『1942年のプレイボール』だけおもしろかった件

前半愚痴注意。
お盆の番組というのはもともと日本人から思考力を奪うための企画であったが、今年は"今そこにある危機"が増しているにもかかわらずそれをやり続けている点が罪深い。しかも資金源は受信料。
NHKにはいったん始めるとやめられない習性があってWGIPを70年を超えてやりつづけているのか、それとも"中韓に捧げるバラード"のつもりなのか? 大差ないか……。
731部隊』は専門家に却下された古い説を出してきたそうで、見なくて大正解。
が、『忘れられた戦場~樺太40万人の悲劇~』は見てしまった。外国が協定を破ったことは咎めず、そこから生じる被害を必死で防ごうとした日本側を責めるのはなんなのか? ずっとアンバランスな報道姿勢をとってきたから、局内で疑問視する声もあがらないのだろうか。ペイペイの24歳児に制作を任せる"大人たち"の見識を疑う。ソ連軍が白旗掲げた民間人を射殺した件も、白旗掲げた民間船を撃沈した件もスルー。悪意があるというより、無知で無邪気だからふれなかった可能性が高そうなのがなんともかとも。
お年寄りたちはテレビに映るのが嬉しくてスタッフの誘導にしたがってしまったのだろうが、元兵隊が上官の意図を曲解させる発言をしたのはいただけない。
インフラを支える仕事に従事していた女性について、「ホッぽり出して逃げればよかった」みたいな言い方はあまりに失礼だ。24歳児たちは、学校で習わないから「ロスケ」という言葉を知らなかったらしく、ピー音もかぶせずに流していた。あとで誰かのお叱りを受けただろうか?
トータルで見れば北海道の恩人と言ってもいい樋口李一郎をdisりまくるあたりが一番醜悪だった。これでもし、声の大きな白人が「オトポールの恩人を忘れるな」と言い出したら、恥も外聞もなく『知られざるユダヤ人救出作戦』みたいな企画を立ち上げるにちがいない。

これでまた、「セ」と聞いたとたんに頭に血が上ってまともに物が考えられなくなる"中二"的大人子供が量産されたのならゆゆしきことである。
識者たちが「NHKはもうドキュメンタリーをやめたほうがいい」とおっしゃっているが、撮影機材だけはいいものを持っているので、海とか山とかイカとかもふもふの番組に熱を入れるのがいいと思われる。

『返還交渉人』は予告にうんざり、ナレーターも虫が好かない……時点でやめておけばよかったのに録画視聴。最後の新聞切り抜き連発が偏向報道の上塗りそのもの。地政学的な基地の意味を無視するのはあいかわらず。井浦新は肩に力が入り過ぎ。でも、ここ数年演じてきた純粋すぎて滅びゆく男だけでなく、目標に向かって邁進する外交官役もはまらないわけではないとわかったことは収穫だ。


『1942年のプレイボール』は誠実で温かいつくりの青春ドラマだった。
野口兄弟の野球人生のひとこまを、実話を交えて描く。ハーフフィクションと呼ぶ人もいるらしい。
冒頭から父親が次々と商売に手を出しては失敗するタイプだとわかる。が、親父は失敗を妻子にあやまるし、妻子もしょうがないなぁという顔をしながら大黒柱を愛している。
いいタイミングで何度もユーモラスなシーンがはさまるのが意外だった。目を吊り上げて作ってるのがわかる作品より、ゆとりや笑いがある作品のほうが豊かだ。
四人も男の子がいる家でなんで長男に召集がかかるんだ、不勉強か!と思ったが、あとで野口明氏は実際に1938~1941年に出征していたと知る。
念願があるていど叶い、三兄弟がピッチャー、キャッチャー、バッターとして介する場面は感動的。兄たちの必死のプレーをラジオで聞く渉の顔もいい。二郎は明を尊敬し、選手として立ち直らせ、恋愛面でも助言する。こうしてみるとデキスギ君のようだが、現実味のあるいい奴だった。母は明の体調の変化にいち早く気づく。仲が良くたがいに思いやる家族をさらっと描いていやみがない。

脚本担当の八津弘幸は『半沢直樹』を書いた人なのか! あんな暑苦しいシナリオを書かされた人でも、プロデューサー(吉永証)に恵まれれば、ほどのよい人情話を書けるのだ。中学で野球部を中退したとか。最後までがんばった自信満々のスポーツマンでなく、「うしろめたさを感じて生きてきた」(本人弁)人だからこそバランス感覚のある脚本にできたのではないか。
桑野智宏Dの作る画面にはなつかしい色合いがあった。安らぐ場面、不穏な場面。緩急自在であった。

太賀、勝地涼忽那汐里はこれからの歴史ドラマや文芸ドラマに欠かせない人材になるだろう。
太賀は土のにおいと知的な雰囲気を両立させた。首が太いのでスポーツ選手を演じて違和感がない。将来は剣豪の役などやってもらいたい。忽那嬢がここまで昭和の美人役をこなせるとは! (NHKドラマのメシマズ美人設定には少々あきてきた)
勝地のりりしい顔がアップになるたびに、家人が「クネオだ! クネオだ!」とはしゃいで茶化してムードをぶち壊すのがはなはだ迷惑。今回ばかりはクドカンがうらめしい。