『散り椿』(監督:木村大作)
ストーリーに関するネタバレはほとんどなし。
木村監督による美しい撮影、だれない演出、岡田考案&実演による見事な殺陣、十六頭立ての馬の疾走シーン。
オールドファンには嬉しい時代劇だった。主人公の妻の真意を解き明かすミステリ映画にもなっている。
「これは死亡フラグ!」と思わせて、そうではなかったくだりにわくわくした。
葉室麟の原作は未読。監督は込み入った原作を少し簡略化したらしいので、原作ファンがどう感じるかはわからない。
冒頭の会話がなんとも説明的だなぁと思っていたら、「脚本:小泉尭史」の文字……だが説明過剰と感じさせたのはほんの数か所だった。海外の映画祭に持っていくならあれくらいがちょうどいいのかもしれない。
キャスト、スタッフ全員の名前が本人の手書きで流れる。ネットインタビューを読む限り、監督の意向のようだ。こういう試みは、いつも裏方に徹するスタッフの励みになりそうだ。
殺陣はやや変則的ではあるが、『るろうに剣心』のようなハリウッド的アクションに比べれば、正統派の邦画チャンバラに近い。使われる小道具が重みの感じられるタイプの剣でよかった。岡田氏の敏捷性と筋力すごし。欲を言えば、ヤクザなキャラクターではないのだから、歩くときあんなに肩を上下させないほうがよかった。
新兵衛と対等に切り結ぶことができる采女を演じたのが西島秀俊。殺陣もハイレベルだったし、演技のほうも上手さを感じさせる点では過去のベストに近い。何を考えているかつかみにくい人物を演じるのが一番合っている。
道場主を演じた柳楽優弥も、軽すぎず重すぎずよい塩梅。緒方直人演じる三右衛門がことのほか渋い。
たまに篠の表情が姦婦っぽく見える瞬間があり、気になった。あえての絵作りなのか?
加古隆の音楽は美しいけれど、のべつ流しすぎ。
冒頭の雪の場面が画面白すぎ(オモシロすぎではなく、ガメンシロすぎ)! ところが芝居場の雪は作り物、本物だったら隙間がまったく"ない"とかで、北陸の冬の厳しさがしのばれる。夜間の立ち回りもひじょうに暗い画面だったが、ぎりぎりでシルエットを見せるところが木村的なこだわりなのだろうか。
富山、彦根、松代などのフィルムコミッションが協力したよし。監督によれば「時代劇を富山で撮るのは邦画史上初」。これからもっと富山で撮ればよいのに!
直前の予告で何本か邦画が写ったが、あまりに主役がかたよっている。小栗旬も岡田准一もいい俳優だが他にも人材はいるだろうに……。