今年の単発ドラマ

上半期は、東日本大震災がらみの傑作『星影のワルツ』と『ペペロンチーノ』。喪失感と希望と人生の滋味が描かれて忘れがたい。

下半期は圧倒的に『忠臣蔵狂詩曲No.5 中村仲蔵 出世階段』。源孝志にはずれなし! 役者の業と妬みと欲望。歌舞伎にはくわしくないが、劇中劇の王道の演出にも外連味にも痺れた。仲蔵の、全身に塗りたくった白粉の白と着物の黒の対比だけでもあざやかなのに、口から噴き出す血のりの赤が強烈。照明にこだわる源だからこそあそこまで魅力的な画面になった。錚々たる面々にはさまれても肩に力の入りすぎた熱演にならず、小粋に演奏場面もこなす上白石萌音は、今後ますます楽しみだ。謎の侍の「勝手に俺たちの生き方窮屈にしてんじゃねえ」がユーモラスで印象に残る。

中村仲蔵なんて知らないと思いながら見ていたが、「なぶりもの」の一語を聞いたとたん、松井今朝子の『仲蔵狂乱』を読んだことを思い出した。いやぁ、アレが実演されなくてよかった……。

大森寿美男が脚本ということで『風の向こうへ駆け抜けろ』も録画視聴。中央競馬から地方競馬へ格下げになった女性騎手の成長物語。腐っていたはぐれ者の集団がよそ者から刺激を受ける再生ストーリーでもある。競馬のことはほとんどわからないが、j人馬一体で疾走する姿は美しいと思う。ヒロインが伸びていく過程もおもしろかったが、「GIではさんざんだった」のくだりにまともなドラマでよかったと安堵した。

大森は時専チャンネルで3年間がかりの池波正太郎の脚色を控えている。大河脚本再登板まで辛抱強く待つしかない。