『ポリティカル・アニマルズ』全6回(AXN HD 海外ドラマ)

8月に再放送予定。

題名から『ハウス・オブ・カード』並みの獣の闘争ドラマかと思いきや、それ以上に理想の追求、公務と家族の幸福の両立の問題、政治家とジャーナリストの付き合い方、みたいなテーマに比重が置かれた盛りだくさんなドラマだった。

国務大臣の座に安住したくないヒロイン、エレイン・バリッシュを演じるのがシガニー・ウィーバー。若かりし頃は、お気に入りのコラムニストが「女だけど顔の作りが紳士」と表現したものだ。現在はさすがにちょっとおばさん風味も出てしまったなぁ……と感じさせる部分もあったが、ファイティング・スピリットあふれる女性政治家を好演している。かなり前のインタビューで「テレビはいちいち説明的な演技を求めるもの」と言っていたので、ドラマには出ない主義かと思っていたが、どんな心境の変化があったのだろう? エレインの元夫で女癖が悪く、だが本音では"エレインが一番"の元大統領バド・ハモンドを演じるのがキーラン・ハインズ。『裏切りのサーカス』の演技が懐かしいが、今回もタフな男を魅力的に演じる。ウィーバーと並んでも全然迫力負けしないところがいい。

このドラマにかぎったことではないが、成人男女の性欲や権力欲を"あるがまま"に描くのが米国ドラマの好きなところだ。それによって傷つく人がいるいない、というのはまた別の話。

バドがインタビュー番組で下品な発言をしたほんとうの理由が明かされる場面には、これが男気、深謀遠慮というやつかと唸らされた。

『ハウス』に続いて、今回もヒロインの母親を演じるのがエレン・バースティン。『ハウス』でのテキサスの名流夫人と『アニマルズ』でのショーガール上がりのマーガレット婆さんとでは、設定はかなり違う。それでも、胆が据わっていて娘の本質を理解していて、頭が切れるところは同じだ。
マーガレットは、パーティーで女記者相手に胸がすくような台詞を吐く。
「あなたのこと知ってるけど時間の無駄。あたし、しゃべっちゃいけないの。酔ってるか、正直すぎるか」「大丈夫、今夜は仕事抜き」「そう、仕事抜き? あなたボーイフレンドいる? (相手うなずく)そーなの、レズビアンかと思ってた。だってあなたってどんな相手にも取り入る。うちの子はそういうの下手。でもあの子は気骨があるのよ。それにあなたは性根が腐ってる。生意気な口で人さまの悪口を書きたてて、お給料を貰ってるんだもんね。でもボーイフレンドがいる、凄いじゃない! よほど男を喜ばすのがうまいのね」。しかし、言われたスーザンは実は仁義を知る女であり、根っから腐ってたのは彼女の後輩ジョージアなのだった。枕営業で先輩の男アレックスを寝取って仕事をもらい、さらに暴露記事を自分だけのスクープにするために"不適切な関係"を上層部に訴えて、アレックスを失職させる。「ジョージアみたいな女はいない」という女性視聴者の眠たいクレームで放送打ち切りなどとならなかったあたり、ポリコレにうるさいあの国もまだ健全な部分が残っているようだ。

で、くだんのマーガレット婆さんは、出来のいいほうの孫ダグラスのフィアンセが拒食症であることをいち早く見抜き、本音を吐き出させるために、マリファナ(? ともかくあまり強烈でないドラッグであることはたしか)に誘ったりする。この観察眼、交渉術。彼女も政治の道に進んでいたら大物になっていただろう。

ヒロインが、三十歳にもなろうかという息子の不始末に翻弄される設定は時世の反映だろうか。自立心が尊ばれるアメリカでも、日本並みに親離れが遅くなりつつある? この出来の悪いほうの息子TJにまつわる回想シーンががちょくちょく挟まれる。ぼんやり見ていると、過去だか現在だかわかりにくい場面もある。加入者8900万人というUSAネットワークで放送されたそうだが、ペイチャンネルならではの「ついてこれるやつだけついてこい」式の演出なのだろうか。

エレインはサミットに向かうガルセッティ大統領に辞表を渡す。追い落とそうとする相手であっても、「ご一緒できて楽しかった」と礼を尽くした文章をしたためる。ガルセッティは意外にも「僕らが組んだ方が国のためになる。僕の副大統領候補として出馬してほしい」と答える。彼は国難にさいして、最初はエレインと対立しても、彼女の案を受け入れることもあった。エレインの思いはじょじょに変わっていく。「私って、ダメな男のいいところを見つけてしまうのよね」。この台詞と、終盤の「私たちが思うほど酷い人間はいないのかもしれない」が印象に残る。浮つくことなしに、健やかな人間肯定の空気で終わるドラマにはなかなかお目にかかれないものだ。

ダグラスとアンの結婚式で、バドがイザヤ書を読み上げる。
「あなた方は喜びと共に出で立ち、安らかに導かれる。
山と丘は声を上げて喜び歌い、野にある木々も皆手を叩く」
美しい場面だった。

リベラル特有の独善性を免れないエレインが「アンは三々九度やりたいでしょ?! 多様な文化ウンヌンカンヌン」とはしゃいで息子にたしなめられる。「日系だからって日本絡みのネタを振るのは差別的だよ」。こういう"意識高い人たちが作る風潮"への風刺もじつに小気味いい。

これからは家庭を重視と言うヒロインを「国のために出馬してくれ」と説得するバド。ポジションを変えながらも、二人は終生よき戦友でありつづけるのだろう。

日本でもこういうのが書けそうというと、古沢良太がまず浮かぶが、現在『アイアングランマ2』の演出・脚本とも絶好調の飯田譲治も有望である。今年に入って一番スパイスの利いた台詞を聞かせてくれたのは、飯田氏である。

プロデューサーの一人が日系だからか、主要キャストに日系がいるうえ、それが不細工枠でないのが嬉しい。まあ、表情がちょっと硬いのが、演技指導によるものなのか、そうでないのかやや気になるが。アンを演じたブリタニー・イシバシがこれからもいい役に恵まれますように。
ヴァネッサ・レッドグレーブがエレインの恩師にして最高裁判事というのは、あまりなはまり役。