お盆の娯楽

汁気過剰の糾弾バラエティー『反日どうでしょう』が横行する休暇シーズン。とりあえず5本のテレビ番組を視聴。2本はたいへんおもしろく、1本はかなりおもしろかった。

1.『キャンプX 実録・スパイ養成学校』(AXNミステリー)
カナダ製ドキュメンタリー。二次大戦中、オンタリオ河畔に、おもに英米加向けの極秘スパイ養成所"キャンプX"が作られた。アメリカのラングレーより数年前に、のんきそうなイメージがあるカナダにそんなものがあったとは初耳である。二次大戦後は破壊して埋め立てられたが、最近の発掘作業で防空壕跡などが発見された。
幼稚園向け説教趣味は皆無で、養成コースと非情な活動を1時間45分にわたって紹介。キャンプXを主導したのは、昔から世界各地であくどい工作に励んできたイギリス人。スパイとなって生き延びたのは、心身のタフネスと知恵を兼ね備え、強運に恵まれた者だけだった。戦後は引き続き諜報活動にたずさわる者もあれば、畑違いに進んだ者もあった。経験を生かして映画『007』の脚本を書いた人もいたと聞くと、あの手の映画が百パーセント荒唐無稽とも言い切れないかも、と見る目が変わりそうだ。

2.『一番電車が走った』(NHK総合
戦火の広島で、原爆投下からわずか3日後に、路面電車の運行が再開していた。ニュースやドキュメンタリーを担当するNHK職員は、インフラの重要性を軽視し、インフラを支える人々への敬意がはなはだしく欠けている印象だが、ドラマ部門ではたまにこんな良心的な作品が発表される。松浦たちの奮闘のようすは、もう5分くらい足してほしかった。モデルになった女性二人は、お孫さんたちに囲まれて幸せそうにしておられてなにより。
岸善幸脚本・演出。傑作『ラジオ』や『開拓者たち』の一番すぐれた回を演出した人だったのか! とってつけたようなスローガンに頼ることなく、低めの視点から人間社会を描き切る力量は、今の日本では卓越している。
新井浩文NHKに気に入られているようで嬉しい。黒島結菜の太い眉やら素朴な雰囲気やらが昭和ドラマに合っている。

3.『戦火のマエストロ・近衛秀麿』(BS1)
近衛文麿の実弟の、演奏家として、またユダヤ人と深い交流を持つ一個人としての半生。近年になってアメリカ公文書館で公開された資料をもとに、近衛が1930~40年代に自身の特権的な地位を生かしながら、ユダヤ演奏家たちの亡命を助けていた実態を描く。ライプツィヒで抑留されていたあいだ、暴力的なあるいは冷笑的なアメリカ兵たちのなかにあって、なぜか取り調べ担当官だけは親切だった。その人は実はバイオリン教師で、過去に近衛がタクトを振るオーケストラに参加したこともあった……て、それが本当なら、事実は小説より奇なり、を地で行く話である。

4.『武士の娘 鉞子とフローレンス~日米をつないだ奇跡のベストセラー~』(BS1)
最後25分があいかわらずのNHK節でがっかり、という感想を見かけたが、自分としてはもっと偏った編成になると予想していたので、まあNHKにしてはましなほうだ、くらいの感想。
戦後まもなく、『武士の娘』ファンのアメリカ兵が鉞子のもとを訪れ、「もっと多くのアメリカ人がこの本を読んでいたら戦争にならなかったかもしれない」と言ったくだりは実話?? 残念ながら、ルーズベルトトルーマンが聞いたら一笑に付すであろう。
『武士の娘』は、あくまで"自伝風"の小説であって、ノンフィクションではない。『武士の娘 日米の架け橋となった鉞子とフローレンス』の著者、内田義雄氏に出演依頼までしているのに、スタッフの情報収集と伝達は詰めが甘い。

5.『チャーチル 戦争に勝ち 平時に負けた』(BS1)
"憎むべき敵を倒すとなったらエネルギーを発揮するものの、長期的な視点に欠け、人種偏見や階級的差別意識が強い"チャーチル像を描き出す。作り手の偏見も強そうだが、まあそういう見方もあるのだろうと思うくらい。

前から一番楽しみにしていたのは、15日放送の『京都人の密かな愉しみ・夏』(BSプレミアム)。『京都人』冬編を演出し、『リキッド』であらたなファンを獲得した源孝志が演出すると期待しているが、情報が見つからず。ドラマとドキュメンタリーで京都の夏の魅力を描き出すとのこと。今週一番の清涼剤になりそうだ。ドラマ部分は、正月編にひきつづき、常盤貴子が和菓子屋の若女将として主演。助演の深水元基眞島秀和がどんな佇まいを見せてくれるか楽しみだ。あとは、録画したものの未視聴の『潜水艦イ-57降伏せず 』(WOWOW)。今夜の『それぞれの6年・宇宙飛行士に挑んだ仲間たち』(NHK総合)、『民王』(テレ朝)、そして、『民王』でそこはかとなく腹黒さを漂わせて目が離せない高橋一生がゲスト出演する15日の『新チューボーですよ!』(TBS)。最後の一つについては、ツイッターで情報を提供してくれた方に感謝。