『空飛ぶタイヤ』(監督:本木克英)

原作未読。
WOWOWドラマの出来を超えるのはむずかしそうだけど、主演が長瀬智也氏ということで少々興味を持って鑑賞。極私的にはWOWOW超えの要素はごく少なかったものの、まっとうに戦う者が勝利するジャンルの邦画としては良作の部類と感じたし、クライマックスでは予想に反してウルっときた。漫画原作やお笑いやウジウジ言い訳がましい映画に飽きた人がつめかけてくれると嬉しい。

WOWOWがすごかったのは全5回、"どの立場の人間も守るべきものに(おおむね)真摯に向き合っている"ことを公平な視点で緊迫感を失わずに描き切ったところである。映画版には悪代官と善人みたいなわかりやすい構図があり、ところどころ民放2時間枠のワイド劇場とかサスペンス劇場みたいな味付けがほどこしてあった。もしも原作がTBSドラマの『半沢直樹』のようなノリだったとしたら、WOWOWより映画のほうが原作に近いことになる。赤松パートの演出はどっしりシリアスで引き込まれた。

本木監督はときどきつまらないものも作るが、近年は快作『超高速! 参勤交代』を撮ったし、傑作『神谷玄次郎捕物控』(BSプレミアム)も手がけている。『タイヤ』は緩急自在な2時間であった。

藤澤順一&長田達也の撮影・照明コンビは『舟を編む』以来? ときどき画面が黒っぽくなりすぎたのが気になる。

以下、ゆるいネタバレ。

 

 

*ほんの1分程度とはいえ、運送会社数社を映していた。メジャー映画だから予算組んでセットを作ったのか、実在の会社をちょいとお借りしたのか、少々興味がある。
*どこかお人形っぽいイケメンの沢田が最初からいい人ではなく、言うことも二転三転するところがおもしろかった。最後まで赤松と馴れ合わない展開は粋である。
*エンドロールに入る直前、歌が流れそうな予感が。えええ、こういう映画に○ャニーズのお歌は合わないよ! と思っていたら、桑田佳祐の声が聞こえてきた。説明的な歌詞が今の時代に合うということなのか……正直、歌詞ぬきで音楽だけにしてもらいたかったが、有名ミュージシャンが関わることで宣伝のプラスになるなら、まあ仕方ないかなというところ。
*長瀬氏のこういうキャラを見るのは初めてだ。冒頭は心の中の阿部サダヲが「おいおい、黙ってるとうっかり賢そうに見えるじゃねえか」(『タイガー&ドラゴン』)と言い出しそうになったが、まもなくまじめに集中して見始めた。誠実なよい演技だったと思う。
*作り手の狙い通りではあろうが、高幡刑事の騒がしさも狩野常務のワルそうなにやけ顔も大衆芸能しすぎ。
ホープ銀行頭取を津嘉山正種が演じるとは! 出番は少ないながら「チェックメイト」よりは長い台詞を言ってくれて嬉しかった。
WOWOWより味があったのは赤松の妻のキャラ。深キョンが演じることもあり、明るく強くチャーミングな奥さんだった。彼女の、いじめの容疑者に一人一人当たってみる戦い方は、のちの赤松の行動の引鉄となる。
*『超高速! 参勤交代』シリーズの面々が、わかるだけでも6人出演。監督と相性がいいのだろうか。和田聰宏がいつもながらずるがしこいキャラを好演。
*門田を演じた安倍顕嵐はエグザイル系かと思ったら、まったく予想外の所属であった。この人も好演。