今年の拾いもの

*ハードボイルド百花繚乱
とはならず、『ロンググッドバイ』は演出家の好みが暴走した珍品、『MOZU』は後半脚本が迷走して惜しい作品となってしまった。それでも、前者は映像美が記憶に残るし、後者はスタッフ、キャストの思い入れが熱く伝わってくる意欲作だった。まだまだ守りに入るまいとする人々がいるのは心強い。
ハードボイルドとして作品の質、主演の好演が両立していたのが、『鬼平外伝 老盗流転』(橋爪功)、『霧の果て 神谷玄次郎捕物控』(高橋光臣)、『リバースエッジ 大川端探偵社』(オダギリジョー)。よい俳優を生かせるのは、やはりBSか深夜ドラマだ。ひょうひょうとしたオダジョーと、なかなか腹の底が読めない石橋蓮司の演技の応酬が楽しかった。石橋だけは同時期複数作品に出ていても、もう飽きたと思わせない。

*お初の男優女優
そのへんのお姉ちゃんではなく、格を感じさせる若手が出てきたのが望外の喜び。しいて言うなら、月下の蘭のような美女が野々すみ花。陽性の大輪の花が早見あかり。『マッサン』に登場した瞬間から、早見の美貌には惹きつけられた。おおかたの森博嗣ファンに「最初からアニメだけにしときゃよかったのに」と思われた『すべてがFになる』だが、早見が十九歳にして天才・真賀田四季のオーラを醸し出したことだけは、作品の収穫と言える。

*ベテランだけど
竹野内豊の映画を見たことはあっても、ドラマを見たのは初めて。『素敵な選TAXI』はバカリズムのウィットに富んだ脚本、緩急自在の演出、明るい音楽で楽しませてくれたが、びびり体質でなにかと小さいところがある枝分さんを好演した竹野内の貢献も大きかった。キャストが泣いたり喚いたりしなくても、おもしろいドラマが作れるよい見本。正装して美女と洒脱なコメディをやってくれないものだろうか……ルビッチのリメイクかなにかの映画で。

*くせもの千葉哲也
敵役として出てくれば(『ペテロの葬列』、『吉原裏同心』)これほど生理的嫌悪感を催させる役者もなく、主人公の味方として出てくれば(『平成猿蟹合戦』)これほどしたたかな男の頼りがいを感じさせる役者もいない。『猿蟹』の、千葉と高岡早紀のコンビは、今年もっとも味のある大人の組み合わせだった。

*脚本家
大森寿美男木皿泉宮藤官九郎池端俊策の才能はいまさら語ることでもないが、福田雄一の活躍は予想を超えた。『私の嫌いな探偵』ではメタにおもしろがらせてくれたし、『アオイホノオ』では暑苦しく痛々しくもいとおしいオタクの青春喜劇で楽しませてくれた。