読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

『重版出来』残りわずか2回!?

原作未読。野木亜紀子の脚色力が抜群である。ほんとうに表現したいものがあって台詞を選び、あるいは作り出しているのが伝わってくる。
出版社がらみのお仕事ドラマ、そして質で仕事を選ぶオダギリジョー出演ということで見始めた。今年の民放としてはマイベストになりそうだ。初回、妙な精神論ではなく技法の改良で問題解決するエピソードで始まったので、つかみはOKという印象だった。主人公が出しゃばったり、ありえない幼稚なミスを犯したり……が”ない”ので余計なストレスなく見ていられる。ああいう熱血スポーツウーマンを演じてうっとうしくならないのだから、さすがは黒木華だ。
第5話、第7話を神回と呼びたいが、第8話もよかった。

第5話
「本が私を人間にした」
重みのあるひと言。本などなくても生きていける人はおおぜいいるし、そういう人の方が生物としてまっとうなのかもしれない。だが、公私ともに本が欠かせない視聴者にとっては心に響く、真実味のある台詞だ。ワンパターン気味なのかもしれないが、山場となる場面に被さるBGMに感情が高ぶる。「ここぞという時のために運を貯める」発想がユニーク。
高田純次小松政夫が有能で誠実な人物を演じた時のかっこよさには、いかにもな真面目系男優に出せない味がある。若き日の久慈を演じた平埜生成の気迫に惹きつけられた。若松孝二監督が生きていたら、きっと使っただろうと思わせる。単館系の映画かNHK土曜ドラマで再会したいタイプだ。

第7話
初回から、表面は穏やかながら屈託を感じさせていた沼田。そのうち爆発するだろうと予想していたが、この回で退場だった。30歳でもなく35歳でもなく40歳でおのれの才能に見切りをつけたところに、いっそうの苦みが残る。酒屋を継いでからも腐らずに生きていけば、味のあるじいさんになれるはず。当分のあいだ、ムロツヨシといえば「沼田」の印象が残りそうだ。来年の大河でも活躍なるか?

第8話
ひさしぶりに和田が岐阜の書店主と再会し、老漫画家の意外な新婚旅行話を知る。
牛露田が編集者とコミュニケーションを取りはじめ、娘と和解する。
若い中田と大塚がスランプに陥る。大塚は早々に復活。中田はもうちょい。
元幽霊クンが、ライバル社の営業との攻防から勘違いしかけたところ、書店員、河の姿を見て思い直す。

これだけのストーリーを45分で無理なく展開。民放の連ドラにしてはずいぶん登場人物が多く、なおかつ交通整理がゆきとどいている。分析癖のあるひねた視聴者でも、ぐっとくるエピソードだった。

「(こんな時代だからこそ)私ら大人はかっこつけなきゃならんでしょう!」
和田編集長はトラキチで気分屋なところもあるが、胆が据わっていて責任感のある、まさに”かっこいい”上司だ。質で勝負の漫画を載せるからには、売れることだけ考えたものも載せなければならないわけで、その部分を背負っている安井のこともきちんと評価している。
後田アユを演じているのが『ゴーイングマイホーム』の好演忘れがたい蒔田彩珠。いくら相手が駄目親父でも、「これ見ろよ!」と亡母の写真を突きつける怒りの芝居に100%の説得力を持たせられるのは彼女ならでは。和田は帰りぎわ、さりげなく「今度はお父さんに鮎のお菓子を持ってくる」と言う。牛露田が愛娘につけた名前は、好物の鮎(のお菓子)から来ている、という話。
ふた昔前だったら、逆境にめげずに戦ってきた中田が正しく、坊ちゃん育ちの大塚がまがい物、みたいな描き方になっただろう。両者とも評価する公平さは、クリエーターも受け手も成熟してきた証だ。中田が人に共感できるようになったら作品の質が上がる、かどうかには疑問を感じる。彼はあくまで、キャラの魅力ではなく世界観で勝負するタイプの漫画家ではないのか。

家族が漫画家の犠牲になったり、苦労して一緒に歩いたり、ばかりでなく、我がまま女房から受けるストレスを創作のエネルギーに変える漫画家も出さなくちゃ不公平だろー(でも無理か)。梨音にふりまわされる高畑を、そのバリエーションとして楽しむことにしよう。