師走の時代劇

今年はBS時代劇『神谷玄次郎捕物控2』(高橋光臣主演)がダントツ、あとは木曜時代劇『まんまこと~麻之助裁定帳~』(福士誠治主演)くらいか……と思っていたら、今月は予想外の時代劇サービス月間だった。来年公開の映画『真田十勇士』(堤幸彦監督)では、舞台版にひきつづき高橋、福士両氏の活躍を拝みたいものだが、まだ出演の有無がわからない。

11月29日『必殺仕事人2015』(フジ)
師走に入ってから録画を視聴。『必殺』シリーズはほとんど見ていないので、今回の出来が水準以上なのかどうかわからないが、緩急自在で2時間飽きさせない娯楽作品だった。脚本が寺田敏雄、演出が石原興なら納得。だが石原演出でもBS時代劇『一路』終盤の殺陣は締まりがなくてがっかりした。今回の殺陣シーンの成功は東山紀之松岡昌宏、知念侑李の技術があったればこそ、ということか。J事務所には悪い印象のほうが強いが、構成員(?)に殺陣や日舞を仕込む方針は今の芸能界の救いになっているので、そこはありがたい。中越典子はすっかり時代劇の顔。おまけに毎度いい男の相手役だな! 泣きぼくろのお宮を演じた山本美月はたいへん可憐で好印象。エンケンはあれで退場だったらもったいない。

11月25日~12月9日『藤沢周平の人情しぐれ町』再放送(時代劇専門チャンネル
最初の2回を見逃したが、1月6日からまた放送するらしい。1話完結のオムニバス形式で、しぐれ町の人間模様を描く。ここ数年の時代劇にくらべると少々きわどい表現があり、たった14年でここまで変わるかと驚く。亭主の浮気に腹を立てて家出した女に向かって、飲み屋の女将が「男なんてそんな立派なもんじゃないんだよ……女だってそうさ。あたしは四十のころ矢も楯もたまらなくなって浮気したけど云々」と語る。こんな大人の台詞を総合ドラマで流すのは、2015年では無理なのか。

4、5日『大江戸事件帖 美味でそうろう』(BS朝日
食にくわしい瓦版屋、柿江新平太が味覚と知識を生かしてお江戸の難事件を解決する。高級感はまったくないし、粋でもないが、サスペンスとカタルシスと人情劇がうまく組み合わさったよいエンターテインメント。ちょいちょい円楽が出てきて江戸の風俗について講義してくれる趣向も愉快。なぜ地上波でやらないのか不思議なレベルだ。二日目後半のくどい「庶民」連呼はやや興ざめ。楽しいお話にプロパガンダ臭を持ち込みなさんなって。

6日『冬の日』(時代劇専門チャンネル
1時間未満のドラマなのに、主人公がいじめられる場面に何分割いとんのじゃ! と思ったら、敵役に啖呵を切るシーンがあってスッキリ……だがそのままではすまされず。踏んだり蹴ったりなイメージが強く残るのはなんだかなぁ。エンディングも「それですむのか?」と疑ってしまったし。梅雀を主演に据えるなら、もうすこしよい原作がありそうなものだ。それでも、幸薄い人生を送ってきた男女が心を通わせる場面はしみじみとさせた。ときおりアップになる、二つのかわいらしい地蔵が幼いころの清次郎とおいしを彷彿させる。身を持ち崩したおいしが清次郎と再会した瞬間のたたずまいが絶品。濃い目の化粧としたたかな水商売女の仮面の下からのぞく、悲しみとあきらめと懐かしさに弾みかける心。いまのところ、わけありの妖艶な年増をやらせたら、高岡早紀にかなうものなし、か。

本命は18日の『鬼平SP』(フジ)。19日には『佐武と市捕物控』(BS日テレ)。30日の『誕生! 廓の用心棒~帰ってきた吉原裏同心~』(NHK)は、昨年の『吉原裏同心』のつぎはぎ? NHK正月時代劇の宣伝として機能しますように。