『BORDER』(テレ朝チャンネル1)再放送終わる

聞きしに勝る快作で満足満足。堪能した『MOZU』でさえダビングが億劫で結局やらずじまいだったが、このドラマはダビングしてもいいかなという気分。

放送前からプロットはすべて決まっていたとかで、大人の事情で路線変更しましたみたいな事態が起こらず祝着至極。探偵ものや極道ものの実績から信用していた橋本一Dも、お初の波多野貴文Dもクールでダークな絵作り、間延びしない場面転換で惹きつけてくれた。
笑顔の安売りがないから第4話のホームレスの笑顔が心にしみる。涙や怒号を控えてきたから最終話の少年の涙や石川の怒号が生きる。影の協力者たちがふだんはいい人ぶらないから、最終話での無給の働きが心を打つ。最終話の"いきなり終わらせる"幕引きは、この作品特有の美学を感じさせる。すべて二文字のサブタイトルがかっこいい。
川井憲次の音楽も理想的なBGMだった。
脚本担当の金城一紀は、今回はいい面だけ出してくれた。石川に語りかけてくる死者が、初回は意図的に狙われた善良な被害者だったのが、第2話からは連続殺人犯、市民から制裁を受けた悪人、愉快犯の犠牲になったホームレス等々。全9話、犯罪の内容も死者の立場もバラエティに富んでおり、まったく重複しなかったのが見事。最初は記憶喪失だった死者が、だんだんと事件とは無縁で死んだことを思い出す第5話がユニークで、ちょっとほのぼのさせられた。

長身の小栗旬青木崇高がコンビを組む割にアクション・シーンは少なかったが、第5話で車のボンネットを飛び越える場面がかっこよかった。幽霊となったクドカンが佇んで「かっこいー!」とつぶやく場面がなんともシュールで笑える。

基本的にはエンタメ・ドラマではあるが、「法執行者はいかに行動するべきか」というテーマが何度か投げかけられる。第3話の自警団の言い分を聞いて「見逃してやれよ、石川!」と思ってしまう自分はこの手の仕事についてはいけない人間なのだと再確認した。第7話では、犯人に決まっている学生を逮捕したい石川の行動が"正義の暴走"であると明言される。「あなたにドン引きですよ。頭冷やしたらまた会いましょう」と言い捨てて立ち去るスズキ。「事実と違うかもしれない情報を拡散しろってこと? (そんなことはできないよ)」とコンピュータの電源を落とすサイモン&ガーファンクル。滝藤賢一野間口徹、浜野謙太が裏社会のプロを楽しそうに好演。
最終話で「今度、仕事抜きで飲みましょう」と誘う赤井。死亡フラグかと思いきや、べつにそんなことはなかった。毎回ちょこっと出てくるバーテンが渋い。山口祥行はVシネのスターとして、『たけしのこれがホントのニッポン芸能史』の名悪役編でインタビューを受けていた。WikiによればJAC出身とか。次は刑事役で拝みたい。

クドカン以外で印象に残ったゲストは第7話の神坂(中村達也)。かなり手ごわそうな裏社会の掃除屋だった。石川と格闘中、「元気がいいね、男の子はそうでなくっちゃ」とのたまう。金城氏はこういう台詞のセンスが抜群だ。
安藤(大森南朋)は最終話にふさわしい悪党だった。BORDERを越えて向う側へ行ってしまった石川は結局安藤に負けたわけだし、あそこで安藤を殺さなかったら次の被害者が出たわけで、どちらにしても勝ち目のない相手なのだった。

悪党面の遠藤憲一が年相応の腰痛に悩む良識的な班長にはまっていた。北見敏之は「ああ見えてじつはいい人」ではなく、やっぱり汚れた人の役だった。でもまあ、たいした高級取りでもないのに責任だけは重い仕事についた人がああなってしまうのも、わからないでもない……と思ってしまう自分はこの手の仕事についてはいけない人間(以下略)。

特別検視官役の波瑠は――あのミニスカートがキャラを引き立たせるのに最善なのかどうか疑問だが――徹頭徹尾冷静で石川のちょっと変な行動に気づいてしまう仕事仲間として光っていた。「言ってごらん」の台詞があんなふうにしっくりはまる女優はなかなかいないのではないか。

青木崇高は民放には居場所がないかと思っていたのだが、この手の男のドラマが増えて行けば、彼の民放での出番もふえていきそうだ。
当て書きとはいえ、主演の小栗旬は"死者が見えてしまう男"を説得力をもって体現。過不足のない苦悩の表現がすばらしかった。

テレ朝は報道が低レベルでときどきよいドラマを作るところがなんだかNHKの亜流みたいだが、今後もこの手のミステリを作ってくれるなら、ときどきチャンネルを合わせたい。