『デート~恋とはどんなものかしら~』最終話

ダビングしてもいいかも、と思えるドラマを1クール楽しませてもらった。
最終話は、桜を見る二人と、目利きの間では比較的評判が悪いチビ巧とチビ依子の出会いの場面に、滋味のある寓話を感じた。

全話通して振り返ると、軽妙だった前半と比べ、最後2話は若干暑苦しい場面が散見されてリピートする気が起こらない。涙と絶叫……が言い過ぎなら"舞台演技的な演説"には、杏の演技の生硬さもあいまって少々引いてしまった。冒頭、『卒業』のパロディーがあるのはいかにも古沢良太らしい、と視聴者を油断させておいて白石加代子なんぞというバズーカ砲をぶち込んできたのにビックリ。子供のような巧と依子が、リンゴを食べてイノセンスを失うということらしい。『晩春』よろしくマッチゲさんがリンゴの皮を剥くシーンで終わったりするかなと思っていたら、リンゴを持ち出したのは白石御大で、それを巧と依子がかわるがわる食べ、芯だけ残ったところでキス。すがすがしいような生々しいようなユニークなラブシーン作りである。

今作のスタッフが"恋"をどう定義したつもりなのか腑に落ちないため、最後の2話にどうももやもやする。
佳織は巧に、鷲尾は依子に、明らかに惚れてどぎまぎして、自分が何を求めているか自覚している。巧と依子は、第9話のデートでは、多くの若者が十代~二十歳前後で経験するルーチンの詰め込みに舞い上がって疲労していただけで、肝心の佳織、鷲尾という人間に対しては恋愛もどきの感情すら抱いていない。初回~第8話までのデートでは、おのれのデート不適合ぶりを突きつけられて苦しむ場面は多々あったものの、すくなくとも依子は恋するがゆえの苦悩とは無縁ではなかったか。最終話で主人公二人が、自分ではこの人を幸せにできないからと、佳織と鷲尾に土下座する場面。これは熱い恋をすっとばした温かい愛情というか、自分の半身に対する理解から来た行為に見える。

最終的に宗太郎は嫁とよりを戻し、留美は夫の尻をたたいて教育評論を書かせ、依子の父は再婚しそう。とまあ、あっちでもこっちでも『フィガロの結婚』みたいなにぎやかな流れだが、それって全部"恋"なのか??

"恋"はさておき、何通りもの"デート"を描いたPDWの手腕は抜群。なによりもOPとEDの歌と絵作りが目にも耳にもポップで楽しかった。コメディの包装紙かくあるべし、である。孤高の変人インテリを主人公に据えたドラマは、イギリスになら腐るほどあるが、日本では珍しいのではないか。デフォルメされた描き方ではあったが、理が勝った男女を主軸に据えたドラマが作られ、おおむね成功したことは喜ばしいかぎり。

巧はあっけなく社会復帰しそうになって、そのあとご破算に。もう少し何かあるかと期待したのだが、テーマは就労ではなく"デート"だった。なにがなんでも経済活動拒否というわけではない、さりげないきっかけ作りには素直に従う……ニートの人間性や行動パターンを決めつけてはいけないという、古沢節の優しさ柔軟さ。

あまり話題にならなかったが、クズ呼ばわりされる巧の言動は、女であれば「それがお利口よね」と評価される手のものであるし、依子の言動は、男であれば強引(スッポン&お泊り騒動は、通報ものだろう)と非難されるものだ。脚本家はジェンダーをめぐる状況風刺をひそませたつもりなのかどうか、後日こっそりどこかで語ってほしい。

杏について。大河の演技も昭和の貴族の演技もいただけなかったし、今後の彼女の作品を見たいわけでもないのだが、依子という固いキャラには嵌っていたと思う。膨大な量の台詞をこなしたのは立派。母の亡霊という形をとった自己嫌悪や劣等感から解放されればよいな、と思わせる好演だった。最終話の愛情表現が大事な場面となると、ラブストーリー不向き女優さんの印象。
演技でドラマをけん引したのは長谷川博己だろう。舞台仕込ながら、映像向きのデリケートな表現力も兼ね備えている。年齢的には巧をやって度を越して痛々しくならないのは、今がぎりぎり。とりあえず、浮世離れした役、良くも悪くも知的な役なら、まずこの人にオファーが行くことになりそうだ。(伊勢谷友介もこの条件が当てはまるが、濃い薄いで言うと、ハセヒロと両極端なのがおもしろい)
松重豊は、あのガタイとメンなので「ぁんだとこらあ!」みたいな役に偏りがちだったのが、最近は心優しい父親役も増えてきてなにより。結婚しては妻の尻に敷かれ、娘を持っては娘の主張に押され、たぶん子供のころは強い母親の言いなりだったと予想される"男三界に家なし"をペーソスたっぷりに演じていた。毎週『英雄たちの選択』のナレーションで、力強い発声、見事な滑舌、完璧なイントネーションを楽しませてくれるのだが、ドラマでもそういうのをそろそろやってくれないものか。ハセヒロの滑舌もいいが、自分としてはマッチゲさんに軍配を上げる。
和久井映見はなんともチャーミング。風吹ジュンニートを抱えた母親の悲哀と愛情を明るく演じてくれた。平田満の、ろくでもない夫&父役の嵌りっぷり! リア充元ヤンの松尾諭は、ハセヒロといいコンビ。国仲涼子は『結婚できない男』、『ペテロの葬列』、『デート』と、良作の脇役ポジションが確定している。鷲尾役の中島裕翔は、昭和の熱血青年めいた役を年の割に落ち着いた演技で造形していて感心した。NHKの社会派ドラマでもやっていけそうだ。