『夏目漱石の妻』第1回『夢見る夫婦』
土曜ドラマをつまらなくするのは"仕事の邪魔しに出てくる妻"だし、『シン・ゴジラ』がおもしろかったのは「ゴジラとあたしとどっちが大事なのよっ!」みたいなことを言う女房族が出てこなかったからなのだが、池端俊策が書く話にかぎってはタイトルに「妻」がついても安心だ。
鏡子が楽しそうにしているシーンもつまづき連続シーンのほとんども、軽やかでモダンなソナタを添えて温かく演出している。清水靖晃のメロディーがどこで流れたのかわからなかった。リピートせねば。
そこまで登場人物をアップにしなくても、と思うこともあったが、動物的なヒロインの撮り方としてはおそらくあれがベストなのだ。骨太格調路線ならこの人! の柴田岳志が演出担当。野外シーンののびやかさや緑の美しさが印象的だ。
貴族院書記官長ともなれば立派なお屋敷に暮らしていること、おおぜいの使用人をかかえていることがちゃんと描かれていてほっとする。いいとこのお嬢さんがお嫁入りするときに、疑似家族のような女中を連れて行くのも、たんなる風俗紹介ではなく、漱石から見た「温かい中根家」の象徴となっている。
大量の家電製品と少ない子供に囲まれた平成の主婦より、子なしでも女中を一人置いただけの明治の主婦のほうが多忙だったはず。それでもワイドショーもスマホもない時代、さびしくて夫の職場を訪ねてしまう鏡子がかわいいというかなんというか……家族愛と無縁な漱石はまっとうに対処できない行動なのだった。
着物の良し悪しはまったくわからないが、鏡子がとっかえひっかえする着物本体だけでなく、半襟も目に楽しいものばかりだ。
漱石の偏屈ぶりも夫人のヒステリーも原因が解明されたのかどうか知らない。が、本作では、夫については生育環境、夫人については流産で説明している。夫人の入水騒ぎのあと、心配だから夜は手首を紐でつないで寝たエピソードはきっとやるだろうと予想していたのだが、そうではなく意外と甘い漱石の心情吐露でまとめていた。傷心の妻に語りかけているようでもあり、モノローグを語っているようでもあり、と感じさせるのが長谷川博己の真骨頂か。去年の主演男優賞は佐藤健(『天皇の料理番』)か玉山鉄二(『マッサン』、『誤断』)かという印象だったが、今年はハセヒロ・イヤーになりそうだ。未見の映画でも活躍したそうだし、『漱石』前夜はチャオのくせに倉木のごとく「本当の真実」を求めていたし、本作では最終回まで快調に飛ばしそうな予感しかない。