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『神谷玄次郎捕物控』第一回『誘拐』

清く正しいお話より大人向けの人情話を好む人には、安心してお勧めできる時代劇。『雲霧』リメイクより気に入った。NHK時代劇班と松竹がタッグを組むと、時専チャンネル・松竹コンビの次によい仕事をする。藤沢原作のNHKドラマとしては、知るかぎりでは本作が一番遊びが感じられる。

朝まだき、霧に包まれた川をゆく二艘の小舟。そこへかぶさるツケと太鼓の中間みたいな打楽器によるBGM(安川午朗GB!)。今回は冒頭がベストショットと言いたいくらい美しくかっこよい。

黒や茶や暗めの緑や紺が引き立つ、全体に抑えた色調の撮影が魅せるが、一部男優のアップが「え、なんであんたはゴルフ焼け?」みたいにドーランが目立っちゃってるのが残念。もうちょい照明の当て方かメイク法を工夫していただきたい。あえて不満を挙げるとすればこれだけってのも、贅沢な話だ。
帳面を綴じる紙縒りの束を映すとこなんざ、芸が細かい。NHKというより松竹の力?
街中も髪結い床の店内も、キャストをけちらないとこが偉い。
今回の脚本担当は安倍徹郎。ナレーションも含めて、江戸の言葉をむやみに現代風に噛み砕いたりせず、時代劇のムードを出していてよかった。締めの台詞が「これから夜の大立ち回りか?」ってのもいいねぇ(ゲス)。

サイボーグみたいに無表情の子守女が怪しいのは、誰が見たってわかるので、推理を楽しむというよりも、江戸の人情劇を楽しむためのドラマという印象だ。

おなじみの峰打ちとは違う種類の重傷よけの殺法や、十手を使った立ち回りなど、中村健人指導の殺陣が見ごたえあり。

高橋光臣は『老盗流転』よりこなれた印象。町人髷も似合う人だが、同心の扮装がばっちり嵌っている。自堕落と評判ながら頭が切れて剣の腕が立って、色気もあるし、母と妹を殺された暗い過去を背負うって、この上なくかっこいい役を貰ったな! 玄次郎とお津世の濡れ場がま~なんというか、NHKもBSになるとここまで張り切っちゃうのかという頑張り様であった。『新撰組血風録』の芹沢鴨に迫る濡れ場であった。この手の場面は男優の芝居も大事だが、鍵は女優の受け方だ。中越典子がここまで色っぽい女将がはまるとは思わなかった。この二人が酒を酌み交わす場面は、ゆっくり動くカメラワークもあって情緒がある。女に借りた長羽織と綿入れの中間みたいなのを羽織った玄次郎の姿もしどけない。
なんといっても、中村梅雀が出てくると皆の芝居に気持ちの良いリズムが出来上がる。山崎樹範が、一見頼りなげな役ながら、声を荒げて町人を叱りつける場面をしっかりこなして好印象。よい声だった。長谷川朝晴は時代劇では初見だが、過不足のないよい芝居。岸本加世子がばあさん呼ばわりされる役の世代になったとは。時代の流れを痛感する。

不安半分だった本木克英の演出も予想外に手堅く、次回からも楽しみだ。