映画三昧

『ロイヤル・ナイト』(監督:ジュリアン・ジャロルド)
エリザベスに思慮がなさすぎ、マーガレットに品がなさすぎで、極私的にはちょっと残念な『ローマの休日』。
『ローマ』のオマージュ探しの楽しみは提供している。自分はギターネタしかわからず。ロンドンの地理にくわしかったら、もうすこしのめりこめたかもしれない。
監督が大好物『心理探偵フィッツ』を演出したことがあると知って驚愕。
お懐かしや『新米刑事モース~オックスフォード事件簿~』のサーズデイ警部補とジェイクス巡査部長に再会できた。ロジャー・アラムは懐の深い娼館の親父がはまってたいそう魅力的。主演のサラ・ドガンは凛とした魅力あり。

レジェンド 狂気の美学』(監督:ブライアン・ヘルゲランド
ブリティッシュ・マフィア映画ということ以外なんの予備知識もなしに見たので、純粋にストーリーを楽しめた。監督が『L.A.コンフィデンシャル』を撮った人ならおもしろくて当たり前か。
ギャングの話なのにナレーションが女性キャラ……に意表を突かれ、それなら切り口がふつうとは違うのかと思いきや、スピード感と迫力のある王道の抗争ドラマであった。最後までよけいなことを考えずに見た洋画はひさしぶりだ。
凶悪な双子が仕切る街がネタのイギリスドラマなら何度か見たことがある。すべてクレイ兄弟を参考にしたものだったのか……と今頃になって気づく。
ギャング映画ファンでなくとも、60年代のアート、ファッション、音楽に興味がある人ならかなり楽しめるはず。
一人二役の主演が『マッドマックスFR』のトム・ハーディと気づかず。イギリスの俳優界はあいかわらず優秀な人材を輩出している。単発ドラマ『夜の来訪者』でお気に入りに加わったデヴィッド・シューリスが金庫番の役で活躍していた。『フィッツ』で好演したがたまにしかお目にかかれないクリストファー・エクルストンが、今まで見たのとはちがういい味を出していた。マッド役が『キングスマン』のクロン・エガートンなのはひと目でわかった。共演者たちみたいに渋いおじさんに成長できるかな~? なんて思ってしまったが、この人しっかり鍛えるRADAご出身だそうな。

『オーバー・フェンス』(監督:山下敦弘
鳥の使い方がシュールで印象的。魚の使い方に笑った。
未読の作家、佐藤泰志の映画化は『そこのみにて光り輝く』も『海炭市叙景』も傑作なので、本作にも期待して見に行った。撮影(近藤龍人)や照明(藤井勇)の力で、本州とはちがう函館の冷涼な気候や、街並みや人間関係のちょっとだらだらした感じが伝わってきただけでも、いい映画だと思う。「その瞬間を生きている人間たちの映画にしたい」とは監督の言。カタストロフで終わるか、それとも函館シリーズの前二作のように終わるのか……とちゅう何度も予想を変えたが、さわやかな絵で幕を閉じた。フェンスを越えられない話なのだろうというネガティブな予想ははずれた。
しょっぱなから聡の声が耳障りで、ピークの荒れっぷりには心底辟易。オダギリジョーが翻弄されるだけの役じゃあないのでは?と思いはじめたあたりで切れ気味の発言もあり、なのに聡を殴ることもなかったのは意外だ。
映画のにおいがするキャストに囲まれても、まったく浮かない優香はほんとにいい女優になった。
製作の永田守があの永田雅一の孫で、親子三代同業者だったとは! 企画は『そこのみ』と同じく菅原和博。
これからも映画を愛する人々が、佐藤文学をフィルムに撮ってくれそうだ。