『ホワイト・クイーン』

薔薇戦争を描く歴史ドラマ。

ホワイト・クイーンとは、そう高い生まれでもないのにヨーク側のヘンリー四世に見染められて王妃となったエリザベス・ウッドヴィル。原案はフィリッパ・グレゴリーの『白薔薇の女王』、”The Red Queen”、”The Kingmaker’s Daughter”なので、レッド・クイーンすなわちランカスター派のマーガレット・ボーフォート、キングメーカー、ウォリック伯爵の娘アン・ネヴィルも併せてトリプル主人公となる。立場の異なる3人の女性たちが、イングランドの王座をめぐり激しい争いを繰り広げる。

エリザベスは魔術が使える設定だが、むやみやたらとその力を発揮するわけではないので荒唐無稽なファンタジーにはならなかった。終盤、ただの愚かな母親ぽくなったのが残念。

息子は絶対東大合格! みたいな執念で王位につけたがるマーガレット・ボーフォートが、女優の演技力と顎ヂカラもあいまって、まあうざいうざい。誰か懲らしめてやれと思っていたら、一時期四番目の亭主に財産没収されて少々溜飲を下げたものの、息子の名前がヘンリー・”チューダー”であるからには、やはり最終的には勝ちを治めるのであった。スタンリー卿はこのあと、ひたすら尻に敷かれんのだろうか。まあ利に敏い人だから、女房の天狗の鼻など気にせずやっていきそうだ。

アン・ネヴィルは一番周囲に翻弄される、スケールの小さいタイプ。リチャード三世に嫁してからは宮廷内人事にくちばしをはさんだりするが、視野の広さを感じさせなかった。

ドラマ内では上記三人より出番が少なかったのが、ヘンリー六世の王妃マーガレット・オブ・アンジュ―。実際、意志薄弱な夫にかわって戦闘指揮を執った女丈夫だとか。アンにとって最初の怖い姑だったが、「ここからついてくるか否かはそなた次第」と告げるある種の公平さもある。危機に直面して、勝ち目のない戦となればさっさと引くだけの判断力もあり、女傑として一番かっこよさを感じた。

 

女たちを描くドラマだそうだが、ヘンリー四世の臨終の床を遠巻きに眺める人々のまなざしと少ない言葉だけで、今後の権力闘争の構図が浮かび上がる場面に一番しびれた。

リチャード三世を演じるアナイリン・バーナードがすばらしかった。特に第九話と最終回、顔の半分が影になるような撮影法がふえたこともあり、もとは貪欲でなかった誠実な男が孤独で老獪な権力者に成長していくさまが強調された。おもにシェイクスピアが広めた幼い王子殺しの風評被害であれこれ言われるリチャード三世だが、今作はその件に関しては比較的史実に忠実と思われる。洋の東西を問わず、よけいな身動きをしないのが時代劇らしい芝居、ということを改めて感じた。過去にドラマ”SS-GB”で見ていたはずが思い出せず。新作時代劇コメディ『どん底作家の人生に幸せあれ!』はイヌアッチ監督だから期待大。できればシリアスな時代劇にまた出て欲しい。