今年見た民放ドラマ

昨年の『ゴーイングマイホーム』に匹敵する作家性に富んだ名作はなかった。お気に入りもリピートするほどではなかった。そして、自分が心惹かれるドラマはたいてい低視聴率の法則を再確認した。

『空飛ぶ広報室』
ブルーインパルスの美技だけを目的に見たのだが、柴田恭兵演じる柔軟で懐の深い管理職も魅力的だった。今年のベストスマイルは、飛行機ヲタクのカメラマン役渋川晴彦が最終回で見せた晴々した顔。高橋努は『レディ・ジョーカー』と今作で私的注目株。どんな役でも地に足がついた感じが出せそうな人だ。

クロコーチ
昨今まれに見るイキのいい通俗ドラマ(骨太な社会派ってのは褒め方が違うと思う)。清家の性別は原作と変えたそうだが、それが重量感のある男のドラマの邪魔にならなかったのは珍しいことだ。なぜ、長瀬智也だけがおもしろみのある作品を選ぶ(選ばれる?)幸運に恵まれ、女子供の玩具みたいな役を拒否する自由を持っているのか?? 来年、『MOZU』以外のドラマが全滅だったら、『歌姫』DVDでも借りることにしよう。

『刑事のまなざし』
記事にしなかったが、第二話以外は視聴。『クロコーチ』と好対照と言ってもいい、ケレン味のない地味な刑事もの。アクションや怒号抜きの控えめな外面に似ず、母性神話全盛のこのご時世に初回から母親による子殺し未遂を出すなど、チャレンジングな作品でもあった。捜査班に、おちょくられるためのメンバーがいないのもよかった。要潤がまっとうな二枚目を演じたのは初めて? 松重豊は大河に引き続きチャーミングなおっさん役。逮捕した元妻との車内のやり取りが心に沁みる。もっとこの手の、年月の重みのある情の演出を見たいものだ。椎名桔平の驚異的な若さはいったいなんなのか? 役柄は『ヌードの夜』からおおいに変わったとはいえ、とても五十がらみには見えない。

『リーガルハイ』
守りに入らないスタッフの姿勢には敬服するが、パート3は要らない。フジは柳の下に何匹もドジョウがいると考える傾向があるけれど、引き際が肝心。古沢良太の才能は、また別ジャンルで発揮してもらいたい。どうしてもまた作るというなら、パート1で検察に貸しを作る形で刑務所に入った江守徹が、出所して政界復帰する単発ものを希望。

↓とくに好きではないが惰性で完走したドラマ。
半沢直樹
PだかDだかが、「女性視聴者を切り捨ててむずかしいものを作ったのに、高視聴率でびっくり~、ウフフ」みたいなことを言ってるが、うぬぼれてもらっちゃあ困るねぇ。高視聴率の要因はおそらく以下のとおり。
1.「倍返しだ!」の決め台詞に小学生が飛びついた。
2.二、三発殴ってやりたい上司や顧客がいるサラリーマン、サラリーウーマンが、溜飲を下げたくて見た。どんな時代だって宮仕えはそういうもので、「閉塞した平成の労働環境を反映して云々」なんて分析は過剰。
3.山根アナのナレーションを聞いて、格調高いドラマを見ている錯覚に浸りたい人もいた。
4.しみじみした人情ドラマ、きゃぴきゃぴした恋愛ドラマに飽きた人が飛びついた。
そしてなによりも
5.メディアによる「高視聴率!」の煽りが効いた。
のが最大の要因だと思う。

続編作る気満々のラストだったが、怒号と土下座の繰り返しに飽きたので、当方は離脱決定。なにより、半沢女房の花がうざい。檀蜜と倍賞美津子の使い方はよかった。


単発『時計屋の娘』
老いた時計屋のファンタジー。池端脚本と沢尻エリカのコンビとしては、やや期待を下回った。でも、この二人なら何度でも組んでほしい。私は女優の値打ちに、謙虚なポーズの上手い下手を含めない。ノスタルジックな音楽が印象的。

単発『事件救命医~IMATの奇跡~』
退屈になりようがない素材を使って、いちおう「ごちそうさま」と言える料理に仕上げたという印象。来年か再来年続編がありそうだが、そのさい日常の日向の幼稚成分は緩和していただきたい。