『鎌倉殿の13人』第9回『決戦前夜』

毎週のように出入りの場面があって楽しい。「ではいり」ではなく「(ヤクザの)でいり」。

 

現代劇作家としての三谷幸喜、それも一部の舞台やドラマの書き手としての彼はわりと好きだが、時代劇作家としては今までどうも肌に合わなかった。『新選組』はまったくおもしろいと思えず、『真田丸』は、いわゆる大物回りの物語は見ごたえがあったものの、ギャグが滑っているように感じたのと、主人公に魅力がないのとで、完全にはノレなかった。

 

今年の大河はOPに古式ゆかしい味わいがあり、話の組み立て方にも無理がなく、野外撮影の青や茶の濃さに力が感じられる。

驕る平家を義憤にかられた源氏が討つ!なんていうきれいごとではなく、どの豪族も「今、どちら側につけば生き残れるか」嗅覚を働かせながら動いていたことが、ありありと伝わってくる。なかには、損得よりも坂東武者としての誇りを優先する伊東のじっさまのような男もおり、その筋の通し方は敗れるがゆえに美しい。

三谷流のおふざけはいつもとそう違わないのかもしれないが、時代劇の格を壊さない範囲のユーモアに留めてくれるのがありがたい。元漁師の女房との逢引を優先して本妻との再会を伸ばそうとする頼朝に向かって、全成が「その日では、親子の縁が薄くなり、主は不慮の日を遂げる」といさめる。軽めのトーンの芝居に仕立てていたが、いかにこの不吉な予言が正しかったかを、これから数ヶ月にわたって視聴者に見せつけるわけである。あとから回想シーンで流されるのだろうか。他にも、あとから考えれば重い意味があったという場面がすでにあるのかしらん、たとえば実衣の憎まれ口とか?

坂東の勢力図をまめに図解してくれるのと、各有力武士をしっかりキャラ立ちさせているのとで、こちらは混乱することなくパワーゲームを楽しめる。来週あたりから、朝廷も巻き込んで争いがいっそうスケールアップしそうでワクワクする。

 

草燃える』で石坂浩二が演じた頼朝は、完璧なイケメンにして頭脳抜群の将軍だったが、同時に蛇みたいな嫌な奴でもあった。今年の大泉洋はもっと多面的でおもしろみのある人物像を造形している。政子を演じる小池栄子は今のところ終始目を見開きすぎな感じだが、肩の力を入れ過ぎずに尼将軍を見せてもらいたい。

こんなにしょっぱなから「早くくたばってほしい」と思わせる義経もめずらしい。義経であれなら、頼家なんてどんなになっちゃうんだか……。

山本耕史演じる三浦義村がなんかかっこよすぎる件。『草燃える』では、まだ「、(点)」とか「。(まる)」とかつく前の藤岡弘が演じていた。後半の重要な抗争を前にして、「大局を見ねばな」と言った時のぞくぞくするような冷徹さが忘れがたい。たいへんな切れ者見えたものだ。

千葉常胤は、岡本信人史上もっとも賢そうなキャラ。「それはちょっと止しておこう」がかっこよかった。

小栗旬は、身勝手な大人たちに翻弄されつつ成長していく若き官僚を、あぶなげなく好演。おそらくは「やむなく」実父や義弟を放逐し、甥をナニするにいたる展開を、中年義時として渋く演じてくれそうだ。ガッキー以上にかわいいと評判の時政! 歌舞伎役者の余裕がにじみ出た芝居がさすがである。八重は浅はかなんだか腹黒いんだか、正直もそっと出番を減らしてもらいたい。

義村の機転で「武衛」呼びが始まるシーン。あんな笑い交じりの宴会になるとは予想外だった。「武衛」は『草燃える』の時政がさんざんやっていたけれど、あれのオマージュも兼ねているのだろうか。

くだけた口調の会話中も、官職呼びを優先するところも『草』と同じ。近ごろはうるさい歴オタが多いので、スタッフが気を遣っているのもあるのかな。