コメディ・ドラマ

『おしい刑事』
おもしろそうな企画だなあと思っていたのだが……演出のテンポがコンマ数秒、自分の生理と合わなかったらしく第一話でリタイア。

『大富豪同心』
豪商が財力に物を言わせて孫の卯之吉を奉行所に就職させる。お孫ちゃんは、賊を前にすると恐怖のあまり目を開けたまま気絶してしまう。気絶してるあいだに助っ人が現れて代わりに賊を打ち取ってくれたり、あるいは賊が勝手にオーラを感じ取って戦わずして平伏してくれたりする。なんやかやで卯之吉は同心見習いから同心に昇格。

『八重の桜』での気品ある松平定敬役が忘れがたい中村隼人が卯之吉を、神々しいような照姫役が忘れがたい稲森いずみが卯之吉に惚れる人気芸者を演じる。ばかばかしいようなお話だからこそ基礎がしっかりした役者がやってくれないと画面がしまらなくなる。卯之吉にいらつく上司役の池内博之、卯之吉を凄腕と勘違いして惚れ込む三右衛門親分役の渡辺いっけいも含めて、芸達者が揃っていて安心感がある。芸者・菊野が卯之吉に酌をする何気ない場面の、二人の所作の美しさに見ほれた。第五話はお気に入りの山田純大がゲストで〇!
今後、卯之吉が幼少期の記憶を取り戻すと深刻なムードになりそうだが、コメディとの塩梅をどうするのか興味津々。
脚本が小松恵理子……この人の作品はいつも苦手だったが、今回は原作と肌が合ったのか、手堅い作劇と感じる。
エンディングでは、竹島宏の『夢の振り子』に合わせて出演者たちが踊る。なんとも昭和な感覚で若者たちにどう受け止められるのか若干心配だが、楽しく笑って見終えることができるドラマが放送されて嬉しいかぎり。
他の作品と比べると、公式HPがおおぜいのスタッフをきちんと紹介していて好感が持てる。
中村隼人がバートラム・ウースター的な役回りで、和製ジーヴス・ドラマが作られたらおもしろそうだ、などと思ってしまう。

『いだてん』
コメディの一言では表せない多面的な傑作だが、あえて今回の記事に付け足し。
クドカンだから期待はしていたが、予想以上に中身のある出来で毎週楽しみにしている。クドカンの何がいいって、ちっとも偉そうにしないで、わずかな回数でマラソン選手にしかわからない喜び、苦しみ、地下足袋から今日のランニングシューズに到達するまでの細かい改良、応援する人々、白眼視する人々、資金繰りの苦労、四三の頑張りをたたえる人、四三に触発されて一歩を踏み出す女子アスリート、(日本ではあまり知られていない)ヨーロッパ人にとっての第一次世界大戦の重み等々、世界史におけるスポーツ史みたいなものをしっかり描き出していることである。大学の体育学部の教材にしてもいいくらいの内容ではないだろうか。
猪突猛進の四三を全身で演じてなおかつオーバーアクトをやらない中村勘九郎には毎度感心する。なかでも印象に残っているのは、愛妻に「帰ってぇ!」と言うタイミングとイントネーションの見事さ。そして、大学駅伝でよれよれでゴールした慶応の選手にかける「よくがんばった! (でも、8時間超のタイムに)遅か~! あ、でもよくがんばった」。
第21回『櫻の園』は、女子の環境を変えようとするとまっさきに反対するのは他ならぬ女性であることをきちんと描き、さらにおしとやかで競争なんか嫌い! ふうの令嬢たちも、同輩が喝采を浴びると俄然競争心を芽生えさせてしまう、みたいな展開を温かなユーモアを交えて描いて秀逸。オリンピック選手にとってのスポーツは、記録向上には苦しみがつきものという世界。だが、今回の女学生の姿を通して、まずは体を動かすことで解放感や幸福感を覚えるのもスポーツということを教えてくれる。
史実からおもしろいネタをたくさん拾ってきたスタッフが、なぜわざわざ家庭とスポーツの両立を勧める開明的な男を創作したのかよくわからない。(当時、高等師範を出たような女性の嫁ぎ先には姉や婆やの類がいるのが普通で、家事育児と家庭外のアレコレの両立がたいへんというより、両家の奥様は家にいるべきという世間の目が問題だったと思われ)が、五りんの「今まで出てきた男ときたら、飲む、打つ、買う、走る」は爆笑ものの台詞であった。

愉快な映画を連発してきた大根仁が演出をやってくれるとは、なかなか贅沢な日曜の晩である。