『全力失踪』最終回

「人は絆がないと生きられない云々」のあたりで「嶋田うれ葉、お前もか」と少々がっくり。が、D本がない! 以降の怒涛の展開には心躍った。妻の行動はまったく予想がつかず、嶋田氏に脱帽である。

未練たらしく東京にもどる磯山。「新婚時代の聖子が忘れられない」ならともかく、露骨に夫をATM呼ばわりする7年前のイメージが消えないまま帰宅する心理は少々解せない。磯山に文句を言いながらきっぱり離婚しない聖子は「潔くない、自立心がない」印象だったが、7年のあいだにパン作りを学んで店まで持ったのはあっぱれ。

聖子が結婚をあせったのは不倫相手の子をみごもってしまったからかと勘違いしていた。とんだ邪推である。
スケコマシの芹沢は完全退場かと思いきや、7年間聖子とつきあい、店の経営を応援していたとは! 見かけによらず粘り強さも誠意もある男である。
金貸しのキャラ造形がじつに斬新で、彼とななみの迷コンビはもっと見てみたいほどだ。鉄オタやってる時のほのぼのしたムードがおかしい。終わってみれば心からの悪人は一人もいなかった。(序盤の詐欺グループをのぞく)
見ようによっては"詰めの甘さ"が共通する男三人で店がどうなるか心配である。ななみがビシビシ鍛えてなんとかなるのだろうか。人件費は……とか突っ込んではいけないな。

追い詰められた男の逃走劇だが、湿度過多にならずスピード感がある好もしいドラマだった。
原田泰造をはじめとして芸達者ばかりなのも、BSプレミアムならではか。高岡早紀釈由美子のような色っぽい美人の使い方もしっくりきていた。行く先々で受け入れられる"流れ者"磯山。温かい人間模様が押しつけがましくなくてよい。プロレスの団体はいい奴ばかりだったなぁ。

全体に苦みと甘さの塩梅よし。
失踪取り消しなど一般人にはなじみがない各種手続きの紹介もおもしろかった。