ラスボスは誰か?

『俺の家の話』は悲喜こもごもの傑作介護ドラマでホームドラマで中年男の人生やり直しドラマで……ほかにもいろいろな形容が当てはまる。

寿三郎の女癖の悪さはばれたけれど、なんやかんやで仲良し家族だよね! のノリだった第七話から一転、第八話ではほころびが一気に露呈し、家族はばらばらになる。第九話では深刻度が増して、寿三郎がベルイマン映画よろしく己の一生を振り返ることになるかと思いきや、臨終が迫るなか子供たち孫たちがふたたび戻ってきて、かなり幸せな最期を迎えられそう、という終わり方だった。

「二度目の奇跡は起こらなかった」というからには、最終回では寿三郎は死去するのだろうが、ここで気になるのが彼の亡き妻である。本邦の親子ドラマというとあまりに母性礼賛にかたよるので、今作くらい母抜きで終わっても極私的にはかまわないのだが、造りが緻密なクドカンドラマでそれはないと思う。ハワイ旅行の写真に姿がない理由が、なんとなく釈然としない説明の仕方だったし、記念写真以外でも母親を見せないということは、最終回であっと驚かせるためではないかと勘繰っている。三途の川を渡った寿三郎の前に立ちはだかって、「あたしゃまだ許してないよ!」という台詞を薬師丸ひろ子森下愛子か坂井真紀あたりに吐かせて視聴者を笑わせるのかしらん。ほかに複数回クドカンドラマに出た大物女優というとキョンキョンもいるが、虐げられた妻キャラはしっくりこない……と思わせて、彼女が復讐に燃えるラスボスだったりするのかな?

 

荒川良々演じるケアマネの台詞が啓蒙的でよい。脳梗塞を起こして倒れたら「動かしちゃダメ!」は鉄板である。踊介の弁護士設定はいつ役に立つのかと思っていたら、しっかり法人化の話を出してきた。発達障害児への接し方について、(脚本を練る段階では七転八倒かもしれないが)固く構えずに見られる演出になっているのもさすがである。

第九話のさくらの台詞にもにやりとさせられた。育休取って家事も育児もがんばっているというユカの新しい亭主に向かって、「え~、全然仕事しないでずっと家にいるんですかぁ? ムリムリムリ。他のお宅はともかく自分の家だったらムーリー。意識高すぎるっていうかぁ」みたいなことを言ったのだが、同じことを言いたくてもこのご時世口に出せなくて腹ふくるる心地の方々はひそかに快哉を叫んだことだろう。ユカが妊娠を喜ぶあまり元夫にはしゃいだ電話を入れるエピソードも、「無神経な元妻あるある話」なのかな。

落語の知識があまりなくても『いだてん』を楽しめたし、能についてはさらに無知でも『俺の家の話』を楽しめている。最終回ではまたあらたな能を紹介してくれるだろうか。

落語やっても能をやってもそれなりに様になる西田敏行は得難い俳優である。西田ほどでなくても長瀬智也も魅せてくれる。体幹がしっかりしているのも一因? この明朗でどっしりした男らしさの持ち主が、これで俳優をやめてしまうのはなんとも惜しいことだ。