『西郷どん』第三十二回『薩長同盟』

二月で早々に挫折したにもかかわらず、役者だけは見逃してはもったいないという風評につられて今月からおめおめとカムバック。一番よいのは撮影班という印象だ。富貴が部屋にたたずむ光景はいつも美しいし、室内の対話場面など音を消していたらまるで重厚な大河みたいだ。問題がある脚本を他のもろもろの要素がある程度補った大河といえば『平清盛』がある。音楽が圧倒的によかったし――「蕎麦屋の出前を頼んだらベンツが来ちゃいましたみたいなアンバランスさ」と音楽担当者が自虐的にコメントしていた――スタッフの熱気が伝わってきたしよいキャストも多かった。主演は『西郷どん』の鈴木亮平氏が圧倒的に上である。それだけに、タミタミタミタミ言わされているのがとても気の毒。『清盛』は歴史を知っている視聴者を前提とした二次創作めいたエピソードがぶつぶつと出てきた。今年のは歴史を浅~くさらっているみたいだが、何を見せ場にしたいのかよくわからない。ちゃんと主人公が死ぬとこまでやってくれるのか心配になるスケジューリングだ。

ゲベール銃とミニエー銃の比較はおもしろかったが、ほんとにあそこまで威力が違ったのか? 弾の形を云々する台詞だけでなく、絵でもっとわかりやすく見せればよいのに。

大河ファンのあいだで一番人気の慶喜by松田翔太はたしかに魅力的。『八重の桜』の小泉孝太郎ほどホンに恵まれていないので、しばらくは"孝太郎の次に魅力的な慶喜"として記憶に残りそうである。いい人っぽく見せようとする(不要な)小芝居をしないところが偉い。林真理子の『正妻』に出てくる"貴人に情なしMAX"の慶喜をやらせてみたい。『西郷どん』原作は未読だが、林氏ならロッシュのどす黒い魂胆くらい描いていそうなのに、今作ではエゲレスの狙いは軽くスルーするのだろうか?

町田啓太演じる小松帯刀がちゃんと賢そうに見えるのが嬉しい。居ずまいの正しさがよい! 町田氏は最近の若手にはめずらしく(?)知的エリートをやれる人で、『ラストチャンス 再生請負人』(BSジャパン)でも好演している。NHKは各種歴史番組でも小松帯刀の重要性を説いているのに、この大河のなかでは下っ端の西郷に向かって「何も申してはなりません」などと丁寧な口をきいていて……作り手はご家老をなんだと思っているのだろう!? いつか大久保利通by町田啓太が実現しないだろうか。3話完結の『維新の男列伝』とかで。

『八重の桜』は前半は傑作だったが、玉山鉄二の扱いは惜しまれる。『薩長同盟』では、逃げの小五郎にしては武骨な魅力を感じさせた。再来年の『麒麟がくる』で大きな役がつかないものだろうか。

高橋光臣が予想よりしゃべらせてもらっているけれど、今のところはもったいない使い方と感じる。

「若者たちはとっくに助け合うちょる」と語る西郷どんは何歳なの? あの場の皆さん、若く見えるんだけど……。
「なにが薩長同盟じゃ、長薩同盟じゃないとぼくはいやだ」とのたまう人はいなかったのかしらん。