスクな魅力で惹きつけることが多い池波作品だが、今作はどちらかというと山本周五郎的な味わいがあった。

 

武家の次男に生まれたがゆえ、役立たずの誹りを受け“へそ者”として生きてきた小五郎が、婿養子に入り望み通りの妻を得るも、武士の意地を通し、世の不正をただすため、おのれに過酷な選択を課す。

 

脚本はおなじみの金子成人、音楽は遠藤浩二、となかなかの顔ぶれ。服部大二Dは『殺すな』の人だったか。松竹が協力しているので、絵に品格がある。チャンバラシーンだけはもうちょい力が欲しかった。中村健人の責任というより、役者のみなさんの鍛錬の問題と感じた。

古き良き日本人を演じられる若手として、工藤阿須加は期待大。小五郎の誠実さや意志の強さの表現にはまったく無理がない。

渡辺大は親父殿の若いころより巧いと思う。

作品を懐の深いものにしているのは、なんといっても和尚を演じた火野正平の力であろう。若いころは想像もしなかった、味のある役者になった。