『どこにもない国』後編

山田純大が日系アメリカ人将校の役で出演。骨太の役者なので、BSあたりで準主役くらいはやっていただきたいものだ。「排日移民法と戦った方ですね?」。丸山氏の同胞愛や反骨精神を表す重要なエピソードなのだが……もともとこの法律になじみがある視聴者にしか響かなかったようでなんとも残念。

引揚船が出ると決まって男泣きに泣く三人組。役者の涙は安売りしないで、こういう設定にこそ使うべきなのだ。

丸山と新甫は吉田総理に直談判する。言葉で戦う丸山と、肉体を痛めつけられる武蔵が交互に映り、川井憲次のシャープなBGMが流れて緊張感を醸し出す。
"どこにもない国"に、満州の日本人が国を失ったのはもちろん、総理大臣にとっても表だって活躍できる国がどこにもない、という二重の意味を持たせたのところはさすが大森寿美男
老政治家をやり込めたつもりの丸山に、吉田は背中を向けて語り出す。「ここからは吉田個人の言葉だ。GHQはとっくにソ連と交渉していたよ。マッカーサーにとっても、あんたらの出現は都合が良かったんだ。ソ連の好きにはさせない、そういう機運を高められた。心配しなさんな。いずれGHQは操り人形にすると言ったはずだ。しかし君はよくしゃべるねぇ」。晩年の原田芳雄もそうだったが、アウトロー俳優だったショーケンが、総理大臣をやるとはねぇ……しかしショーケン、含み綿入れ過ぎ!
柴田恭兵はこんなにいいナレーターだったのかと思わされるドラマだったが、ここでのナレーションも印象深い。
――吉田はすでに大連などからの引き上げに関し、マッカーサー宛てに英語で書簡を書き送っていた。これより具体的な交渉に乗り出していくのであった。
面会終了時刻になったので呼び鈴に手を伸ばして、まあ少しは待ってやろうという大物政治家の余裕っぷり。吉田や佐藤栄作の尽力については説明台詞に頼らない演出で見たかったのだが、それこそ時間の制約があるから仕方がない。

武蔵釈放の場面。スパイ容疑が晴れたのは、事前に国民軍の将校に渡りを付けておいたから、という背景説明は、やはり時間切れで無理だったか。あるいは撮ったけど、やむなくカット?

一流スポーツマンとノーベル賞受賞者以外の同胞をなかなか褒めないのが日本のメディアだ。今回の、丸山邦男、新甫八朗、武蔵正道の知力、胆力、偉業を周知しようという姿勢はすばらしい。
NHKのことだから、立て替えた活動費のその後についてネチネチ語るかと思いきや、そこはスルーで意外。ヤルタ直後から、アメリカ上層部では満州がどういうことになるかわかっていたはず。米側が"温情"だけで引揚船を出したわけではないことは吉田の口から語らせたから単純なドラマにならなくてよかったが、それにしてもアメさんのやることはとんだマッチポンプとしか思えない。

内野聖陽はちょんまげのっける仕事ならなんの心配もないけれど、昭和ドラマだとどうかな……というのは杞憂であった。長台詞が時々舞台じみるところはあっても、オーバーアクトではない誠意のにじみ出る熱っぽいお芝居を見せてくれた。蓮佛美沙子はせっかく昭和顔なのに(?)ちょっと未来人ぽいふるまいをする場面があったりして、(脚本の設定が)期待外れ。この手のドラマに出てくるアメリカ人キャストがいつも代り映えしないのは、なんとかしてほしい。下手ではないけれど、「またこの人!」みたいなのが続くと少々興がさめる。

経世済民の男シリーズはもうやらないのかな? 大森脚本、内野主演で『渋沢栄一』とか、無理かなぁ~。