『全力失踪』第1回~第2回

「何やってるんですか、闇金のくせに!」にウケた。

営業職としてはいっこうに芽が出ず、家庭では邪険にされ、家族のためと思って始めた投資は大失敗。行き詰った男が全力で失踪する(たぶん)ロードムービー兼中年男の自己発見の物語が始まった。
初回、磯山の追い詰められ方がハードで、毎回このモードだと見続けるのがきついのではと危惧したが、第2回は適度に和む場面もあり。公式HPを見たところ、主人公はあらたな世界に足を踏み入れては逃げ出す、の繰り返しで、ひたすら落ちていくわけでもなさそうだ。

都会のサラリーマン家庭を舞台にして、主婦が被害者みたいな設定はいい加減嘘臭いと思っていたら、今作は実際の世相を反映したつくりである。
『八重の桜』で利発そうでかわいかった鈴木梨央が、ヤな感じのガキを好演していい調子。

うかつにもテレビに映ってしまう磯山。それを悪徳金貸しの高峰が発見! ではなく……愛想を尽かしたとはいえ、女房が夫の居場所を高峰に言いつけるという非情な展開であった。だがそのへんの演出にユーモラスな味付けもあるのがなかなか。

磯山は良くも悪くもたいしたことはできないが、ささやかな善意の持ち主であり、それがいい方に転んだのが第2回。次回以降、自覚しなかったあらたな欠点が描かれたら話に深みが増すと思う。

暗めの色調に暗めの音楽だが、見ていてさほどどんよりしない。これが岩本仁志Dのカラーなのか。落ち着いてみられる大人向けドラマだ。最終回まで失速しませんように。オリジナル脚本担当の"嶋田うれ葉"は初めて見る名前。新しい才能がこういう形でデビューできるのもBSプレミアムならではか。

原田泰造ユースケ・サンタマリアとならんでサラリーマン顔の名優だと思う。今季、二人とも優良作品に主演しておりなんともめでたい。正直、植木等もこの二人のほうがイメージに合う。新婚のころは仲良し夫婦だったという回想シーンが早くも出てきたので、緒川たまきもこれから意外な面を見せてくれそうだ。「勉強しないとパパみたいになっちゃうわよ」を「パパやママみたいに」としないところがいかにもダメな母親。手塚とおるは嫌味な役をやったら無敵の俳優だが、意外と"舐めきってた"相手にしてやられる間抜けな場面続出で笑わせてくれるのだろうか?

『伝七捕物帳2』第5回「鬼か仏か、屋台騒がす手拭い侍」

いつにもまして時代劇ならではの"絵"に魅了された。
文字通り緑したたる境内で、寺の階(きざはし)に腰かけて語る若い侍と、分をわきまえて立ったまま応対する伝七。
夜の室内。仄明るい行燈の明かりに浮かび上がる男たちの顔。

スタッフ(撮影:山本浩太郎、照明:奥田祥平、演出:清水和彦)の仕事のすばらしさ。

「野暮天はよせ」、「潔い」。江戸っ子気質と侍気質が生かされ、気持ちのいい幕引きであった。

『伝七捕物帳2』第4回「伝七、狐に化かされる」

吉原裏同心』で完璧なドラマデビューを飾った野々すみ花がゲスト出演。
彼女が演じる女盗賊・白狐のお仙は、ちょっとした女優なら誰もが挑戦したいであろう、『雲霧仁左衛門』の七化けのお千代のような役柄だ。ふた昔前の池上季実子でも見てみたかった。で、もちろん野々嬢、お上手ではあるが若干無理して気張っている気配が感じられた。次回は大名の奥方とか位の高い御殿女中を演じていただきたい。

お仙の手下が松尾諭。泉ちゃん、こんなところで何やってんだ……この人と六角精児の見分けがつかないお年寄りがいそうだな。

脛に傷持つ人間が悪党からの誘いを断ったばかりに、難儀な目に遭う。時代劇によくあるパターンだが、手堅くまとめて、最後の締めは毎度おなじみ梅雀の「めでてえな!」。よく練られて後味の良い娯楽時代劇である。

脚本がお久しぶりの山本むつみだった。過去10年、正攻法で政治を描けた大河脚本家は彼女のみ。変化球の三谷幸喜森下佳子もそれなりに楽しませてもらっているが、数年後の山本女史の再登板を強く希望する。

『伝七2』は9月22日で終わるようだ。寂しいことだが、その翌週『神谷玄次郎捕物控』再放送が始まるのはひじょうに楽しみだ。ここ数年、『神谷』を超える渋くかっこよいチャンバラ時代劇に出会っていない。

『ワンダーウーマン』(監督:パティ・ジェンキンス)

訛ってるけど可愛いお姫様だった!
母上も訛らせるためにデンマーク出身のコニー・ニールセンを使ったのか、それともガボットの発音を真似させた?

アメコミにはまったく不案内だが、あまりにも目利きの方々が推奨するので、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(GotG)につづいて『ワンダーウーマン』を鑑賞。
原作ファンのあいだで高評価のようだが、戦争映画ファン、古き良きハリウッド映画ファンにも安心して勧められる出来だ。ローマ軍団オタもちょっぴり喜べるはず。

以下ネタバレあり


パラダイス島――背景のデザインがまさにパラダイスのごとく美しい――はアマゾネスの島というより、"女だけのローマ帝国"に見える。戦闘場面の兜や甲冑がローマ風なだけでなく、「セネター」という呼びかけがあったので、ますますその印象を強くした。
NHKも負けそうなかわいい子役が出てきたが、パラダイス島の場面はアンティオぺ将軍に持っていかれた。ロビン・ライトは『ハウス・オブ・カード』でいつもシェイプアップしていて凄いなと思っていたが、アンティオぺの役作りのためだったのかな? まあ、クレアがふつーのアメリカのおばさんみたいな体型になったら興ざめだが……。(たった今ググったが)アラフィフであの筋肉質というだけでなく、弓矢も短剣も強そうに操れるし、かっこよく馬に乗れるし、なにより武人の魂全開で痺れた。スター以外の兵士役女優たちもそろってすばらしかった。ワイヤーアクションがごく自然に撮れていることにも感動。
古代ローマの装備で銃に立ち向かうとかどうすんだ!? と危惧した自分がおまぬけで、スピード感あふれる魅力的な戦闘シーンが展開した。DVDで見ることがあったら、浜辺の闘いを一番繰り返し再生したい。

SFの人間関係が古い王政時代にのっとることが多いのが興味深いが、今作はローマ神話までさかのぼるのか!

ロンドンでのダイアナにはときどき『ローマの休日』の王女様のようなあどけなさが漂う。トレバーの秘書エッタが、声から雰囲気から一番テンション高い時の濱田マリみたいなノリで愉快だ。ウィットに富んだ台詞を一番多く担当したのは彼女かもしれない。

一癖あるけど頼りがいありそうに見えない仲間を集めるくだりに、物語が始まるワクワク感あり。チャーリーがスカートを履く設定だから、スコットランド出身のユエン・ブレムナーをキャスティングしたのだろうか。

ノーマンズランドの戦闘シーンも、DVDになったらリピート確定。通常の映画でヒロインが「あの人たちを助けなくちゃ!」と言い出したら、「ったく、足引っ張んじゃねーよ、どんだけ皆の予定が狂うかわからないのか! (怒)」となるところだが、今作では超人的に強いヒロインなのでイラつかずにすむ。主人公一人の活躍でなく、仲間との共闘というのも胸熱。監督インタビューによれば、ノーマンズランドをワンダーウーマンが歩くシーンは、9割方実写だったとのこと。撮影はすごく寒かったそうだが、敢行してくれてありがとう。

ドイツ軍に占拠された村での鐘楼シーンは『プライベート・ライアン』を彷彿させる。一度しか見てないのに"盾"を作るトレバーの学習能力がすごい。このあたりの手作りとハイテクの組み合わせみたいな戦法がおもしろかった。

空軍基地でのダイアナとルーデンドルフの肉弾戦も見ごたえあり。冒頭のルーブルのダイアナはいかにもモデル体型で、こんな細くてアクションこなせるのかと思ったが、ちゃんと体格の良いルーデンドルフ相手に優勢に見える動きをしていた。(邦画で男女が格闘すると、どーも男が手加減してるのが見えて興ざめなことが多い)

「悪い人間が戦争を始めるわけじゃない」。ふむふむ。邦画でもこれくらい言わせろよ……でも悪い人間はともかく悪い神様はいて、ラスボスはアレスだった! 予備知識ゼロで映画館に行くといちいち驚けて楽しいな! 名優デイビッド・シューリスが演じるおかげでアレスに重みが出る。最後のアレスVSダイアナのバトルシーンは、おそらく予算を半分くらい注ぎこんだのだろうが、CGや火薬の使用があるラインを超えると、逆に平板に感じてしまう。戦闘シーンのおもしろさは、1.パラダイス島の浜辺、2.ノーマンズランド、3.空軍基地。別に映画がどんどんつまらなくなっていったわけではない。
「さよなら、兄さん」の台詞で、「あ、そうか」と気づいた。男が主人公の父親殺しはときどきあるが、女が主人公の兄殺しの映画は初めて見た。

知恵と優しさと(スパイにしては高すぎる)戦闘能力をかねそなえ、ロンドンではおてんばプリンセス状態のダイアナの世話もたくみにやってのけたトレバーは、爆撃機に乗り込み上空で毒ガス爆弾を爆発させる。身を挺してロンドンの同胞を守ったのだ。GotGでも似たような場面があった。"みんなのための自己犠牲"は讃えられるという共通認識があるのだ。邦画でこんなことやったら絶対文句言いそうな批評家たちも、ハリウッドがやると黙ったままなんだなぁ。

初めは笑いのネタに使われた腕時計が、最後は感動的な形見の品に変化した。トレバーの言葉もよかった。「ぼくは今日を救う。君は世界を救え」
愛を信じるようになってワンダーウーマンさらにパワーアップ、ということだったようだ。が、ゴッドキラーの剣をへし折られて以降のロジックが、見ている最中はいまいち腑に落ちなかった。

ガスマスクを取ったドイツ兵がほぼ美(青)少年なのは、なんでかいな? でもその青少年の一人が酋長(チーフ)と肩を組むのは、ハリウッド映画にしては柔軟でよいシーンだった。

トレバー役のクリス・パインは、あまりマッチョマッチョしていないのでイギリス出身かと思ったら、ハリウッドで最もホットな俳優なのか。タフな女戦士の相手役として出過ぎず引っ込み過ぎず、いい塩梅の助演ぶり。
ガル・ガドットはとにかく吸引力抜群のヒロインだった。下界の卑俗な人間どもを見てとまどう場面ではときおり童女のような表情も見せるが、かといって幼稚っぽくはならず、帝王教育の証を示す場面に説得力があり、強くて美しくてかわいくて、言うことなし。彼女もパインも、日米両方で同じくらい人気が出る貴重なタイプでは?

クリエイターについて男だ女だとあまり言いたくないが、作家や脚本家ならともかく、監督として戦闘場面ふくめてここまでウェルメイドなエンターテインメントを作れる女性が出るだけでも、米国は侮りがたい国である。『ハート・ロッカー』のキャスリン・ビグローとはまた別種の才能を感じる。日本では、男でも戦いをエンタメにできる人はほとんどがアニメに行ってしまうのだが、この状況がいずれは変わるだろうか。

しばらくは、ルパート・グレッグソン=ウィリアムズのメインテーマを思い出すだけでも元気になれそうだ。

『悦ちゃん~昭和駄目パパ恋物語~』第5回「専属作詞家・碌太郎」

今回も愉快で盛りだくさんだった!

公式HPにユースケ・サンタマリアのインタビューが掲載されていた。
「男が女性に求める要素は母性、ミステリアス、色気と3つあると思うんですけど、それぞれがその役割を担っている」
この言葉さえ引用すれば、以下は蛇足であるが……

このドラマ、碌さんが女神たちに囲まれて救われる話なのだな、というのが今回の感想。
春奴がポリムビアへの移籍話しをかなり強引に持ちかける。ずいぶんといい話じゃねえか、と思ったら、なんと裏で働きかけていたのはカオルさまの弟であった!
鏡子は見合いが破談になり、なのに退職せざるを得ず、しかし碌さんの家でねえやの口にありつく。すばらしい! ぎっくり腰の婆やを踏み台にした幸せのようでもあるが、あれでも情のある碌さんは、高額な入院費を肩代わりするのであった。だからカツレツなんて贅沢なおかずは当分おあずけらしい。極私的に最大懸案事項だった婆やのお給金問題がかたづいてなにより。昔の日本人は今ほど律儀ではなかったので、給金未払いで泣き寝入りの下男下女もけっこういたのだろうなぁ。住み込みで食と住を保証されていた人々なら、なおさら。

楽し気な演出だが、鏡子と父とのやり取りは、きれいな池に投じられた小石のように心の隅に残る。自分の人生なんてどこにもない、ハリウッドスターへの憧れを書き連ねている最中だけがほんとうの自分でいられるという鏡子。職人気質の久蔵には理解不能な考え方だ。鏡子ちゃんは、平成の世に生まれていれば、ネットでオタ仲間もできただろうし、もうすこし楽しい青春時代を過ごせたにちがいない。久蔵だって娘の行く末を心配して暴言吐きまくってるわけで、けっして悪い父親ではない。それでも、ああいう一コマを見ると、まちがっても「昔はよかった」とは言うまいと思う。

愛しい男がほかの女といる場面にわざわざ押しかけて、「これはジェラシー?」と自問するカオルのおハイソな滑稽味がたまらない。そして、カオルの車を見送る碌さんと鏡子を引きで撮った絵に、なんともいえない風情があった。

『1942年のプレイボール』だけおもしろかった件

前半愚痴注意。
お盆の番組というのはもともと日本人から思考力を奪うための企画であったが、今年は"今そこにある危機"が増しているにもかかわらずそれをやり続けている点が罪深い。しかも資金源は受信料。
NHKにはいったん始めるとやめられない習性があってWGIPを70年を超えてやりつづけているのか、それとも"中韓に捧げるバラード"のつもりなのか? 大差ないか……。
731部隊』は専門家に却下された古い説を出してきたそうで、見なくて大正解。
が、『忘れられた戦場~樺太40万人の悲劇~』は見てしまった。外国が協定を破ったことは咎めず、そこから生じる被害を必死で防ごうとした日本側を責めるのはなんなのか? ずっとアンバランスな報道姿勢をとってきたから、局内で疑問視する声もあがらないのだろうか。ペイペイの24歳児に制作を任せる"大人たち"の見識を疑う。ソ連軍が白旗掲げた民間人を射殺した件も、白旗掲げた民間船を撃沈した件もスルー。悪意があるというより、無知で無邪気だからふれなかった可能性が高そうなのがなんともかとも。
お年寄りたちはテレビに映るのが嬉しくてスタッフの誘導にしたがってしまったのだろうが、元兵隊が上官の意図を曲解させる発言をしたのはいただけない。
インフラを支える仕事に従事していた女性について、「ホッぽり出して逃げればよかった」みたいな言い方はあまりに失礼だ。24歳児たちは、学校で習わないから「ロスケ」という言葉を知らなかったらしく、ピー音もかぶせずに流していた。あとで誰かのお叱りを受けただろうか?
トータルで見れば北海道の恩人と言ってもいい樋口李一郎をdisりまくるあたりが一番醜悪だった。これでもし、声の大きな白人が「オトポールの恩人を忘れるな」と言い出したら、恥も外聞もなく『知られざるユダヤ人救出作戦』みたいな企画を立ち上げるにちがいない。

これでまた、「セ」と聞いたとたんに頭に血が上ってまともに物が考えられなくなる"中二"的大人子供が量産されたのならゆゆしきことである。
識者たちが「NHKはもうドキュメンタリーをやめたほうがいい」とおっしゃっているが、撮影機材だけはいいものを持っているので、海とか山とかイカとかもふもふの番組に熱を入れるのがいいと思われる。

『返還交渉人』は予告にうんざり、ナレーターも虫が好かない……時点でやめておけばよかったのに録画視聴。最後の新聞切り抜き連発が偏向報道の上塗りそのもの。地政学的な基地の意味を無視するのはあいかわらず。井浦新は肩に力が入り過ぎ。でも、ここ数年演じてきた純粋すぎて滅びゆく男だけでなく、目標に向かって邁進する外交官役もはまらないわけではないとわかったことは収穫だ。


『1942年のプレイボール』は誠実で温かいつくりの青春ドラマだった。
野口兄弟の野球人生のひとこまを、実話を交えて描く。ハーフフィクションと呼ぶ人もいるらしい。
冒頭から父親が次々と商売に手を出しては失敗するタイプだとわかる。が、親父は失敗を妻子にあやまるし、妻子もしょうがないなぁという顔をしながら大黒柱を愛している。
いいタイミングで何度もユーモラスなシーンがはさまるのが意外だった。目を吊り上げて作ってるのがわかる作品より、ゆとりや笑いがある作品のほうが豊かだ。
四人も男の子がいる家でなんで長男に召集がかかるんだ、不勉強か!と思ったが、あとで野口明氏は実際に1938~1941年に出征していたと知る。
念願があるていど叶い、三兄弟がピッチャー、キャッチャー、バッターとして介する場面は感動的。兄たちの必死のプレーをラジオで聞く渉の顔もいい。二郎は明を尊敬し、選手として立ち直らせ、恋愛面でも助言する。こうしてみるとデキスギ君のようだが、現実味のあるいい奴だった。母は明の体調の変化にいち早く気づく。仲が良くたがいに思いやる家族をさらっと描いていやみがない。

脚本担当の八津弘幸は『半沢直樹』を書いた人なのか! あんな暑苦しいシナリオを書かされた人でも、プロデューサー(吉永証)に恵まれれば、ほどのよい人情話を書けるのだ。中学で野球部を中退したとか。最後までがんばった自信満々のスポーツマンでなく、「うしろめたさを感じて生きてきた」(本人弁)人だからこそバランス感覚のある脚本にできたのではないか。
桑野智宏Dの作る画面にはなつかしい色合いがあった。安らぐ場面、不穏な場面。緩急自在であった。

太賀、勝地涼忽那汐里はこれからの歴史ドラマや文芸ドラマに欠かせない人材になるだろう。
太賀は土のにおいと知的な雰囲気を両立させた。首が太いのでスポーツ選手を演じて違和感がない。将来は剣豪の役などやってもらいたい。忽那嬢がここまで昭和の美人役をこなせるとは! (NHKドラマのメシマズ美人設定には少々あきてきた)
勝地のりりしい顔がアップになるたびに、家人が「クネオだ! クネオだ!」とはしゃいで茶化してムードをぶち壊すのがはなはだ迷惑。今回ばかりはクドカンがうらめしい。

『悦ちゃん』第2回~第4回

『4号警備』もよかったが、この調子なら『悦ちゃん』が今年のNHKドラマ、マイベストになりそうな勢いだ。
第2回でお嬢様との縁談は破談決定かと予想したら、意外と引っ張っている。

見合いののち、碌さんは心機一転名作をものするかと思いきやあいかわらず評価されない。カオルは芸術を楽しめなくなる。鏡子にふられて夢月が作曲できなくなる。
いちどきに三人のスランプ人間が出てくるが、いちはやく抜け出すのは一番ぐだぐだだった碌さんであった。
春奴だけは最後まで安定して涼しい顔をしながら碌さんに片思いしつづけるのか?

浮世離れした日下部カオルが恋に目覚めた!
石田ニコルのしなやかな肢体といい、モノクロ時代のハリウッドのコメディエンヌめいた軽みといい、小学生も見ているような時間に贅沢なものを見せてもらってありがたや。

中流の上に属するのがメインな登場人物のなかで(ばあやさんをのぞけば)池辺鏡子は唯一の庶民。思ったとおりに行動したりしゃべったりとはいかない境遇にある。門脇麦は、いろいろ辛いことも多い若い女性を体現しながら、過度に湿っぽくならず、困惑する場面でもユーモラスな雰囲気を醸し出して、とにかく巧い!

彼女の義母を演じるのが、これまた何をやらせても安心な堀内敬子なのだが、黙って座るさまが黒田清輝の絵を彷彿させる。しばらく停止画像で見ていたいような風情があった。

碌さんは、カオルの前で詩を論じる時は、当時約5パーセントしかいなかった学士様らしく教養を感じさせてうっかりかっこよくなってしまったが、あとはしょぼくれたりあわてたり、ユースケ・サンタマリアの面目躍如である。そういや『踊る大捜査線』でも現実の東大出ってこんな感じだよなと思わせた人だ。

本作の成功の三分の一くらいは平尾菜々花をキャスティングした時点で決まったのではないか。はつらつとして多感そうで、見ているだけで楽しくなる名子役だ。

碌さんの姉夫婦の小芝居も愉快。
岡本健一のコメディアンぶりも楽しい。思い込みが激しすぎるハンサムを演じてここまで吹っ切れた芝居ができるJ俳優がほかにいるだろうか?

演出は大原拓、清水拓哉、二見大輔。うだつの上がらない中年男と闊達な女性たちのお話を、大正昭和モダンのセンスで魅せてくれている。繊細ぶったしなしなした女を出さない作風を、ほかでも拝みたいものだ。
最後の一秒まで、家冨未央Pが宣言したとおり「超絶楽しいドラマ」でありますように!