『ハードナッツ』と『ドキュメンタリードラマ~全身編集長』

この二つを併記するのもどうかと思うのだが、BSプレミアムという共通点があることはあるので……。

ハードナッツ
毎週日曜夜10時に放送中。8回連続で、あと2回で終わり。この局は、無理やり3ヶ月連続みたいな決まりを作らず、作品にふさわしい長さで放送するのがいい。
内容は、『ガリレオ』より『ガリレオ』っぽいというか、数学科の女子大生が若い刑事の邪魔をしたり協力したりしながら、探偵ごっこに興じるミステリ。数学科を出た視聴者が見たら、あれこれアラが気になるだろうが、自分のような門外漢にはそれらしい雰囲気だけでじゅうぶん。オリジナルでおもしろい作品は珍しいと言っては失礼で、蒔田光治はすでに実績のある脚本家だったようだ。ストーリーもさることながら、光をあてたステンドグラスを思わせる画面作りが美しい。撮影照明とともに、BGMをほとんど『くるみ割り人形』に限定しているのも、透明感とかわいらしさのある若い女性主人公の活躍に合っている。
スタッフワークが"BS>民放"なのはまあ当然として、主演俳優の容姿までこんなに差がついていていいのか? 橋本愛と高良健吾ですよ! これほど「若く美しい」という形容が当てはまるコンビは地上波には見当たらない。橋本愛嬢は、やや素っ頓狂な数学少女を好演。この人なら森博嗣のSMシリーズをやれるかもと思わせる(BDSMのSMじゃなくて、犀川萌絵の頭文字)。犀川やれそうなのは十年前の吹越満くらいだが。彼女も高良氏も伊勢谷友介と同じく、連ドラで安売りせずテレビの仕事はほぼNHKとWOWOWに限定している。本人が賢いのか事務所が慎重なのか……。そういや高良も伊勢谷も白洲次郎を演じていた。

『ドキュメンタリードラマ~全身編集長』
80年代前半、伝説の雑誌『週刊プレイボーイ』を盛り上げた編集長・島地勝彦と彼を取り巻く男たちの物語。若者がノンポリになった時代、島地は車やファッションで男の欲望を刺激し、売上部数100万部を達成するも満足せず、「新しい文化を作る」ために開高健のような一流文学者たちに『人生相談』欄の担当を乞う。わずか1時間ながら密度の高いドキュメンタリードラマだった。
印象に残った言葉
*あなたは人を狂わせる天才ですよ(部下が島地に)
*人生は、冥土までの暇つぶし。だから極上の暇つぶしをしようじゃないか。
*人生は恐ろしい冗談の連続
*人生は運と縁とセンスなのよ
*どんな人間にも怪物性がある
*食欲、性欲は灰になるまで……残酷だけど

島地氏は現在、好きな本と酒に囲まれ、編集者時代よりはのんびり暮らしているようだ。最近バーを開き、新人エッセイストとしても仕事をしているとか。エッセイを読みたくなった。
ドラマパートで島地を演じたのは新井浩文。彼のような目つきの悪い俳優(←褒め言葉)を主演にすえるのもBSならでは。今後もメインは映画、テレビ出るならBSで活躍してほしい。人たらしぶりに垣間見える狂気が彼ならでは。バーのマダム役は堀内敬子。この人、何やらしてもうまいな。