1月のドラマ

『教場』
警察学校が舞台という一点にのみ興味をもって録画視聴。厳しい指導が忌避される昨今、このようなドラマが作られ、かつ広く受け入れられるとはちと意外である。主役が恐れていたほどグネグネしていなくてよかった。片目を失ったという設定でコンタクトをうまく使って底知れない雰囲気を漂わせた。『攻殻機動隊』の合田を彷彿させる。
各エピソードをもう少し削ってもいいのにと思わないでもなかったが、全体にテンポがよくBGMも抑制が効いている。
クールガイが泣きわめきはじめたところで、これでは主人公が後輩を喪った愁嘆場がどれほどくどく演出されるのか……と危惧した。だが、後輩死亡場面は映らず、校長が故人をしのんで花に水をやるシーンでほのめかすのみ。これは意外な見識。

『ケイジとケンジ』
脚本が福田靖だからおもしろいかも……という軽いノリで第二話から視聴。主人公が二人そろって単純馬鹿なところが楽しくてよい。俳優の私生活ネタには興味なし。録画は一度見たらすぐに消す。民放は一本も見る気になれないクールも多いのだから、いちおうチェックする気になるものがあるだけでもいいほうだ。

『病院の治しかた』
実話にもとづいた地方の病院の財政改革ドラマ。小泉孝太郎の演説シーンが柄に合ってるなあと思ったら、脚本担当が『八重の桜』と同じ山本むつみである。『八重』の徳川慶喜役は小泉氏の最高の演技の一つだった。画面から予算が潤沢でない感じは伝わってくるが、それも資金難の病院が舞台だからちょうどいいのかも。

『ハムラアキラ』
原作未読。
不運な女探偵が主人公のハードボイルド・ドラマ。主人公と準主人公の顔面偏差値の高さといい、かっこいいライティングといい、『ハードナッツ!』とスタッフが重なっているのだろうか? 某俳優が問題を起こさなければ、この時間帯にこれまた『ハードナッツ!』とテイストが似た『スリル~赤の章・黒の章~』の続きをやれたのかしらん。
シシドカフカは近ごろ希少なハードボイルドなたたずまいがかっこよい。ただボーカリストなら、もうちょい声を張ってほしいと感じる場面がいくつかあった。

実写ドラマではないが、おまけ一つ。
『映像研には手を出すな!』
コミティアで発掘された大童澄瞳が原作ということで、予告の段階から気になっていた。
アニメ制作に挑む女子高生三人組のお話。青春ドラマとしてもおもしろいが、何よりアニメを作る過程が当方のようなド素人にもわかりやすくかつ楽しくダイナミックに説明されていて、たいへんためになる。
ベタベタキンキンしたいわゆるアニメ声の声優がいなくて助かる。「設定が命」の浅草を演じる伊藤沙莉のややだみ声な感じが、聞いていて落ち着く。金森は実写でやるなら絶対若いころの江口のりこだ! プロデューサー気質で交渉がうまく、「いざとなれば金と暴力でなんとかします」という台詞が似合い過ぎていて愉快である。

『いだてん』とこれまでの大河、これからの大河

『いだてん』は、近現代スポーツ史を描いた傑作大河であった。
志ん生が語る"腹っぺらしのマラソン馬鹿と泳げないけど水泳大好きまーちゃん"だけの物語と見せて、彼らをめぐる人々、そして志ん生の半生も志ん生の芸に魅せられた父子の人生も語る、名人芸のオリンピック噺だった。

開始前から
クドカン
外事警察』、『TAROの塔』、『55歳からのハローライフ』、『トットてれび』、『あまちゃん』と数々の傑作を物してきて、いまだ大河登板がないのが不思議だった訓覇P
あまちゃん』、『64(ロクヨン)』そして『あまちゃん』の井上剛D
のトリオがスタッフの要をつとめるなら品質は保証されたも同じとは思っていたが、予想を上回る完成度だった。

つねに新境地を開こうと努力してきたクリエイターたちに言っては失礼なことかもしれないが……
あまちゃん』で芸能の力を描いたように、『いだてん』はスポーツの力、落語の力を描き、それが視聴者の感動を呼んだ。
陸上競技に打ち込む若者の姿が大人を励ます場面と同じくらい、震災に打ちひしがれた人のために運動会が開催される場面も印象に残る。みんなが体を動かして気分転換できたのはもちろん、その晩は眠れずに泣く人がいなかった、「疲れて眠っちまったんですな」というオチにもぐっときた。人間をまるごと凝視できる人ならではの話の展開だった。
どんな困難もお涙頂戴の手段にはしない。こういうところを他の脚本家や演出家も見習ってくれればなぁ。

『いだてん』がむづかしいなんて声もあったようだが、まあ自分も落語には不案内なので、放送終了後にSNS上の識者たちの書き込みを読んで復讐&楽しみの増幅に与ったことはある。でも、ぼんやり見てるとわからないなんていう、しちめんどくさい造りと感じたことはない。この一話だけ見てもじゅうぶん感動できるのでは?という回も多々あった。人情の機微やら元気いっぱいの若者たちの動きやら、知識なんかなくても感じられるお楽しみ要素は少なくなかった。

主人公は事実上、金栗四三田畑政治古今亭志ん生の3人……と書いたところで、嘉納治五郎と小松五りんも入れなくちゃだめかな、いや、勝、シマ、五りんの小松一家もか、とどんどん加えたくなる。五りんは、これから両親が志半ばでやりきれなかったマラソンに挑戦するのでは? と想像できなくもない終わり方だった。落語の世界に入って中退したかと思うと、親の世代と同じ経験をした三波春夫の門下生になったり、いろいろ親の人生を追体験するような生き方をしている。命や大衆文化の継承を象徴するようなおっちょこちょいである。

スポーツとかオリンピックの価値判断の基準として
おもしろいか、おもしろくないか
国民の健康な体作りに役立つか役立たないか
参加することに意義があるのか否か
勝てるか勝てないか
と、およそ四通りの見方をする人々を描き、最終回で民族の祭典の幸福感で締めた。
だが、「人生はサゲでは終わらない」の名文句とともに、四三やまーちゃんや小松夫妻や女子バレー選手のその後にも触れる。河西キャプテンは大松監督を父親代わりとして(劇中出なかったが佐藤首相夫妻が媒酌人をつとめたとか!)第二の人生に歩みだせたわけだが、とてつもない虚脱感からどうやって抜けたのか気になる。
冗談のようなほんとのエピソードだらけのタクシー運転手、角田晃広氏は日常世界に復帰できたのか?


捨て回がないこと、最終回の盛り上げ方まとめ方、オリキャラの使い方の巧みさという点では、過去のお気に入り作品のすべてを上回る。国の最高権力者が主役ではない大河でここまで時代の空気を描けるのも稀有なことと思う。
過去20年で全話見たのは半数の10作。『平清盛』は台詞のないシーンをつなぐと味のある絵巻風で、音楽が一級品だった。『おんな城主 直虎』と『真田丸』は国衆の目線から時代を描く意欲作で構成はしっかりしていたが、ギャグのセンスについていけなかったり、主人公ほか数名のキャラにまったく嵌まれなかったり、照明撮影の方針にピンとこなかったりした。
一年通してトータルで楽しめるのは『風林火山』(『八重の桜』も四分の三はよかった)が最後になってしまったかと、毎年残念な気持ちになっていたが、今回それが覆されて実に嬉しい。
『いだてん』は『獅子の時代』、『徳川家康』、『花の乱』と比べても遜色のない作品である。極私的にながらく『太平記』をベストワンとしてきたが、現時点ではこれと『いだてん』がツートップ。

あくまで目線は低く、とくに前半は片田舎の農家出身の四三から見たスポーツ界や日本をメインとして描きながら、ちゃんと明治、大正、昭和の日本がたどる道や海外スポーツ界の動きといった"大きな世界"の物語にもなっていた。

贅沢に何人ものメダリストを紹介する大河だったが、金栗と田畑の人生は順風満帆ではなかった。
金栗は学業優秀であるにもかかわらず、健康上の理由で海軍兵学校に入れない。父親の死に目に会いそこなう。マラソンの世界記録を出しながら、肝心のオリンピックではいつも結果を出せない。それでもめげずに、家庭をほったらかして後進育成に励む姿に心打たれた。
田畑は泳げないからにはとイベント立ち上げ係として奮闘するが、念願の東京オリンピックを目前に、JOC委員長を解任される。
敗者を描くのが巧い脚本家や演出家というのは、えてしてひがみっぽい視点で強者を描くものだが、そうならないバランス感覚が好もしい。各種大臣たちやエリート外交官たちにも、それぞれ個性と魅力が与えられていた。川島については、さして憎々しいとも思えず。良くも悪くも四三やまーちゃんとは違う世界に暮らす"一人前の男"としても存在価値があったと感じる。主人公ageのために誰かをsageる手法を取らなかったのも立派である。

山師の治五郎、とにかく走るの大好きな四三、口八丁手八丁のまーちゃん。誰一人として自虐的にうじうじしたり女房に甘ったるいこと言ってみたりという、近年の大河でフラストレーションの元になってきたキャラ設定になっていなくて助かった。女性陣も孝蔵に煮え湯を飲まされつづけたりんはどんどんたくましくなるし、菊枝は亭主の長所も短所も知りつくしたプロの妻となるし、女子アスリートたちは窮屈な環境でも努力を惜しまない。深刻ぶらない、被害者ぶらないのもこの大河の作風の好きなところ。

金栗が教鞭をとる女学校メインの回。ずいぶんと女子スポーツを持ち上げるなぁ、もしかしてクドカンもポリコレ警察に脅されたのか?……というのはとんだ失礼な邪推であった。トークショーでご本人曰く「次の週が関東大震災だから、対照的に華やかにした」。

美川が満州を最後に出てこなくなったのは、時間不足でやむを得ず? 彼がオリキャラではないという情報に、まず驚かされた。

日清日露から第二次世界大戦までずいぶんな数の戦争をこなす大河でもあったが、未来人みたいな偉そうな反戦論者を出さなかったのも見識である。実はNHK上層部から「出せ出せ」と横やりが入ったりしたのかしらん。
歴史にも人にも敬意を払う志の高い大河であった。
個人のトラウマやらなんやら重視で"小さな物語"がもてはやされがちな昨今、きちんと"大きな物語"を創作してくれたことにも感謝したい。

大友良英はRealsoundのインタビューで「先がわからないので、音楽の造り方がすごくむずかしかった」、「演出の都合で終わりの部分を変えざるをえなかったのが残念」などいろいろ語っていた。まあ、素人でも大変だったのは想像がつく。ほかにインタビューで肝と感じた発言は
「いくつものストーリーが入ってる。いろんな落語が入っているけど、とくに『富久』は重要なんだと思う。(見る人の教養が問われるみたいな、とのインタビュアーの言葉に応じて)そういう意味では普通のドラマよりハードルは高いですよね」
「音楽はむしろ理屈っぽくならないように直感的にわかるように心がけたかな」
「情緒だけじゃなく設定がわかるというか」
「シーンがけっこうカットアップで行ったり来たりするから、それに合わせて音楽がズタズタになるとあんまり良くないと思って、多少筋は無視していいから音楽を長くかけられるように作ったほうがいいと俺は思って。その長かけの秘訣は、一番最後のシーン、ここでこの音楽を落としたいっていうところに合わせて、その前はどうあれ付けちゃうっていう作戦に、だんだんなっていってるかな」
「やっぱり時代劇とは違いますよ。ちゃんと自分に繋がってるって意識でどっかでやってるから、音楽の中に自分の歴史を込めようと思ったところも……」

"教養"といえば、妙なインテリ臭はないけど教養はあるクドカンみたいなタイプは、今の演劇界映画テレビ界はもとより全国的にも希少な存在なのかもしれない。

取材担当の渡辺直樹氏も大功労者の一人なのだろう。奈良時代などと違って、資料がありすぎて整理に苦労されたのではないかと推察するが、その大量な資料から捨てるべきものを決断したクドカンも偉い! なんで報道部のNHK局員はこういう良心的な仕事ができないのだろう。

役者たちは途中降板した人もふくめて皆さん好演。(青年期の志ん生のギスギスした雰囲気だけは違和感を拭えなかったが)
大物俳優扱いされながら、ちょっと引き出しが少ないのでは? という印象だった役所広司が、(役柄上)死してなおメインキャストの一人として最後まで牽引してくれた。菅原小春の芯の強さ、たたずまいの美しさが忘れがたい。この人で映画を撮る監督が出てこなかったら、邦画界はどうかしている。一癖ある役が多かった大東駿介が堂々たる正統派の男前な役を演じても、やっぱり巧かった。中村獅童の、怖かったり慈愛溢れたり、弟の姑相手にびびったりするあんちゃんがとても懐かしい。三谷幸喜が悪ノリするかと心配したが、杞憂に終わってよかった。
多少舌が回らなくなっていても、全体的な演技としては、志ん生はやはりビートたけしがベスト。

『いだてん』はきっと諸々の賞を受けるだろうし、後年再評価されることと思う。今年の低視聴率の原因は
1.マスコミが「一桁出した」のなんのと騒ぎすぎ。新聞に影響されやすい人々が、そういうのを読んで民放に流れたのだろう。
2.一部のリベラルを自認するファンが世間を誤解させるような騒ぎ方をしてくれた。思いもよらない場面について「ここは日本人の愚かさをよく描いている」とはしゃいだり、逆に「もっと影の部分を描かないのは腰が引けてる証拠」だのと、ぜんぜん普及に貢献しない暴れ方であった。
3.友人によれば「行ったり来たりが多すぎて、老人が見たらどの時代かついていけないと思う」とのことなので、それはあったのかもしれない。でも、ここを変えたらそれはもはや『オリムピック噺』ではない。
4.みんな大好き信長も龍馬も出てこない。でもここを変えたら(以下同上)
なにごとも質と量は両立するとはかぎらないし、昨今はテレビ以外にも娯楽が溢れているし、スタッフ、キャストとも、数字のことなんかでクヨクヨせず、立派な仕事をしたことに誇りをもっていただきたい!

年末に恒例の大河総集編を放送するそうだが、ファンが気にしている美川くんがなんかの形で出るらしい。これはまた録画決定だな。来年以降、『いだてん』を再訪することがあったら、ぜひパラリンピックがらみの名作『太陽を愛したひと』もくっつけて流すべき。


来年の大河は『太平記』の実績を持つ池端俊策による『麒麟がくる』。生まれて初めて2年連続大河ドラマをダビング保存することになりそうだ。
とりあえず一年おきに女性主人公にする妙な慣習が廃止されてよかった。女性大河ったって寿桂尼あたりをやってくれるなら大歓迎だが、彼女が主人公になったとしても、同性の反感を買わないようにたいして頭もよくない薄~いキャラに改悪されるのがオチ。
来年の主人公が明智光秀なのは、もしかして側室も妾もいなかったから?? せっかく『真田丸』で正室以外のパートナーをうまく描いて、よそんちとてめえんちの区別もつかない奥さんたちのクレームを防いだのに……こんなことでは、主役にできる素材が枯渇してしまうのではなかろうか。再来年の渋沢栄一についてはトーゼン漂白するのだろう。大河とは別に、『経世済民の男』第二弾をやって、クドカンが渋沢を描いてくれたら……と、妄想するだけならタダなので、書いてみる。それから、今年は朝ドラで忙しかった大森寿美男も、いずれまた大河の脚本を書いてくれると期待している。

 

『いだてん~東京オリムピック噺~』最終回と初回

『時間よ止まれ』終了後、マジで拍手してしまった。スタッフ、キャストの皆さん1年間ありがとう!

最終話の雑感
*老けメーク技術の進歩にしみじみした。イギリス映画の『炎のランナー』は冒頭、いきなり顔にゴムくっつけたみたいな老けメークが映って、「こんなんだったら本物の老人を使えよ(怒)」と思ったものだ。
*前回に引き続き、最終聖火ランナー平和プロパガンダに利用される人間の苦しみが描かれる。こういうのは、日本の実写作品では貴重な一こま。坂井から、なぜ走るのかを問われる金栗。「走りたいからじゃ」とか「気持ちよかろうもん」とかいう答えかと思ったら、「自分でもようわからん」。水を所望するのでてっきり飲ませるのかと思いきや、若者の頭にぶっかける。若き日の自分を落ち着かせた方法を実施する。やはりクドカンは一貫して、金栗を言葉の人ではない、行動の人と描くのだな。
*坂井くんが国立競技場に入っていく後ろ姿とBGMの組み合わせに胸が熱くなる。
*観客席に数話ぶりの懐かしい面々が集う。「万歳」は、この回だけ見た人でも感動させる力があるが、土砂降りの場面を見た視聴者にとっては感慨もひとしお。文字通り Long live の思いで皆両手をあげているのだ。野口も大横田も河野もその他の人も、なんと気持ちのいい晴れ晴れとした日本男児の顔をしていることか! ひと目で重厚と感じさせる『坂の上の雲』とは違う作品だったが、こういう場面の主要登場人物にただよう雰囲気には共通するものを感じる。河西たち女性陣もまた、いい面構え。安藤サクラの戦士のまなざしがかっこいい。
ブルーインパルスの飛行が成功してよかったな。上空から五輪の模様を見る場面の撮影法にも、技術の進歩を感じる。
*役者として特にうまいと思ったことはないビートたけしだが
「忘れねえで来たんだな。よし、出入りを許してやる」の
懐の深さを感じさせる師匠の顔に感動。
*「志ん生のよぉ、『富久』はどうだった?」「それも……絶品でした」→BGM→志ん生の破顔→赤ん坊の誕生を知らせる電報
この一連の流れが最高。いろいろなものの再生と誕生を象徴するようで。人間の主人公たちと同じくらい「志ん生の『富久』は絶品」と書かれたハガキは超重要な存在だった。物質としての主人公と言いたい。
*まさか『木更津キャッツアイ』みたいに坂井主体の聖火ランナー編と五りん目線の聖火ランナー編と、二回描くとは思わなんだ。
*全国旗掲揚のシーンは胸アツ。出場できなかったインドネシア北朝鮮の旗を室内で掲げてあげるのは吹浦忠正役の須藤漣の判断だとか。『なつぞら』じゃあジイジに殴られていい気味としか思えない役だったが、今回はよい役だった。
*水泳と陸上に重きを置いてきたドラマだから東京でも水泳を出すかと思ったら、それはなかった。1時間におさまりきらないか。
*バックステージものというのは大抵おもしろいが、開会式と閉会式の裏側をこれだけ見せてくれて大満足。ザンビアの独立の日に国旗を用意できた吹浦氏は立派!
*誰にでも分け隔てなく失礼だったまーちゃんが、「俺のオリンピックがみんなのオリンピックになった。いわちん、ありがとう!」と頭を下げる場面。涙を浮かべてその言葉を受けるいわちん。見事な総括だ。
*人から人へとつながれていくのは聖火だけではなかった。「インドネシアに次こそは出て欲しい」という委員会の思い。オリンピックを作ってきた先輩から後輩への理念の継承。小松家の血統。陸上競技、水泳競技の育成の持続。まだほかにもありそうだ。
*お笑い芸人が皆達者に演じていた。クドカントークショーでネタバレしちゃったウマの結婚式シーン。徳井義実は、鬼監督を好演しただけでなく、花嫁に向けて父性を感じさせる表情を作っていて感心した。それにしても、リアルの大松もイケメンだな。
*もともとドキュメンタリー風のドラマ造りを得手とする井上Dだが、今回のドラマと記録映像のつなぎ方は絶妙。


久々に初回を再見。記憶以上に内容が濃密だった。伏線はここから張られていたのか!の再発見あり。円盤発売を待たず、8話ごとにダビングしといてよかったなー。
*オープニングでアベベの靴が映ったような映らなかったような……。
*五りんの初登場時の役名は「小松」。それを覚えていたら、小松勝が出てくる時点でピンときたはずなのに(少々悔しい)
*すでに東知事も、外務省の運動会で転んじゃう不運な外交官、北原英雄も、彼にピンチヒッターを託される平沢和重も出ていた! まだ若い可児助教授もいる。よかったなぁ、92歳で東京オリンピックを観戦することができて!!
IOC総会で、平沢が「ジゴロー・カノーの最期を看取った」と紹介されたとたん、海外の代表者たちの見る目が変わる。嘉納治五郎が出てくると、ナレーションで「次々出てくるおじさんの中でもっとも重要」。どれだけ重要か想像がついていなかった。
*海外のフィールド競技の写真を見てはしゃぐ治五郎たちがほほえましい。「おー、なんか投げとるよー」「おー、スポーツですね。スポーツですねえ」
*タクシーの運転手が志ん生に「おじいちゃん、噺家さんですか?」。最終回のクドカンの台詞と同じだ!
*歯でビール瓶の栓を開ける天狗連中。暑苦しくも魅力的な痛快男子ども。

*あとでみんなの愛しいシマちゃんになるとは予期できなかった、ちょっと軽そうな女中さん!
*治五郎はすでに「600円を返してない!」と三島弥太郎に怒られている(笑)。
大隈重信が出ていたのもすっかり忘れていた。クドカンなら大隈主人公のドラマも書けそうだ。
*日本が招待への返事をしないうちから、ストックホルム五輪のポスターに日の丸が描かれていた。国旗の重みが軽やかに演出されている。
*最終回と同じく演出は井上剛。今もっとも信用できる、力のある画面を作れる人だ。

12月13日『クマロク!』

『いだてん』最終回直前インタビュー

中村勘九郎
*一つのシーンであれだけ走らされるとは思わなかった。以前は、走るのはもちろん歩くのも嫌いで革靴やブーツしか履かなかったけど、大河の撮影が始まってからはスニーカーを履くようになった。今じゃランニングは趣味。走っていると、四季の移り変わりや車の色、人々の服装の変化などが目に入って新鮮。
*とくに印象に残っているのは、ストックホルム・オリンピックのシーン。金栗さんにとっての分岐点。(NIPPONじゃ誰も読めないという大森たちに「ばってんJAPANじゃ奮い立たんとです!」と反論する場面が流れる)ストックホルムでの一ヶ月ロケは思い出深い。熊本の景色、におい、ごはん、人の温かさを思い描きながら演じていた。
*(来年のマラソン会場の変更について)まーちゃんじゃないけど、全然町が盛り上がってないじゃんねぇ! 大丈夫か? 100年後とかに、来年のオリンピックのことがドラマになるかもしれないですよね。
*純粋にスポーツを楽しんでるんだなってのが伝わってきますし、これだけ大変なんだなっていうのもね、伝わってきますね。政治とスポーツは別モンばい。
*晩年の金栗さんの映像が残ってるんですけど、左足だけ外輪になってます。そこは細かく忠実にやってます。たぶん誰も気が付かないと思う。
聖火ランナーになれなくてがっかりしとったけど、最終回は全部つながって大団円です。

宮藤官九郎
*金栗さんは調べれば調べるほど貴重なエピソードが出てくる。フィクションを書く人間じゃ考えられないような秀逸な話がいっぱいある。こんな偉業を達成した人が知名度低いなんて……と思った。僕が書いててそう思うんだから、見る人もおもしろがると思う。初回の雨のマラソンで帽子の塗料が流れて"血"みたいに見えたのは史実。もちろん(ドラマみたいに)歌舞伎の隈取みたいにはならなかっただろうけど。
*井上Dからは元々「戦争のドラマにしたい。暗くなり過ぎない、見てて辛くなるだけじゃない戦争ドラマできませんかね」と言われていた。(まーちゃんの原爆云々の言葉は)史実だからこそ書き残したかった。
*最後は金栗四さん主演ドラマとしての結末も入ってます。

第45回『火の鳥』

3話かけて大人の政治ドラマを描き、まーちゃんは陽気な寝業師に負け、寝業師はあっさりオリンピック担当大臣をやめ……前回は、まーちゃんをお友だちが訪問する場面で終わった。重い政治ドラマっぽい流れを、懐かしいような青春ドラマのノリで締めてくれた。

予想外に密度が濃く時間も長く、女子バレーのドラマが展開した。
ほんまもんの女優、安藤サクラと対峙してまったく見劣りしない徳井義実が凄い。誰が彼のポテンシャルを見抜いたのだろう?
第41回『おれについてこい!』ではわからなかった大松の苦悩。鬼の大松を今回のような視点で描いた作品はほかにあるのだろうか? 初登場シーンでさらりと「レイテで戦った」と言わせていたが、中隊長として年上の兵士を率いて無事生還し、バレーの技術を選手にたたきこみ、さらに(このあと)縁談をまとめ……人の上に立つ人物としての責任の果たし方が見事であると思わざるを得ない。実際とは違う精神主義だったみたいに伝えられるのが残念である。

先日、NHK臭強烈なドキュメンタリーで、いかにも女子バレーの選手が「社会の犠牲になった」みたいな描き方をしていたが、このドラマでは「あたしたちは犠牲になんかなってない!」。誰かを被害者にするのが近ごろもっともお手頃なドラマ作法だが、そういう方向に走らないからこの大河のスタッフは信用できる。
令和のセンスからすれば、バレー選手の髪型といいユニフォームといい全然かっこよくないのに、誇らしくコートに立つ彼女らのかっこよさに痺れる。
『いだてん紀行』でホンモノのサバサバ女子が「人のためなんかにできますかいな」とおっしゃっており、もうひれ伏すしかない気分。

大松と選手、まーちゃんのやり取りで新局面を描きながら、何十年にわたる――約40話にわたる――女子競技の回想シーンを織り込む。一周まわって金栗が走りはじめた瞬間の「自分のための運動」に戻ってきたのだ。けれど、当時オリンピックに初参加した途上国の選手たちの「国のため」が遅れた意識だの劣った発想だのとは言えるはずもない。

やまちんのアフリカ勢勧誘の努力は初めて知った。今ほど空路も発達せず、身辺警護に関する知識もなかっただろうに、よくご無事で帰還できたものだ。

知名度だけが取り柄の下手なアイドルみたいのが出ないすがすがしいドラマなのだが、予告で三谷幸喜が映ってやや心配に……へんにふざけず市川崑を演じるのは無理かなぁ。
今週寂しく帰った東元知事が、来週以降また仲間と笑えたら嬉しい。

大河ドラマ「いだてん」トークツアー ファイナル in 熊本

[12月11日追記]

12月13日(金)18:10~ NHK熊本『クマロク!』

宮藤官九郎中村勘九郎に訊く「いだてん」最終回

(おそらくトークショーの直後撮影されたもの)

[追記終わり]

 

会場:熊本城ホール シビックホール
日時:11月30日(土)1時半~2時半
トークゲスト:中村勘九郎宮藤官九郎黒島結菜
MC:石井隆弘アナウンサー
観客数:約700人

(以下、順番も詳細も確信なし)
石井:番組開始時点から全国をまわってきたトークツアーも今回で最後。熊本県内はこれで4回目。宮藤官九郎さんの参加は今回が最初で最後。
クドカン:今日はダブル・カンクロウですね。僕は「中村さん」と呼んだことはない、いつも「勘九郎さん」。
勘九郎:熊本のロケが素っ裸で始まった。スタッフは芝居の良しあしは全然見てくれない。「(まずいものが)見えたかどうか」だけでOKかNGかを決めていた。中学のシーンは、まわりが本物の15歳だらけ、あそこに僕が入ったので、すごく浮いてしまった。

石井:熊本の思い出は?
クドカン:2017年に取材で金栗さんの生家を見に行った。あまり大事にされていない感じで……なんだか……物置のようだった。今年の夏、家族旅行で立ち寄った時は、きれいになり、案内の人もいた。僕のことを知らないようで、とても丁寧に金栗さんのことや学校部屋のことを説明してくれた。名乗りそこなって、ずっと「へえ、すごいですね!」とか調子を合わせていた。五校の講師として、小泉八雲嘉納治五郎の同僚だった。八雲が治五郎を世界に紹介し、クーベルタンの知るところとなり、治五郎と交友を持つことになった。ほんとうに熊本とオリンピックは縁が深い。(後半はもしかしたら勘九郎が話したことかも)
勘九郎:大河のおかげでご縁ができた。これからもよろしくお願いします。
黒島:私は学生時代バドミントンをやった。妹もバドミントン選手で、先日は八代でのインターハイに出場したので、応援のために熊本に駆けつけた。

通路に金栗とその子の子供時代を演じた久野倫太郎くんがあらわれ、「清九郎、おいで」と壇上に招かれる。緊張してお話しできないので、勘九郎が代わりに「獅童さんに怒られるシーンは怖くてほんとに泣いちゃったよな」。大河効果でCMが2本決まって出世しているとのこと。また、勘九郎から「現場でトモロヲさんに『おじちゃん、演技巧いねえ』って言ったんだよね」と暴露される。

勘九郎シベリア鉄道で鬱々とする場面はとても大河の主人公とは思えなかった。外国人に対する評価はシビアだし、日本人にいたっては、「論外である」とか。

石井:女子スポーツの先駆者を演じた感想は?
黒島:陸上は初めてだったけど、体を動かすのは気持ちよかった。『アシガール』ではわらじで山道を走るのが大変だったので、明治に入ってずいぶん進歩したと感じた。
勘九郎:選手たちが僕の脚をさわりまくる場面、ちょっとやりすぎてまずいシーンはカットされた(逆だったかも……)
クドカン:村田富江は、実在の(テニス選手)田村さんと(陸上選手)寺尾姉妹を合体させた架空のキャラ。寺尾姉妹は世界記録を出したのに、新聞は記録にはいっさいふれずに「美人姉妹」と書き立て、悪い大人たちがブロマイドを売ったりした。嫁の貰い手が亡くなると危惧した父親の判断で、姉妹の五輪出場は取り消しになった。
黒島:槍投げは気持ちよかった。
クドカン:初めは金栗が生徒たちに、欧州での経験から抱いた女子陸上への思いを演説させるつもりだった。だが、”言葉の人”まーちゃんと違って、金栗さんは行動で思いを示す人。彼が槍投げをする姿に触発されて、村田も「こんちくしょー!」と投げるパターンに書き換えた。

クドカン:優秀なNHKのスタッフが、毎度読み切れない量の資料を持ってきてくれる。資料を読むと、ロス五輪では、いつ大横田がお腹を壊したかもわかる。東京五輪では、何時何分に何があったかすべて記録されている。嘘は書けないので、たいへん。

黒島:女子学生が教室でバリケード作るシーンも印象に残る。女性の強さがよく描かれた。
クドカン:あの次の回が関東大震災。震災と対比させるために、華やかな話にしたかった。

勘九郎:39話には僕の弟も出さしてもらいましたけど、僕はもう見てて号泣しました。皆さんもそうでしょ? で、40話からの怒涛の展開がすごかったですよね!?

石井:昭和にタイムスリップしたら、どの競技を観たい?
クドカンアベベ。実は裸足じゃなかった。で、何を履いていたかと言えば、こうご期待。
勘九郎:陸上(←あやふや)
黒島:柔道です(ヘーシンクのこと?)
クドカン:やっぱり開会式も観たい。まーちゃん、前回解任されたけど、そのままじゃすまないんですよね。

石井:大松監督きびしいですね?
クドカン:絶対体罰はやらなかったけど、まあ、とてもきびしかった。テロップで何度も「これは虐待ではありません」て出るけど、まあ、そう観えちゃう。安藤サクラさんは元々河西キャプテンに似てるんだけど、演じるうちにどんどんもっと似てきてすごい。河西さんは途中でお父さんが死んじゃって、結婚式では大松さんが父親代わりを務めた。
勘九郎:え~、そんな大事なネタばらしちゃだめでしょう!
クドカン:あぁ、もう現実に書いたことと、そうでないことの区別がつかなくなってる。書き始めた時は、金栗さんをいつまで出すか決めてなかった。でも、しょっぱなに走る後ろ姿を見て、最後まで行けるんじゃないかと思った。
勘九郎:白髪で走る僕の後ろ姿、シルバーバックっていうマウンテンゴリラみたいですね。

石井:来年のオリンピックでとくに何を観たい?
勘九郎:同日開催のサッカーと陸上のチケットが抽選で当たった。行くとしたら……サッカーかな。
クドカン:えー、金栗さんが陸上観なかったら顰蹙でしょう(笑)。
勘九郎:でもサッカー決勝に日本チームが進んだら、ぜったいサッカー観る。
クドカン:僕はネット動画で槍投げの女子選手を観て「いいなあ、この子」と応援してる。名前わからないけどその子がオリンピックに出たら、ぜひ観たい。
黒島:自分もやったのでバドミントン。(これからのことを訊かれて)『いだてん』に出て、日本の女性はすばらしいと思った。自分も力強く生きていきたい。

クドカン:実在の人物を描いたのは今作が初めて。実在の人物だから金栗さんのことはあんまり悪く書けない。でも、仕事とかどうしてたのかなぁ……と。ろくに家にいないのにたくさん子供が生まれてるし。
勘九郎:弟子が「笑ってるか走ってるかの人でした」ってね。
クドカン:そうそう。
勘九郎:スヤに「帰って!」と言った回のあと、僕はみんなからにずいぶん責められました。

今まーちゃんが生きていて、都知事が東さんだったら、ぜったいマラソンは東京でできたのに! という話で盛り上がる。

石井:今後の展開は?
クドカン:昭和の東京オリンピックが開催されて、それが2020年のオリンピックに続いていくんだなぁと思ってもらうストーリー。オリンピックはやはりお祭りだと思う。


フォトセッション時、ファンが「『いだてん』おもしろいじゃんねえ!」と書いたうちわ(?)を持っているのに気付いた勘九郎が「そう! 違う! そう!」とまーちゃんの物まね。場内拍手喝采

石井:このあと(NHKスタジオで?)ゲストのインタビューを行う。12月なかば『クマロク!』で放送予定。

感想
*笑いの絶えない楽しい1時間だった。クドカンがちょっとブラックなジョークを飛ばした場面もあり。近ごろ洒落のわからない日本人が増えているので、ここでは割愛。
クドカンはTVインタなどで見るのと同じ、トーク慣れした感じ。”すごい政治ドラマも書ける大物”感を漂わせない。ひとは見かけによらない、の見本。
勘九郎は役が抜けきらないのか、あえてそうしているのか、金栗モードを感じた。亡き父上のような立て板に水ではないが、話は上手だし、観客に対しても黒島さんに対しても誠実な印象。
*黒島さんは何度も「女性の強さ」という言葉を使ったが、この日見る限り、ご本人はかなりおとなしい。細くて顔が小さくて、10列目くらいの席からは、顔がよく見えなかった。
*後ろの列の人が「近所のおばちゃんが5人申し込んだけど、誰も当たらなかったらしい」。当選してラッキーと思う。どの年齢層にもかたよらないよう選ばれた感じ。
*県民総合公園運動競技場(現 えがお健康スタジアム)の第3ゲートが〈金栗ゲート〉の名で親しまれている。誰もその件にふれなかったのは少々意外。

第44回『ぼくたちの失敗』

金栗四三と家族友人の素朴な人間関係から始まった『いだてん』が、ここ三話くらいはスポーツドラマとして以上に政治ドラマとしてわくわくさせてくれる。

主人公が転落する回だからこそ笑いを大切にしたとはスタッフの弁。その意気やよし!

インドネシアでのアジア大会のことはまったく知らなかったし、当国とイスラエル、台湾との確執も初耳。先週今週はたいへんためになる現代史講義であった。大会にかけるインドネシア国民の熱さがまぶしい。

誰に対しても臆することなく突進してきたマーちゃんの前に、政界の"陽気な寝業師"川島正二郎が立ちはだかる。浅野忠信には往年の佐分利信山崎努ほどの重厚さ底知れなさは感じられないながら、これはこれで悪くないたたずまいである。正二郎が川島派を立ち上げたのは東京オリンピック以後のこととて、『いだてん紀行』で取り上げるにはふさわしくないエピソードかなぁ。
何度もゾクゾクするような演出を見せてくれた大根仁だが、第44回『ぼくたちの失敗』にかぎってはフラッシュバックの繰り返しが三度ばかりくどく感じられた。JOC事務総長を解任されて呆然としながらも、「どこで間違えたのか?」と必死に過去の行状をふりかえるマーちゃん。大立者たちの顔が浮かんでは消える。オリンピックをスポーツのためのスポーツの祭典から、似て非なるものに変えてしまったのは他ならぬ自分であると思いいたる……が、銀の匙をくわえて生まれた者や、奇特な後援者に恵まれた者だけが参加できる大会のままで収まったはずもなく、彼にとっての『失敗』がオリンピック発展に寄与したことも事実である。(マーちゃん的人物が、日本以外の国にいなかったはずもない)そしてそれゆえに、彼は大きな力に潰される。田畑政治がオリンピック前に事務総長でなくなったとはつゆ知らず。これが戦国時代の大河だったら、殿様か重臣だった主人公が城を追われるのと同じような展開か。

かつての切れ味が失せ、けれどどことなく高潔さも感じさせた津島が、組織委員会会長を退く条件に田畑の解任を求める。予想外の人間臭さがいい、というか、これがよくある駆け引きだろう。明るい役が多かった井上順だが、寂しさや最後の意地がにじむ津島寿一を造形して、一皮むけた印象である。

まじめな鶴さんが田畑夫人に面と向かって「マーちゃんは意外と嫌われているんです」。すると奥さんが「でしょうね」
いかにもクドカンらしい苦味と滑稽味が両立する会話劇と思ったら、どうやら演出家が現場で付け加えた台詞なのだとか。こういうのも脚本家と演出家の一心同体の証と言うのだろうか。

マーちゃんが子供たちの運動会にも行かなかった件。過去回で子供が映ったのに忘れてたのは自分だけか!? と思ったが、海馬が働いている大河オタの皆さんも「子供いたのか!」と驚いているので、描かれなかったのだな。過度に主人公の家庭を描かないのも今作の好きなところだ(企業ドラマで毎度妻子が主人公にグジグジ言う場面にはうんざり)。仕事場ではともかく家ではダメ男って場面は、孝蔵でお腹いっぱいである。

志ん生とマーちゃんが交互に語る落語は『替り目』とのこと。落語ドラマ『タイガー&ドラゴン』では主要キャストのうち落語をやらなかったのは"どん太"を演じた阿部サダヲのみ。あの時の埋め合わせで彼に落語をやらせてみた……なんてことはないだろうけれど。非本職としては七之助の落語演技もすばらしかったが、男がしゃべる設定をやらせたらサダヲがダントツでうまいのではないか。
かなりの早口になっても明晰な台詞回しを維持できる主演級俳優と言うと、この人、堺雅人長谷川博己ビッグスリーか。で、三人とも大河の主演である。

残り三話も心して拝見したい。予告でいい顔をした安藤サクラが出てきて、ますます楽しみになった。