『MOZU Season 2~幻の翼~』Episode 5

コロー島についてのディスカッション・シーン。
「この先に、ロシアの施設があるんですよね」
「今は誰も住んでない無人島なんですね」
~ですね、~ですよねって、視聴者への説明のための台詞なんだが、脚本も役者の言い回しも、MOZUの世界観に合ってない。しかめつらしい顔の刑事二人が「仏壇セールって8月ですよね」みたいなしゃべり方をしているのだ。先週の倉木と百舌の対話シーンとちがって、コヒさんがひょいひょい瞬間移動したり、天井から羽を降らせるわけにいかないから、むずかしいところか。

津城が「その闇を覗いてしまったら、二度と後戻りできませんよ」と脅すように言うのだが、それほどのものとも思えなかった。じつは倉木を挑発したかったのか?

倉木も明星も、無根拠とも言える妻や父への信頼によって動いている。

雪の中を苦心惨憺進む倉木の前にあらわれる東。この人、車両免許をいったい何種類持っているのだろうか? ヘリの操縦もできるみたいだし。オメラスについて「そろそろ奴が入るころだ」と断言するのだが、どうしてそんな刻限を知っているのか意味不明。吹雪の中で舞台演技をするハセヒロ……めずらしいものを見せてもらった。

第二の室井をめざした池沢も殺されてしまった。結局、百舌兄弟に勝てないのが公安部長の運命だった。
いい場面になると出てくるななみちゃん……難度の高い仕事をしているのだから、ベテランらしさや暗い知性の説得力からいって(これこそ)奥貫薫あたりにやってほしかった。「ジャーナリストとしてあなたに復讐する」なんで記者ってのはいつもあんなにエバっているのだろう。

「この国の秩序を乱すものは許さない」という津城。「自分は目の届く範囲の人間を守るだけ」という大杉。津城がいなかったら、話がすごく幼稚になったと思う。倉木大杉明星トリオは、警察組織の幹部になるには視野が狭すぎる。

今回、一番印象に残ったのは、オメラス号(?)のなかで語る篠田三郎だ。優良照明スタッフが腕を振るったのも効いて、見ごたえ充分。美希が踏み込んでからのカメラを小刻みに揺らすやり方には、目がチカチカした。篠田氏は、年老いても渋い美声は衰えず。「外交の力学」の話はよかった。日曜夜8時の公共放送で聞けなくなってしまったたぐいの台詞だ。この場面、倉木がやや子供っぽく見える。脚本、演出、演技のいずれにもやや問題あり。優秀な捜査官だった明星がなぜソ連に寝返ったのか、とても大事な側面を完全スルーしたのは、大問題。

百舌が残すQマークみたいなのが百舌の羽だとは、うかつにも最終回まで気がつかなかった。

Season 2もSeason 1と同じく、倉木の妻恋いの記として終わった。映像的に優しいエンディング。ほんっとに配偶者以外はどうでもいい男であった――こういう人は公安にいるべきではないと思ってしまうが、今後は私情を捨てて任務に邁進するのだろうか。千尋が解放された理由も、グラークα作戦の核心も解明して安堵した。

『ダブルフェイス』もその気があったのだが、本来よりおもしろくなるべきペイチャンネルに移行してから物語が失速したのは残念だ。その一因が若い女優をねじ込んだ点にあるのが、『ダブルフェイス』との共通点。
百舌については津城同様「このまま消え去ってほしい」としか思わない。ななみちゃんも、もうけっこうです。四代目イワンは、娘を轢いちゃったりするのに、なぜ無言電話をかけつづけるのだろう。
「ダルマを使って隠蔽してください」と津城。なんなんだ、この気を持たせる台詞! でも、もういいです。

海外の諜報員ものと決定的に異なるのは、主人公側の人間にぜんぜん国家観らしきものがないところで、かなり私小説風にまとまってしまったのは、個人的にはものたりない。ダルマが多くの人間の夢に出るメカニズムの説明がなかったし、雫の死の真相もあいまいなままだが、このまま続けてもおもしろくなりそうもないので、Season 3も映画もやらないほうがいい。かりに羽住監督が続編を作るとしても、倉木と明星の結婚に持っていく気はなさそうだし。原作をいじった結果、よりスリリングになった点があったのだろうか……ひさびさに原作を読んでみようか。
かりにも諜報機関をあつかうドラマとして一番ダメだと思ったのは、ソ連に国民監視システムをのっとられたという事態に、誰もたいした危機感を示さないこと。

Season 2についてよかった点は、雪中ロケ、潜水艦のセット、大型トラックを暴れさせる無茶なカーアクション。
両シーズン通じてよかったのは肉弾戦の迫力。ストーリー展開はSeason 1のほうが緊張感があってよかった。濃密な映像を見せてもらえたから、トータルとしてはMOZUが制作されてよかったと思う。話のつじつま合わせや国家を俯瞰するスケールではNHKの『外事警察』におよばないものの、絵作りやBGMは迫力充分だった。


8月のWOWOWの宣伝が流れた。西島特集やるなら『蛇のひと』を入れるべきなのに、今回はなしか。『春、バーニーズで』と『CUT』は楽しみだ。『休暇』は静かで重みのある日本映画を愛する人なら、見て損はないと思う。
『新米刑事モース』の続きが放映されるのも嬉しい。8月の地上波はいつにもまして質が落ちるゆえ、テレビ番組はBS頼みだ。31日スタートの『罪人の嘘』も興味深い。伊藤英明が古美門クンとはちがう悪徳弁護士をやってくれるのか! 脚本家が金子ありさというのがやや不安。秋のオリジナルドラマ『株価暴落』でWOWOWの株が暴落しないか、それも不安だ。