『磯野家の人々~20年後のサザエさん』

松岡茉優西島秀俊が出ているならちょっと見てみるか……と録画してみた。わざわざ見なくてもよかったというのが正直なところ。

音楽が映画『海賊とよばれた男』に似てるなあと思ったら、やはり佐藤直紀だった。格調やスケール感がただよっていて、『経世済民の男』第二弾(があるなら)あたりで聞きたかった。

演出の鈴木雅之はヒット作も多い大ベテランだと思うが、今回は退屈させないテンポを保つのが精いっぱいという印象。
タラやイクラの暮らしぶりは紛れもなく現在なのに、なぜ磯野家の前の道路を未舗装にして昭和感を出そうとするのだろう?

就職氷河期に苦労した世代や現在就活中の大学生が見て、あの筋書きで感動するのだろうか?
働いたことのないサザエの言いたい放題に苦言を呈するのがカツオだけって、あの家ヤバすぎないか? ウン十年前にアニメで見た磯野家フグ田家は楽しそうだったが、このドラマの夕食シーンは「なぜマスオは家を出て行かないのか」理解しがたくなるような地獄であった。サザエもあそこまで押しつけがましい女だっけ? 弁当の製造法を修正しない意固地さが気持ち悪い。

濱田岳はさすがにうまい。
演技巧者の堀内敬子が出てきてびっくり。ほんとうに楽しいホームドラマで彼女を拝みたいものだ。
松岡茉優については、過去作をいくつも見てしまった影響で、終始もっと裏があるのではといらぬ深読みをしてしまった。
西島秀俊が意外によい塩梅で気弱なマスオを好演。
でも皆さん、こんな作品でもったいない。

一番サザエさんワールドの人らしく見えたのが、小出伸也演じるアナゴさんだった。最後に彼が勘違い新人をシめにかかったのだけが、爽快であった。

『まだ結婚できない男』がおもしろくて悪いか!

シリーズ1から13年もたったので、スタッフとりわけ脚本家の腕がなまっているのではないかと危惧したが、全然失速の気配はなく、毎週楽しませてもらっている。タイトルのフォントや音楽のアレンジがちょっと変わっただけで、以前のテイストは大切にされている。初回の「幸不幸は結婚既婚では決まらない、人生百年時代、第二ステージをいかに生きるかが大切」という講演は時宜にかなった明るいメッセージで、心が温かくなった。

17日の特番『「まだ結婚できない男」の全てがわかる 阿部寛×脚本家・尾崎将也対談スペシャル』はあやうく見逃すところだった。火曜のドラマ終了後に、地方ごとの放送予定を告知すればよいのに!
阿部寛は「桑野は変わっていない方向で演じたかった」とのこと。ひきつけを起こしたような笑い声や道路に引かれたラインからはみ出さないよう歩く子供じみた癖などは前シーズンより誇張されているが、あくまでやりすぎない範囲にとどまっている。滑舌の良しあしはともかく、コメディセンスは優れた俳優なのだ。
尾崎将也の顔は初めて見た。このドラマに愛着があるのは嘘ではなさそう……にお見受けする。年寄りまたは女子供目線のドラマが主流になっている昨今のテレビ界では、五十代独身男性目線で展開する連ドラはひじょうに貴重! これからもがんばっていただきたい。桑野が成長していないのはおもしろくてけっこうだが、英治の服装をもちっと大人の男らしくしてもらいたい。桑野と差別化するにはあれしかないのだろうか?

第5話『神様にお願い事して悪いか!』
女性トリオの旅のドタバタはさしておもしろいと思えず。桑野が古今の文学者哲学者たちの結婚観を並べ立てるシーンは笑えた。
この回、初めてリアル視聴中に"金田"探しに成功! こういうシーズン1からのファンのためのサービスも楽しい。

第7話『カフェを好きで悪いか!』
その気がないのに毒舌の合間にいいこと言っちゃうのも桑野なら、「親切な俺!」なんて自己陶酔せずに人のために骨を折るのも桑野である。今回は自分の儲けをふいにしてもカフェ存続に尽力する。かまってちゃんなところもあるかわり、こういう善行をアピールしないダンディズムもあるのが彼の魅力である。
第5話から2話ぶりに"金田"探しに成功。今回は親切な映し方だった。今後は会話の中でさらっと「金田」と言わせたりするのかな?

金田と義弟・中川良雄のバーでの会話もこのドラマに欠かせない要素である。中川が、女3人に搾取される生活でたまった鬱憤を晴らそうとするエピソードがあるのかないのか……男2人に言いたいことを言わせながらも、主婦のクレームをうまくかわしているあたり、尾崎氏はやはり手練れである。
お年頃の姪・ゆみも何かやらかしそうで楽しみである。
桑野とやっくんの友情(?)の行方も気になる。華やかな女性たちだけでなく、英治や棟梁以外の同性とのかかわり方にも興味がある。

第40回『バック・トゥ・ザ・フューチャー』

『リバースエッジ大川端探偵社』でうらぶれた男を好演した岩井秀人。以来気になる存在だったが、今回は肝心な時にアキレス腱を切って演説が出来なくなる外交官、北原英雄がはまりすぎていた。「デゾレ」連発が気の毒ながら、演出の妙もあってかすかにおかしみも漂う。ここぞと言う時に担当者が体調を崩したりケガをしたり、それでも誰かが任務を受け継いでいく。このパターンは実は一度や二度ではないのだが、自分は見巧者の感想を聞いて遅ればせに感心したクチで、人生のままならさや人間のしぶとさやら、描写のうまさにあとから気づかされた。

妻子から"ある点については"低い評価しかもらえないのは孝蔵だけではなかった。東の都知事選出馬に関して、めずらしく逆直談判ケースを経験するマーちゃん。「だめだってわかってるからこそ、がんばりたいんだよぉ!」の東。落語に出てきそうな男のかわいげ全開であった。

最終章に向けて、これまでのおさらいをする……だけに思わせて、さらっと大きなイベントを織り交ぜてくる説明会。是清に直談判した御仁が何をしようと驚くべきでもないのだが、マッカーサーまで説得したとは! 敵は「従順ならざる日本人は白洲だけではなかった」と感じ入っただろうか? 戦後の苦しい時期に米国選手に打ち勝った日本人があれだけいたとは初耳である。

役柄の魅力に負けないキャストの投入が続く。"フジヤマのトビウオ"を演じるのが北島康介。演じ手の運動能力が、役の名アスリートを超えるのはこれが史上初ではないだろうか?
しかし古畑選手が中学生の時、左手中指の一部を失った件をついさっき読んだ。画面で指がどう映るのか、次回よく見なければ。
敗戦国の選手を馬鹿にしまくっていたアメリカ人たちは、裏オリンピックで結果を出した古畑たちにちゃんと謝罪し、すばらしいタイムを称えた。どっかの国とは大違い……。その後の、自分の国の成績がふるわなくなると、ルールを変える手段に出る欧米、律義にルールにそった練習を重ねる日本、の構図まで描ければスポーツ・ドラマとしてまた次元が上がるだろうが、東京五輪がゴールだからそこまで望んでは欲張りすぎというものか。

ヘルシンキ五輪会長の「オリンピックは金になる」発言も初耳。10ヶ月間、四三やマーちゃんの苦闘を見てきた視聴者としては、それを不真面目だの不純だのと否定する気にはなれない。

徳井義実に悪気がなかったわきゃないだろ~。しかし、逮捕されたわけじゃなし、結果的に納税したのだから、演技が放送されたってなんの問題もない。クレームをおそれず収録済みの映像放映とは、英断である。ニュースや似非ドキュメンタリーには辟易させられるNHKだが、ドラマに限ってはかけがえのない存在と思う。
正直、徳井氏がどれだけ"鬼の大松"に迫れるか想像がつかない。『まんぷく』で才能を浪費させられた安藤サクラのバレー選手演技はひじょうに楽しみだ。

 

『いだてん』いよいよ最終章!

次回のサブタイトルは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』!
田畑政治・後編への期待止まず。
信長も龍馬も出てこないけど、魅力的な男女が織りなす人間模様と日本が、そしてときどき世界が動くさまが生き生きと伝わってくる。今のところ残念な回はゼロである。技術的には大河史上最高脚本の一つだと思う。史実を丹念に調べ、古い書籍、雑誌、新聞またはそのコピーを探し出してきたスタッフの功績大であるが、多量のエピソードの取捨選択はやはりクドカンのセンスあればこそ。どんな細か~いネタでも、取ってつけたような扱いがなく、出番のすくない人物にも使い捨てでは終わらない役割が与えられている。

第37回『最後の晩餐』
四三と勝が浜辺を走るシーンが『炎のランナー』を彷彿させる。スタッフは意図しているのか、たんなる偶然か……。


第38回『長いお別れ』
「もはや世界中が戦争当事者でした」
このナレーションがあるだけで作品の次元が上がる。世界地図でいかに参戦国が多かったかを示したのだが、視聴者はちゃんと見たのかなぁ。
永遠のお別れを告げた嘉納治五郎の棺が船から陸へ。完全引退だったかと思われた清さんがまた出てきてたまげた。四三の「オリンピックはやるけん、かならず」は、アスリートではない人々へも向けた言葉。
勝の招集を聞いた増野の反応がいい。そして人は楽しい時に歌うけれども、悲しい時にも歌で心を励まそうとする。『あまちゃん』でも『いだてん』でも音楽が視聴者の心を揺さぶる。
偉そうな反戦論者が一人も出てこない、その時代を必死に生きた人々のドラマとなっている。
神火リレーの案は知らなかった。いろいろ勉強になるなぁ。梅津大将の出番はこれで終わりだろうか……。


第39回『懐かしの満州
妻子から「いても役に立たないから」と満州行きを応援されてしまう孝蔵。いつでもどこでも酒が飲みてえ孝蔵。大河史上まれにみるキャラの準主役である。
志ん生と同じくらい圓生のキャラも立っている。
「居残りのみなさん、しでえ顔をしとりますな」
江戸っ子らしい「し」や「え」の発音、フランキー堺より自然な「~でげす」の言い方。女形だから当然とはいえ落語の最中の女の所作の艶っぽいこと、七之助の魅力全開である。
客席を沸かす圓生を見て、嫉妬の炎を燃やす孝蔵。ただの酒浸りではなく、芸人としての嫉妬心も旺盛だったのだ。
なんと満州の寄席に勝が来ていた! 名人にむかって所作の指南をするマラソン馬鹿。のちには巾着切りの真似をするほど落ちぶれた……というわけではなかった。
沖縄で玉砕したのか、と思わせて違った。シベリアに引っ張られたのか、というのも違った。
勝は演目が終わる前に矢も楯もたまらず会場を飛び出し、「志ん生の『富久』は絶品」と書いたはがきを投函する。
ようやく孝蔵と勝と五りんがリンクする。なんでそこで走っちゃうのか!? しかし勝に落ち着きや分別があったら、マラソン馬鹿ではなかったら、あのはがきもなかったのである。
勝の亡骸を前に「兄さん行こう」とうながす圓生。相棒の欠陥をおぎなうかのように、終始冷静な男である。

その後、日本では……未亡人となったりくの手元には、満州からのはがきと、くたびれたランニング足袋。今回までの積み重ねにより、この二品がほんとうの宝物と化す。

ぽんこつ占い師、マダム・ローズが今回も笑わせてくれる。「死ぬまであんた一筋だったようだよ」
次の瞬間でまた大笑い。
落語家二人の会話がいい。
「所帯持つことにした」
「おれと?」
「女と!(引き上げ船に優先的に乗れるよう)夫婦の真似事をしようって話になったんだ」

孝蔵のなりすまし女房がただものではない。「うわばみ」ってのも久々に聞く日本語だ。
しかし、この姐さん「誰に口きいてんだ? 手ごめにしてやるぞ!」(笑) すごいな日曜夜8時のNHK!
この怪力女(?)も含めて、登場人物が誰も縮こまってないところがすがすがしい。

NHKにしては左翼臭が薄いドラマだから、あまり文句は言いたかないが、「さんざっぱら云々」には異論あり。日本人よりはるかに戦争慣れしているヨーロッパの人々が、農奴の国の一兵卒連中はかくべつタチが悪かったと言っている。

晴れて故郷に帰り着いた孝蔵。
「なーに、今はおれたちだけの貧乏じゃねーよ。今度は日本がとびっきりの貧乏だ。な? な?」うなづく隣人たち。「みんなでそろって上向いて這い上がっていきゃいいんだから。わけねーや」
そうやって日本人はいつでも大きな災難から立ち上がってきた。
「最終章スタート!」のテロップに心躍った!!

日本disに利用できそうな場面だけ切り取ってはしゃぐインテリさんたちのおかげで、善男善女がこんな味のある人情噺を敬遠するとしたら迷惑な話である。上から目線の説教ドラマじゃあないんで、ラグビーが終わってからでもいいんで、もっと多くの人々に今年の大河を楽しんでいただきたい。

『ピュア! ~一日アイドル署長の事件簿~』(全3話)

今年のお盆シーズンは『いだてん』以外の総合番組全滅……ではなく、セのつくものと無関係なドラマならと期待していた。
昨年の大傑作『満願』のようなゾクゾク感は味わえずとも、不愉快ではないひと時を過ごすことができた。この調子で今夜も明日の晩も飛ばしてもらいたい。
まっっったくピュアではない腹黒アイドルと、高ビーでいちいち大げさな身振りがこっけいな捜査一課刑事がタッグを組んで難事件を解決する。
蒔田光治・作 とのことで、なるほど『ハードナッツ!』や『スリル!』とノリが似ている。
芸達者など出演していなくとも、脚本にユーモアがあって演出家がテンポよい画面作りをすれば、ちゃんと笑えるドラマができるのだと再確認した。刑事がジャガーに乗っているのは、『主任警部モース』へのオマージュ? どの場面がどの映画やドラマのパロディか、すべてわかればなお楽しめるのだろう。こんなお馬鹿ドラマに1時間10分割くことを許可してくれたお偉いさんに感謝したい。

 

『いだてん』息切れせず

7月に入ってからも箸休めの回やら残念な回やらがまったくない。歴代の傑作大河の中でも、なかなか稀なことではないだろうか。

第28回『走れ大地を』
「実はな、記者を辞めようと思う。新聞なんて無力だ。いくら得意になって政府を批判したところで、庶民の暮らしはちっとも楽にならない。だったら代議士になって村の用水路一つ直したほうがよっぽど世のためになる」占ってやろうとお節介焼くマリーに「ちょっと、おばはん黙ってて! ……俺は政治で日本を変える。お前はどうする? 本気で汽車を続ける気はあるのか」「ああ」「だったら、特ダネの一つも取ってきたらどうだ」
桐谷健太史上もっともかっこよいシーンの一つではないか。これから政治家、河野一郎の立場でまーちゃんと喧嘩したり協力したり、丁々発止で楽しませてもらえそうだ。あくびが出そうだった朝ドラでもこの人の役だけは詐欺師的ではあっても人間味があっておもしろかった。これからNHKドラマでどんどんいい役がつくとよいな!
しかしやはりよいのはクドカンの台詞のセンスである。「用水路一つ」という名詞を選ぶところが信用できる。「おばはん黙ってて」も彼特有の照れ隠しかもしれないが、好きだ。

色男の高石が荒れていると、松澤が「おい、関西弁。関西の顔になってるぞ!」もう笑うっきゃないのだが、この場面は視聴者によっては「ふざけすぎ。ギリギリアウト!」かもしれない。
松澤はまーちゃんのことを「ほっておけないと思わせる何かがある」と評する。『あまちゃん』のアキもそういう造形だったような。演出と演技ががっちりタッグを組んで、メフィストフェレス的なだけではない人たらしを巧みに造形している。

スランプに悩む前畑が「三食ついて英会話まで習わせてもらって云々」。これが当時どれだけ贅沢なことだったか、東京を中心に描いてきたからいまいち伝えきれていないのが若干残念だが、あくまで水連や陸連から見た日本と世界を描いているのだし、なんといっても一話45分なので、これ以上望むのは贅沢というものだ。

オリンピック応援歌の発表日が5月15日!! なんというドラマチックな偶然か。日付を聞いてここまでどきっとするのは、やはり近現代大河ならではである。歌詞が採用された少年のインタビュー記事に「『三勇士』に応募しようと思ったが間に合わず」とあり、世相を感じる。

狙撃された犬養毅の血のしたたり方がどろっとしていてけっこうリアル。出番は短かったが、塩見三省の俳優人生でかなり重みのある役だったと思う。この人、クドカンと組むといつもの力みが消えてさらっとよい芝居をするなぁ。


第29回『夢のカリフォルニア

ロサンゼルス五輪で大活躍した若手ではなく、ピークを過ぎたベテランに光を当てた、たいへん心に残る回であった。
後進を育てるのも大事な役割と己に言い聞かせながらも釈然としない思いを抱え、深夜に自主練し、選考会では落選の結果を受け入れて静かにプールサイドを去っていく高石。斎藤工はときどき色物的な扱いをされることもあるようだが、今回はこんな味を出せる役者なのかとしみじみ感動した。
"Whites Only"――これが何度も何度も映るのだが、押しつけがましくアップにしたりしないのが『いだてん』の『いだてん』たるゆえん――の表示があるプールで守衛を務める黒人男性。貧乏な日系移民に仕事を奪われた経験があり、日本選手を温かい目で見るなど考えられなかったのに、一人で黙々と練習する高石の姿を見つめる目に何かが宿っていく。選考会で泳ぐ高石に"You can do it!" 高石の頑張りを見せたいからか息子を連れてきたところにも心を打たれる。
そしてなんと言ってもまーちゃんである。「日本人は情緒的でいかん。メダルが取れなきゃ五輪に出る意味がない」とか言ってたのが、「日本を明るくしたいから選手にメダルを取ってほしい」という本音を漏らし、選考会では高石に「がんばれ、かっちゃんがんばれ!」「かっちゃん、お疲れ」。デリカシーがなかろうが根はホットな一面が出ていて惹きこまれた。最初は金の話しかしなかった岸体育協会会長が駅伝を観戦するうち夢中で選手を応援しだした場面を思い出す。

日本国内が不況で、それなのに人口ばっかり増えていくもんで、外国に移民せざるをえなかった、という当時の世相がどれだけ視聴者に伝わったか少々疑問である。そこを踏まえないとその後の日本の辛さも理解できないのだが。

日本側の主要登場人物はみなよかったが、今回の決め台詞は"You can do it!"。関東大震災の回も人見選手が主役の回も映画一本分の重みがあったが、この一幕も映画の一こまのようであった。
黄色人種がプールに入ると、「汚ねえ」とばかりに水から上がる白人選手たち。陸上ではアフリカ系大活躍の21世紀でも、水泳ではいまだに黒人選手をめったに見ない。90年ちかくたっても状況がかわらない差別があるに違いない。

土曜スタジオパーク』で阿部サダヲ皆川猿時がいろいろ宣伝してくれたおかげで、次週が楽しみでたまらない。

上半期の映画

『マダムのおかしな晩餐会』(監督:アマンダ・スティール)
階級社会フランスを舞台にした有毒成分高めのコメディ。リッチなマダムの強引さにドン引き。最後をポジティブに終わらせたいにしても、若干無理のあるエンディングと感じた。

ヴィヴィアン・ウェストウッド 最強のエレガンス』(監督:ローナ・タッカー)
タッカー初の長編ドキュメンタリー。パワフルなファッション・デザイナーの一代記としては手堅い出来。本業に才能を発揮してきた人が、最後は浅薄な流行に乗った活動家もどきになってしまったのはかなり残念。

『映画 刀剣乱舞』(監督:耶雲哉治)
ゲームはしないしミュージカルのことは知らないし、内容についてもほとんど知らなかったが、チャンバラが見たくて鑑賞。
予想以上の満足を得た。一流のアニメ脚本家として名高い小林靖子が脚本担当。音楽は北野武作品や数々の時代劇ドラマでかっこよいメロディーを聞かせてくれた遠藤浩二。キャストは知らない若手が多かったが皆さんハイレベルであった。とくに三日月役の主演、鈴木拡樹の演技に感嘆した。野村萬斎を彷彿させる落ち着いたたたずまい、若いころの西村雅彦に似た性質、完璧なせりふ回し。じつは千年以上前から生きていた、という設定に説得力を持たせていた。

ヴィクトリア女王 最期の秘密』(監督:スティーヴン・フリアーズ
ヴィクトリア女王と、即位50周年記念式典に記念金貨を運んできたインドの若者の心の交流を描く。信じがたい内容だったが、実話ベースであるとのこと。異文化の衝突、身分違いの人間同士の相互理解。盛られた話と真実の違いとは? 
ジュディ・デンチの名演技を堪能。アブドゥル・アリ・ファザルは実力派二枚目という印章で、今後もイギリスのドラマや映画で活躍しそうだ。撮影は『英国王のスピーチ』のダニー・コーエンということで、画面は豪華だが決してけばけばしくならない。潤沢な資金によるコスチューム、大道具小道具を堪能。インドがからむイギリス映画というと、昨年公開の『英国総督 最後の家』は流血多めだったが、やはり歴史ドラマとしておもしろかった。イギリスは世界各地に迷惑をかけてきたうえに、旧植民地がらみの小説や映画でがっぽり儲けており、まあいろいろとブリカスの名に恥じない国ではある。

『サムライマラソン』(監督:バーナード・ローズ)
チャンバラが見たくて鑑賞。
監督が外国人ゆえの違和感はとくになし。しいて言えばBGM(フィリップ・グラス)とスローモーションのかぶせ方が邦画とは違うとかんじたくらい。
金栗四三が生まれる前に日本人が長距離競走をやっていた!? 行きはマラソン、帰りは戦。縄のひっかけ作戦がつまらないと思ったアクション映画ファンもいたようだが、自分は快哉を叫んだ。
佐藤健の芝居のうまさ、高いアクション能力は期待通り。小悪魔的なイメージが強かった小松菜奈だが、まっとうな姫のムードも出せてちゃんと銀幕の花をやっていた。板倉の殿のキャスティングが長谷川博己とは、なかなか贅沢。

『キングダム』(監督:佐藤信介)
原作未読。脚色担当は佐藤信介、黒岩勉、そして原作者の原泰久
内容はほとんど知らず、アクションが見たくて鑑賞。
血沸き肉躍る活劇を拝めて大満足である。なんだ~、日本映画も現代ではない時代、日本ではない国を舞台にすればおもしろい戦争映画が撮れるんじゃん! 大規模なロケ、敵に容赦しない将軍たち、頭をフル回転させ、体もめいっぱい使わなくちゃ生き残れない過酷な世界。なにより戦いに際して余計な躊躇趣味を発揮する人間がいないのがよい。長澤まさみのかっこよさに惚れた。映画やドラマの監督たちはこれまで彼女の素質の何を見ていたのだろう! 始皇帝の若き日を演じた吉沢亮にも目を見張った。やんちゃな兄ちゃんをやれる若手は多々いるが、王の冷たい威厳を体現できる人は希少である。
気分爽快で映画館を後にできたが、『空母いぶき』予告編にただよっていた微妙な感じが気になった。鑑賞済みの映画ファンによれば、原作無視なんて生易しいものではなく、中国軍が敵から有志連合の一員に変更という噴飯ものの大改悪映画だったとか! 『沈黙の艦隊』同様、OVAにすれば原作のまま映像化できそうなものだが、そっちの話はないのだろうか。

『ねじれた家』(監督:ジル・パケ=ブレネール)
上半期の洋画としてはこれが一番の好み。原作はアガサ・クリスティー。『ダウントン・アビー』や『ゴスフォードパーク』で名高いジュリアン・フェロウズが脚色。
無一文から巨万の富を築いた大富豪レオニデスが毒殺され、その孫ソフィアが私立探偵で元恋人のチャールズに捜査を依頼する。
立派な屋敷に三代にわたる家族が同居しているのだが、同じ建物内とは思えないほどそれぞれ室内の装飾が異なる。登場人物のキャラの違いをここまでインテリアで際立たせた作品は近ごろ記憶にない。
ミステリになじんだ観客なら、なかばあたりで犯人の目星はつくと思う。あとは犯人確保の瞬間をどう描くかだなぁ~~となかばドキドキしながら画面を眺めていたら、まさにぶった切るようなエンディング! 2時間かけなくても濃厚人間ドラマはじゅうぶん作れるお手本のような映画であった。懐かしのテレンス・スタンプやらごひいきの――でもちょっと老けちゃった? ――ジリアン・アンダーソンやら、思春期の少年には目の毒な感じのクリスティーナ・ヘンドリックスやら豪華キャストの丁々発止も見ごたえたっぷり。チャールズを演じるマックス・アイアンズはなんとジェレミー・アイアンズのご子息なのか! 父上のおもかげはまったく感じなかった。アマンダ・アビントンはワトソン博士の奥さんやってる時とはまた違うおもむき。オナー・ニーフシーは末恐ろしい子役である。
ケネス・ブラナーのリズム感やアクション・センスがまったく肌に合わない当方としては、今後のクリスティーものは極力パケ=ブレネールに撮ってもらいたい。