『西郷どん』を二話まで見て

原作未読だが、林真理子の他の時代小説は数冊読んだことがある。いずれもNHKのお偉方にウケそうな主婦の視点だのリベラル仕草だのとは無縁の、時代背景を尊重した筆致であるのと、主人公をかなり突き放した視点で見ているのとが印象に残っている。第一話のジェンダーネタは99%原作とは関係なさそうだ。あれは上層部のお達しなのか? Pがでねじこんだのか? 脚本家の趣味なのか?

脚色担当の中園女史のプロフィールを調べたところ、『トットてれび』以外は自分が避けて通ってきたタイプのお話ばかり書いていた御仁らしい。『西郷どん』は今のところ、ドラマとしては成立していると思うが、大河ドラマとしてはなんともお手軽な印象がぬぐえない。斉彬がなぜか吉之助とばったり会って「めそめそするな。強くなれ」と言ったのはよいとして、吉之助が「弱い者のため」を連呼するのってどうなのか? あの時代なら「薩摩のため」、「お殿様のため」じゃないのか? 47回を通じて一度も「国のため」が出てこなさそうな悪い予感がありすぎる。

吉之助はお腹を空かせてる弟妹のために持って帰るべき銭を、よその娘を助けるために使ってしまい、そのうえ最終的には救出計画は失敗に終わる。この手の半端な親切はかえって人の恨みを買うものだが、ふきは「立派なお侍さん」などと感謝の言葉を述べる。内容がない脚本と言われた『龍馬伝』でさえ、初期には親切にされる人間が募らせる劣等感のような人情の機微を描いていたものだが、今年はまったく望めないのだろうか。

史実では吉之助の直属の上司は立派な人だったようだが、第二話の視聴者は、絵に描いたようなわかりやすい小悪党を見せられた。

平清盛』の反省なのか、ただ南国の明るさを出したいからなのかわからないが、陽射しの映し方が明るすぎて逆に疲れる。
だらだら子供時代を引き延ばさなかったのはよかった。

なぜこんな食指が動かない大河をわざわざ見るかと言えば、三十代の"時代劇の星"高橋光臣が出ているからだ。意外にもピン・クレジットで出番が多そうだが……今の脚本、演出だとリアルで見るのはきついので、来週から録画して早送りで飛ばしながら見ることに決めた。

あんな浅い造形の主人公なのに、まったく浮つかないしっかりした芝居をする鈴木亮平は立派な役者さんだ。黒木華も古風な日本女性になっている。二人とも『天皇の料理番』のメインキャストだったか。
こういう人たちには大森寿美男あたりの脚本で大河デビューしてほしかった。鈴木氏は土曜の夜に大森脚本ドラマに出ているので、まだラッキーな方? 三谷幸喜が二度目の登板を果たしたのだから大森氏も! と期待していたのに、朝ドラ担当が決まったそうで、大河はまた遠のいてしまったようだ。