『破門 疫病神シリーズ』チャンネルNECO一挙放送

むっちゃおもろかった!
末廣健一郎の威勢のよいBGMが耳に残る。

黒川博行の原作(『破門』、『疫病神』)は未読。
2015年にBSスカパー!で連続放送されたのは知っていた。J:COMのおかげで2年後に拝めることができてありがたいことである。
ヤの字のお仕事の人がわらわらと出てくるし皆さん煙草をスパスパやるし、地上波ゴールデンの連ドラにできないのは当然と思うが、予想したようなグロさや怖さはなく、映画館でやるとしてもせいぜいR15相当シーンがほんの数分のみ。テンポがよくてハラハラドキドキ、桑原はときどき不自然と思えるくらい強い……と油断してると、瀕死でない重傷を負ったりする。そしてなんといっても桑原と二宮の漫才の笑えること笑えること。

二宮はちょっと頼りなさげなボンボンタイプの二代目社長。建設現場に妨害をしにくるヤクザを別のヤクザを使っておさえるのを"サバキ"と言うんだそうだが、二宮はそのサバキの仲介をして細々と食っている。彼のクライアントが担当する産業廃棄物処理場建設に二方面から妨害が入るが、なんと両者は同じ組の下部組織らしい……。
オールバックに縁なし眼鏡、黒のスーツにダークグレーのネクタイを締めた桑原が、高圧的な態度で二宮に手を貸す。"二蝶会のイケイケ男"桑原を、二宮は疫病神としか思えない。だが、桑原と一緒にあやういことをする瞬間の「ひりひりした感じ」に、二宮は憑りつかれていく。

複数の組織が入り乱れるストーリーだが、親切にも定期的に桑原が相関図を書いて説明してくれるので、視聴者は置いてきぼりにならない。二宮が敵方の隠し事に気づく瞬間の描写も簡潔かつ効果的。オラオラな雰囲気とはうらはらに、骨格は頭脳的なミステリドラマとも言える内容で、和製ドラマとしては上出来の部類ではないか。大型の廃棄場を企画するさい必要な各種手続き、立地条件、行政書士の役割など、こまごまとお勉強になった。

産廃問題解決後は、映画の出資絡みの詐欺事件が持ち上がる。
タイトルが盛大なネタバレなので、最終回がどうなるかはだれでも見当がつくわけだが、後日談が気になって仕方がない。『螻蛄』は2016年にBSスカパー!で放送済み。NECOに下りてくる日が楽しみだ。

名作の評判高い原作と優秀なスタッフ、キャストが幸運な出会いを果たした作品である。演出家の木村ひさし、森淳一、藤澤浩和が力を発揮して、8話通じて一度もボルテージが落ちなかった。脚本担当の酒井雅秋は原作の裁き方が見事なのだと思うが、どの台詞が原作由来でどれがオリジナルかは自分には見当もつかない。

濱田岳は何をやっても達者な脇役俳優というイメージだったが、今回は堂々のダブル主演。気弱で平凡そうでいて、賭けのスリルにかすかにニヤりとする表情などはさすが。下手すりゃ殺されそうな場面での「ぼくが貸した三万円忘れないでくださいよ」みたいなセリフに無理がない。堅気のくせにやっちゃいけないことをいろいろやらかすが、ともなく憎めない持ち味が最高に生きている。

北村一輝は大河『北条時宗』や映画『皆月』など強烈なキャラが多かったのが、近年は気弱な役おとなしい役もこなすようになった。が、今回の桑原は彼のベスト5くらいに入る好演というか、もっとこの手の役をやってほしい。強面とにやけ顔が絶妙に入り混じった表情で「二宮くぅん、君はほんまにあかんのう」みたいな憎まれ口をたたく場面には、今まで見てきたハードボイルドと毛色の違う味わいがある。アクションシーンは『CRISIS』の記憶が新しい今は絶賛する気にはなれないが、飲み食いしながらでも楽しめるエンターテインメントとしては満足の内容。ときどき漫画の静止画じみたポーズを取るところも含めて、なんとも魅力的なキャラクターを造形していた。


このスタッフ、キャストで『疾風の勇人』(大和田秀樹)を映像化してくれないかなぁ。『疾風』は宮澤喜一以外全員、実物よりイケメンに描いているので、今回のキャストでじゅうぶん賄えると思われ。広島弁をまくしたてる北村氏を見てみたい! もちろん池田隼人役で。