『ちかえもん』第3回『放蕩息子徳兵衛』

画面がにぎやかで目に楽しく遊び心のあるBGMが耳に楽しいドラマだ。磯部磯兵衛が漫画よりもそっと能動的で文才のある五十男になったらかくや、と思わせるちかえもん。彼が頭のなかで、ああでもないこうでもないと創作世界をいじくりまわす場面が愉快だ。アニメやらわかりやすい書き割りのなかでコマとして動き回る歌舞伎俳優たち。討ち入りの第一歩が踏み出せないくだりをサイレント映画+アフレコ風に描きながら『元禄太平記』主題曲を流す。遊んでるなぁ! 主人公が脳内について全部しゃべっても視聴者をしらけさせない手管が見事だ。

夜間シーンは、行燈の明かりが届かない部分はじゅうぶん暗く、しかし画面の中心にいる人物たちの顔はくっきりと映し出されている。全体にオレンジ色がかっているようでいて、下品に映らない昼のシーンとともに、ずいぶん研究して撮っているのだろうと思われる。

大河では色事関係をうんと薄めないと描けない風潮なのに、木曜時代劇ではあいかわらず自由に遊郭が描かれていて、NHKの方針がよくわからない。

「これだけの荷い取(引して)」という台詞。一瞬、「これだけのニート」?と思ってしまった。

青木崇高演じる不孝糖売りが、大きな妖精みたいでむさくるしいけど愛嬌たっぷり。『平清盛』で弁慶を演じた時もあんな感じだった。藤本有紀と相性がいいのだろう。
が、やはり藤本先生は基本的に好きになれないと再確認する要素もある。黒田屋がちかえもんに執筆を迫るのに、ちんぴら武士や侠客でもあるまいに、いきなり刃物を突きつけるところ(第1回)。そして、反抗期の坊ちゃんが芸のないぎすぎすした悪態をつくところだ。

妓楼の主「この家でとびきりの器量よし、誰や?」
妓楼の女将「わてや」
コミカルなシーンのつもりなのだろうが、まじで自分は女将に一票。目鼻立ちだけでない、女としての格も合わせて考えれば、お玉、というか高岡早紀が一番光を放っている。
と言いながら、もちろん早見あかりは魅力的である。遊女の衣裳をまとうと、洋服姿のときよりいっそうしっかりした西洋人体型がよくわかり、それは役柄によってはマイナスになるかもしれないが、お袖は若さと(たぶん徳兵衛が圧倒されるような)体力生命力が取り柄なので、正しい絵になっている。
優香はダメ男を優しく見守るお初役。包容力とユーモアを感じさせるいい女優になった。

松尾スズキNHKドラマの傑作『TAROの塔』と『55歳からのハローライフ』に出演しており、リリー・フランキーと似た立ち位置で重宝されている印象だ。オーバーアクトに走らずに人を笑わせる才能に恵まれている。

次回は平野屋の弱みが暴かれるのか? 徳兵衛はなぜ引っ立てられるのか?