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『Nのために』一挙再放送(TBSチャンネル1)

イヤミスの大家たる湊かなえは敬遠しているのだが、映像作品『贖罪』(WOWOW黒澤清監督)には痺れた。『N』は友人が勧めていたので、CATVの放送を視聴。

のっぴきならない状況にもがきながら人を思い、ある時は黙って身を引く若者たち――号泣や絶叫に頼らずに見る者を感動させる、良質なドラマだった。節度のあるテンポや絵作りといい、あざとくない場面転換といい、要所要所で絵を止める手法といい、『名もなき毒』と『ペテロの葬列』に通じるものがある。調べたところ、演出担当の梶原あゆ子、山本剛義、音楽担当の横山克は三作に関わっていた。家入レオの『Silly』は作品に合っていたが、音楽で補わなくても十分いいシーンにまで流し過ぎなのはちょっと残念。

2014年、高級マンションで殺人事件の現場に四人の若者が集まった。うち二人はその10年前、瀬戸内海の青景島でえ起きた放火事件に関わりがあると疑われている。なぜ二人は両方の現場に居合わせたのか? 引退した元警官、高野が真相を突き止めるべく関係者の話を聞いて回る。若者たちは全員イニシャルがNだが、火災現場で声を失った高野の妻「なっちゃん」だってNである。きっと彼女が火災現場でなんかやらかしたか被害に遭ったかしたのだろうと思って見ていたら、予想を超える展開であった。

冒頭、ヒロインの父親が「義務と労働だけの人生はもういやだ」と言って、いきなり愛人を家に連れ込み、妻子をぼろ家に追い立てる。笑顔で妻子を追い出す杉下には狂気すら感じられるが、その気持ちはわからないでもない。そのあと主にヒロインを苦しめるのは、長いこと保護される権利を享受し浪費だけしてきた母親である。この母親がのちにまともに働き出す展開は意外だった。最後に希美と和解する場面は感動的だが、あれは原作通りなのか?

10話かけて放火事件の真相とマンション殺人事件の真相を明かしていく手際が見事で、ミステリ・ドラマとしても堪能した。野口夫妻の究極の共依存はともかく、いくら世間知らずとはいえ奈央子のものすごい勘違いにもびっくり。

高野の調査活動は、究極的には妻Nの心の解放を導き出す。彼も若者たちと同じくNのために生きる道を選択するのだ。

成瀬は日本人好みの切なさ漂う青年で、窪田正孝のはまり役。極私的には小出恵介の芝居のほうが印象的で……『吉原裏同心』はよっぽど不向きな題材だったのかと思わされた。メイン四役のうち一番割を食いやすかったのは安藤役だったはずだが、賀来賢人は日向を歩いてきたがゆえに、不本意な形で仲間から守られてしまう――それは疎外されるということでもある――役を好演していた。2004年のクリスマスイブが近づくにつれ、成瀬にある感情を抱くようになるのだが、ありきたりの憎悪や嫉妬に見せないのはむずかしかったのではないか。最終回、成瀬と安藤が対峙するさいの、ほどよい距離感や緊張感や互いに示す敬意もよかった。
榮倉奈々は予想以上に魅力的だった。ひたむきだが暑苦しくはなく、成瀬や安藤のためを思って何かを我慢する演技に妙な被害者風味や痛々しさがないのも彼女ならではか。

三浦友和は重みのある語り部だった。織本順吉演じる野原老人もN。若者たちが野口に近づいたのも、老人Nのためだった。両親に恵まれなかった希美や西崎にとって、野原はよき祖父のような存在である。彼が若者たちに慈愛を示す場面も忘れがたい。