『天使にリクエストを~人生最後の願い~』折り返し地点通過

大森寿美男のオリジナル作品となれば、見ないわけにはいかない。
この人が手がけた土曜ドラマは2005年以降、コンプリートしている。なかでもオリジナル作品『TAROの塔』、脚色作品『クライマーズ・ハイ』、『55歳からのハローライフ』、『64(ロクヨン)』の四作は人間の真髄に迫る傑作である。

今のところ、上記の大森作品ほど心を鷲掴みにされていはいない。探偵ものにぴったりな軽快なテンポの河野伸の音楽と、依頼人が聴きたがる歌の使い方がもっとも印象に残る。第2話『捨て子ブルース』では、ごひいきの『アカシアの雨がやむとき』が流れて少々興奮した。六平直政暴力団の組長を演じていたが、すべてを飲み込んで実母のためにふるまう芝居にしみじみとさせられた。携帯電話をいったん顔から遠ざけて「ありがとう」とつぶやく場面は、六平史上最高にかっこよい!

第3話『貧民協奏曲』で流れた『生活の柄』は初耳。爆弾による犯罪が未然に終わった武村にむかって「駄目な人間なんかいない」と言うのはまあいいが、おおぜいの人を殺傷した武村の昔の相棒はクズである。大森氏は団塊の世代ではなく1960年代後半生まれだが、まさかあの世代の思想に少々憧れちゃってる??
後期高齢の俳優陣が健在ぶりを示しているが、中年以下も健闘。志尊淳はわざわざお目にかかりたい俳優ではないのだが、NHKに大事にされているようで、かなり幸運な若手ではないか。上白石萌歌が予想以上によい。道を踏み外す直前に救われた過去があるなんて設定だと、オーバーアクトになりがちだが、よけいな力が入っていないし、武村に対するかたくなな感情の見せ方にも説得力がある。HP上の鼎談で脚本家が「上白石さんにはクラシカルな魅力があって、初々しいけど修羅場をくぐり抜けて来た感じが自然に出てくる」と語っているが、お世辞ではなく本音だろう。
探偵の島田は、ハードボイルドの主人公として定番の十字架を背負っている。が、そこに焦点を当て過ぎない匙加減が好もしい。