この冬の大河と朝ドラ

おしん

目利きの友人の強い勧めにより、再放送を視聴続行中。総集編はすでに視聴済み。
初回からずっと構成がしっかりしていて、毎日鬼のように大量の台詞が流れてきて、それが各人の個性とぴったり合っていることに脱帽である。『あまちゃん』や『てるてる家族』ほど好みではないが。
一番人気がないと噂の音羽編に突入したが、川部がセルフサービスの店を推す場面には「新しい時代が始まりそう」だとわくわくした。米問屋の奉公人、髪結い、羅紗問屋、飯屋、魚の行商、八百屋とあまりにも多様な職についてきたおしんの経験が、良きにつけ悪しきにつけ言動に反映されている。
商売のことにしても娘の身の振り方にしても、長門裕之が立て板に水でまくしたてる場面には、お芝居ってのはこうでなくちゃいけない! と感じ入る。やり手の商人ならどうしゃべるか考え抜いた橋田寿賀子のセンスあってのことだが。
ドラマファンの反応を見るに、おしんの子供たちのなかでは仁が群を抜いて白眼視されているもよう。極私的には、きれいごとの世界で生きていられる希望よりも、世俗にまみれ、強情な母親相手に苦労しながら商売に取り組む仁のほうを応援したくなる。まあ、優秀な経営者になれなかったことは、総集編でわかってしまったが。
賢くて天使のような初子の今後が気になる。
「ご主人を送り出したら暖炉の前でレース編みでもして待つ生活を期待していた」とかいう道子はかわいいものだ。新聞の投書欄やらSNS上では、道子など足元にも及ばないほど怠惰でわがままな主婦が橋田先生もビックリの文句を垂れ流している。
禎子がけっこう身勝手である。おしんの「子供はせめて大学に」という教育が滑っちゃったんだな。庶民の女は苦労するのがデフォルトの戦前から、女なら楽して当然という方向への意識の変り目がちょうど今放送中の昭和30年代あたりか。
おしんにはいくらでも「今の若い人は根性がない」と言う資格があるが、「昔はお姑さんの言うことは絶対だった」には、どの口が言う? というのが正直なところ。幼いころからばーさんになるまで、強情なところ、肝心なことを身近な人に相談せずに独断専行するところは変わっていない。それにしても、今『おしん』のような企画を出したら「これは強者の論理だと批判されるから」とボツになるのだろうな。今後は、何度も邪魔くさいと感じた浩太が役に立つ場面がふえそうで、その演出が楽しみだ。


麒麟がくる
断続的な大河視聴歴のなかでツートップが『太平記』と『いだてん』である。『太平記』の後、池端俊策の再登板までなぜ30年もかかったのか気になるが、ともかく今年も昨年同様、初回から最終回まで完走するつもり。
賛否両論の衣装や野外風景の色調については、極私的にはなじめない。だがマスコミが「画面が暗い、汚い」と騒ぐと覿面に視聴率が下がるので、明るすぎるくらいでも仕方がない、と自分をなだめる。
軽い画面を補うかのように、音楽が懐かしいようなメロディーで、OPの字体もずいぶんと大時代な印象である。

真田丸』や『おんな城主 直虎』が国衆に光を当て、それが今回の大河にも引き継がれている。「昔ながらの戦国大河が帰ってきた」みたいに言われているが、考証面は昔よりバージョンアップしているのだ。戦(いくさ)場面では手持ちカメラが駆使されて『タイムスクープハンター』風味。NHK大河にも往年の予算はないので、俯瞰で撮るより下から撮るほうが正解と思われる。
初回と第二回で、油断していると領地に攻め込まれるのが当たり前、な感じがよく出ていた。若い光秀が借金帳消しのために侍大将の首を狙ってうろうろする場面がユーモラス。昨年も今年も、登場人物たちが爪の垢ほどのことで大騒ぎしたり、過剰な後悔や自意識や被害者意識に浸ることなく、生命力に満ちているのが好もしい。織田信秀の「城に帰って寝るか」は、今年の台詞マイベストテンに入るかもしれない。
初回から登場した菊丸は、3月以降に「あの日助けてもらった猿です」みたいな感じで光秀と再会するのかと予期したが、あっという間に再登場。『太平記』ではオリキャラの右馬介が随分と活躍した。菊丸はどうだろうか……ましらの石パターンは勘弁していただきたい。

三話見てきたかぎりでは、まだ『太平記』ほど惹きつけられない。おそらくは駒を助けたのが光秀の亡き父なのだろうが、誰とからめて判明させるのか見当つかず。
屋内場面で、偉い人たちが語り合う背後で使用人が細々とした作業に従事するさまが丁寧に演出されている。リピート時には、そちらにもっと注目したい。

太平記』と今作の共通点
1.毒殺がアクセント。『太平記』では終盤、主人公が実弟を毒殺したが、今回は早々と道三が裏切り者を毒殺した。
2.お飾りの権力者が絵を描く。『太平記』では北条高時仏画を描く場面が印象的。今回は土岐頼芸が鷹の絵を描く。高時のように、暗愚に見えて観察眼は鋭い設定なのかどうか、様子見だ。
3.旅芸人の活躍。池端先生が、お気に入りの尾野真千子をどう料理するかかなり楽しみ。
4.早い時期に主人公が旅に出て、広い世界を知る。ただ、高氏クンが帝のご尊顔を拝してしまったのに比べれば、光秀の驚きは小さい。
5.重要なキャラに口の減らない奴がいる。『太平記』では佐々木道誉。今年は松永久秀
6.OPで、基本、黒をバックになんかが燃えている。

太平記』は、働きに応じて土地や金品を与えないお頭には人がついていかない現実を生々しく描いていた。『麒麟』も、人間の欲や上昇志向を否定的にばかりは描かないと期待している。