『ペペロンチーノ』

宮城発地域ドラマ。NHK民放を問わず、地域発ドラマって当たりが多い、とあらためて思わされる。中央発より資金面では不自由でも、アイデアは自由に出しやすいのだろうか?

東日本大震災からちょうど10年目に、イタリアンレストランのオーナーシェフ小野寺は、友人を宴席に招く。

一番心を打たれたのは「俺は被災者じゃない。俺は料理人だ」という台詞。被害者のレッテルを自らはがそうとする人をも、外からはがそうとする人をも、潰しにかかるのが大マスコミだが、NHK仙台放送局は東京本社とは一線を画すらしい。

一色伸幸が脚本担当でなければ決して見なかったキャスティングだが、録画して大正解だった。

小野寺が料理で人を元気づけ、食べた人の反応が小野寺を励ます。酒に溺れた時には同病(!?)の医師がゴールを設定してくれたことで、禁酒に踏み出す気を起こす。人間関係の塩梅が心地よい。

わけありの医者がたいへん味わい深い造形。ポリコレ勢に噛みつかれそうなこと言ってるけど、これ落語じゃね?……と思っていたら、やはり落語の一節でひと安心。

ドラマは小野寺と妻、灯里の仲睦まじいなぞなぞで幕を開ける。その後、震災時から今日までの彼の苦闘が描かれる中で、「あれ、灯里がいるのになぜこんなことを?」と違和感を持たせるシーンがいくつかはさまれるが……クライマックスでその正体が明かされ、大きな感動を呼ぶ。そして小野寺を励ましたライターの小さな傷心も。

一色洋平は脚本家の息子さんとか。クドカンのドラマ『JOKE~2022パニック配信!』で見たはずが忘れていた。

作品の台詞はもとより、SNSでの発言などからお見受けするに、一色氏は日本の映画界ドラマ界に蔓延するバイアスからかなり自由なクリエイターのようだ。その点では橋口亮輔も貴重な映画人なので、橋口監督にもぜひ映画が無理なら地域発ドラマなどで仕事をしていただきたい。