『いだてん』いよいよ最終章!

次回のサブタイトルは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』!
田畑政治・後編への期待止まず。
信長も龍馬も出てこないけど、魅力的な男女が織りなす人間模様と日本が、そしてときどき世界が動くさまが生き生きと伝わってくる。今のところ残念な回はゼロである。技術的には大河史上最高脚本の一つだと思う。史実を丹念に調べ、古い書籍、雑誌、新聞またはそのコピーを探し出してきたスタッフの功績大であるが、多量のエピソードの取捨選択はやはりクドカンのセンスあればこそ。どんな細か~いネタでも、取ってつけたような扱いがなく、出番のすくない人物にも使い捨てでは終わらない役割が与えられている。

第37回『最後の晩餐』
四三と勝が浜辺を走るシーンが『炎のランナー』を彷彿させる。スタッフは意図しているのか、たんなる偶然か……。


第38回『長いお別れ』
「もはや世界中が戦争当事者でした」
このナレーションがあるだけで作品の次元が上がる。世界地図でいかに参戦国が多かったかを示したのだが、視聴者はちゃんと見たのかなぁ。
永遠のお別れを告げた嘉納治五郎の棺が船から陸へ。完全引退だったかと思われた清さんがまた出てきてたまげた。四三の「オリンピックはやるけん、かならず」は、アスリートではない人々へも向けた言葉。
勝の招集を聞いた増野の反応がいい。そして人は楽しい時に歌うけれども、悲しい時にも歌で心を励まそうとする。『あまちゃん』でも『いだてん』でも音楽が視聴者の心を揺さぶる。
偉そうな反戦論者が一人も出てこない、その時代を必死に生きた人々のドラマとなっている。
神火リレーの案は知らなかった。いろいろ勉強になるなぁ。梅津大将の出番はこれで終わりだろうか……。


第39回『懐かしの満州
妻子から「いても役に立たないから」と満州行きを応援されてしまう孝蔵。いつでもどこでも酒が飲みてえ孝蔵。大河史上まれにみるキャラの準主役である。
志ん生と同じくらい圓生のキャラも立っている。
「居残りのみなさん、しでえ顔をしとりますな」
江戸っ子らしい「し」や「え」の発音、フランキー堺より自然な「~でげす」の言い方。女形だから当然とはいえ落語の最中の女の所作の艶っぽいこと、七之助の魅力全開である。
客席を沸かす圓生を見て、嫉妬の炎を燃やす孝蔵。ただの酒浸りではなく、芸人としての嫉妬心も旺盛だったのだ。
なんと満州の寄席に勝が来ていた! 名人にむかって所作の指南をするマラソン馬鹿。のちには巾着切りの真似をするほど落ちぶれた……というわけではなかった。
沖縄で玉砕したのか、と思わせて違った。シベリアに引っ張られたのか、というのも違った。
勝は演目が終わる前に矢も楯もたまらず会場を飛び出し、「志ん生の『富久』は絶品」と書いたはがきを投函する。
ようやく孝蔵と勝と五りんがリンクする。なんでそこで走っちゃうのか!? しかし勝に落ち着きや分別があったら、マラソン馬鹿ではなかったら、あのはがきもなかったのである。
勝の亡骸を前に「兄さん行こう」とうながす圓生。相棒の欠陥をおぎなうかのように、終始冷静な男である。

その後、日本では……未亡人となったりくの手元には、満州からのはがきと、くたびれたランニング足袋。今回までの積み重ねにより、この二品がほんとうの宝物と化す。

ぽんこつ占い師、マダム・ローズが今回も笑わせてくれる。「死ぬまであんた一筋だったようだよ」
次の瞬間でまた大笑い。
落語家二人の会話がいい。
「所帯持つことにした」
「おれと?」
「女と!(引き上げ船に優先的に乗れるよう)夫婦の真似事をしようって話になったんだ」

孝蔵のなりすまし女房がただものではない。「うわばみ」ってのも久々に聞く日本語だ。
しかし、この姐さん「誰に口きいてんだ? 手ごめにしてやるぞ!」(笑) すごいな日曜夜8時のNHK!
この怪力女(?)も含めて、登場人物が誰も縮こまってないところがすがすがしい。

NHKにしては左翼臭が薄いドラマだから、あまり文句は言いたかないが、「さんざっぱら云々」には異論あり。日本人よりはるかに戦争慣れしているヨーロッパの人々が、農奴の国の一兵卒連中はかくべつタチが悪かったと言っている。

晴れて故郷に帰り着いた孝蔵。
「なーに、今はおれたちだけの貧乏じゃねーよ。今度は日本がとびっきりの貧乏だ。な? な?」うなづく隣人たち。「みんなでそろって上向いて這い上がっていきゃいいんだから。わけねーや」
そうやって日本人はいつでも大きな災難から立ち上がってきた。
「最終章スタート!」のテロップに心躍った!!

日本disに利用できそうな場面だけ切り取ってはしゃぐインテリさんたちのおかげで、善男善女がこんな味のある人情噺を敬遠するとしたら迷惑な話である。上から目線の説教ドラマじゃあないんで、ラグビーが終わってからでもいいんで、もっと多くの人々に今年の大河を楽しんでいただきたい。