連ドラを整理
土曜深夜『ブレイキング・バッド』(AXN HD 海外ドラマ)
うだつの上がらない化学教師が自分の余命が短いと知り、家族のために麻薬製造でひと山あてようともくろむが……。疾走するトレーラーハウスと宙を舞うズボン――シュールな冒頭からぐいぐい惹きつけられる。
スピンオフ『ベターコール・ソウル』は一瞬も目の離せないオフビートなピカレスクロマン&兄弟の愛憎劇だった。本編『ブレイキング』再放送スタートが予想外に早い。とうぶんの間、これが週で一番の楽しみになりそうだ。舞台がニューヨークでもロサンゼルスでもない、砂漠がちのニューメキシコだからこそ漂う主人公たちの孤立感や虚無感も今作の特徴である。
高校教師ウォルターは頭脳は人並み以上だし悪人でもないのに、肝心な時に誤った選択をしてどんどん深みにはまっていく。相棒の麻薬の売人はあくまで小悪党止まりで、思慮が浅いだけで根が残忍なわけではない。だもんで、死体処理にさいしてとんでもないことをやらかす。事前の警告は出たものの、第3話にしてかなりグロいシーンが出てきて少々閉口した。死体の原形をとどめていないからまだいいようなものの……。
時系列がシャッフルされるところはクドカンを彷彿させる。シリアスな展開のあいまに、ウォルターの女房から見当はずれな苦情を持ち込まれた小悪党が、どぎまぎしながら「わわわかったよ、もう大麻は売らない」と返答する場面などまるで落語である。
字幕版では、フォーレターワードが出てくるたびに音が消えるのが気持ち悪い。2008年初放送時よりいろいろうるさくなってきたから、編集を加えたということか? アメリカで放送する際はPG-12指定でもすればよいのに。「お下品な台詞はNGざます」みたいなクレーマーはこんなドラマを視聴すること自体が大間違い。
なかなか麒麟がこないうえに、穴埋めの『くるまでお待ちください』に大河ファンに人気の『風林火山』を出さず、『利家とまつ』とか『秀吉』とかやってるので、しばらく日曜夜はNHKから遠ざかっていた。だが27日の撮影の舞台裏特集には大満足。撮影班に往年の活動屋気質が残っているようで、なんだか安心する。いだてんと並走しながら撮影するカメラマンさん、お疲れ様です!
日曜夜『サバイバー:宿命の大統領』シーズン2(スーパー! ドラマTV)
13話からは木曜に放送。
ことの軽重がわからないリベラルという感じで好感が持てなかったカークマンの女房。しかし交通事故であっけなく死んでしまった。しかも闇の組織の陰謀なんぞでなく、ただの道交違反野郎のとばっちりを受けただけという展開も意外である。
有能な側近たちはカークマンと一緒に感傷に浸ったりしない。アメリカの代表団がキューバのテロ組織に拉致された時も、「最初から犠牲者ゼロをめざしたら、一人も救えない」と大統領の優柔不断を(裏で)責める。カークマンはセラピストから「自分のネガティブな感情を未解決のままにしておけば、政務も解決できなくなる」と諭され、あっという間に目が覚めて、軍事行動で人質を救う準備を命じる。ポリコレに汚染されて末期症状などと言われるアメリカのエンタメだが、このあたりの価値観は日本などよりはるかに健全なままである。カークマンの家庭の事情については、比率低めにやっていただきたい。やたらと身近な人間の神経をさかなでするが、世論の動向は抜群に読めるリオ・ブーン政務官の造形が愉快だ。雇いたての部下とどんな活躍を見せてくれるかに興味津々。
今週月曜~木曜夜『ホワイト・ドラゴン』(AXNミステリーHD)
英国サスペンス。香港で死んだ妻は重婚者だった! 彼女は都市開発の闇に飲み込まれたらしい……。アジアを舞台にした英米のドラマにはいやな感じのコロニアリズムが臭う時がある。今作はまだなんとも言えない。真相を求めて路地裏に足を踏み入れる大学教授マーレイがなかなか危なっかしい。領事館の職員を演じるエミリア・フォックスがエレガントだ。その上司役は、『シャーロック』の主人公の兄など食わせ物のエリートがはまるティム・マッキナリー。
木曜夜『BG~身辺警護人~』(テレ朝)
次が最終回。今年完走する希少な連ドラになりそうだ。井上由美子の脚本はほかの面々より格上という印象。娯楽の王道を行きつつも、妻を殺された直後に「ボディガードは儲かる。起業しよう!」と考える男を造形したり、新婚3ヶ月で夫を殺されたという女性に「酷い奴ですね」と尋常でない慰めの言葉をかけたり、今日日貴重なオリジナリティを発揮している。米国ドラマの”敵を倒すための”アクションに比べると爽快感はないものの、日本的な”攻撃者の動きを封じるための”アクションはよりむずかしそうで見ごたえがある。父と息子だけの家族を描くのは珍しい? ウン十年前のアメドラでは、母親が死んだ家庭で、父親が理性で子供たちを導くみたいのがけっこう多かったが、日本ではそれはウケないだろうなぁ。
木曜夜『アンサング・シンデレラ』(フジ)
家庭内平和のために最後まで見なければならない。はつらつヒロインが時に越権行為すれすれをやらかすのは、昔からあるパターンだが、二十歳やそこらじゃない、中堅と言っていい人がそれってどうなのか。薬剤師はAIに脅かされないのか、そういう視点のエピソードはなさそうだな。たいそうドライな副部長は実はシングルマザー? 家では泣いてますみたいのは勘弁してもらいたい。
荒俣宏の解説だけを楽しみにしていたが、本編のてんやわんやもおもしろい。CGも進歩したものだ。若手が意外と粒ぞろい。岡田健史が吉原に人探しに行ったのに、女たちに手を引っ張られてにやけちゃうみたいな芝居がうまくて笑える。平尾菜々花は『悦ちゃん』に続いて、頼りない男にはっぱをかける役柄をこなす。太い声が独特だ。いつか蒔田真珠と姉妹役をやっていただきたい。二人とも芸達者だし容貌も似通っている。
金曜夜『ディア・ペイシェント』(NHK総合)
誠実で好感が持てる作りだし、貫地谷しほりはあいかわらずうまい上に、ちょいと痩せてきれいになった。けれどキャパオーバー気味なので1話のみにて視聴打ち切り。いつか再放送を見るかもしれない。初回、わがまま親父が妻に「何もしてやれなかった」と言った。こういう展開、日本のドラマではもう食傷気味である。妻には横柄な態度を取ったことだけ詫びればいいので、「何もしなかった」は過剰謝罪でよろしくない。何十年も妻子の生活費を稼いできたのは立派な家族貢献である。労働を小ばかにした一部主婦およびその予備軍をこれ以上調子づかせてはならない。
金曜夜『MIU404』(日テレ)
野木亜紀子が原作を脚色した『重版出来!』にはいたく感動したのだが、オリジナルのこのドラマにはうっすら嫌悪感を持つ。『アンナチュラル』も友人が推すほど乗れなかった。大マスコミの主張と同じことをキャストに言わせて、それで骨っぽいってか? 大手芸能事務所や新聞社テレビ局に横行するセクハラパワハラを描く方がよほど難しいはずだが、そっちに手を出すとは思えない。エリートの九重をコケにするのもやな感じと思ったが、とちゅうからテクノロジーに詳しい現代っ子ならではの活躍をさせたから、まあよかった。『BG』といい『MIU』といい、主人公の気になる女性が、都合よく夫を喪っているというパターンはドラマ界のブーム? ストーリーを一ひねりするあたりはうまいと思うけれど、『ブレイキング』のレベルに達するのは想像できないず、キャパオーバーでないとしても、脱落決定。