『馬鹿と嘘の弓』(作:森博嗣)

表紙と人物紹介以外はネタバレなし

 

*加部谷が出てくる作品としては、久々に鈴木成一デザイン室がカバーデザインを担当。森博嗣のノベルズとしては、今までのメタリックなデザインと打って変わったブルー基調の海辺の光景なので、さわやかな青春小説っぽいのかと思ったら全然違った。まあ少しはそれらしところもあったが。

*”Fool Lie Bow”は毎度のことながらしゃれた英題。

*ミステリとしては半分はずした作りがユニークかもしれない。今日までのミステリ小説の蓄積を思えば、完全に新しいトリックやプロットの創造の余地はなさそうだ。

*ついに犀川がダークサイドに落ちるとか殺されるとかいう展開かと邪推したが、そんなことは全然なかった。

*秋の祭りをカタカナ表記しないので、禍々しいムードが生まれた。

*BIに絡めて森博嗣が何かを訴えたいとか世相に怒っているとか……まったく思えない。彼の思考法はもっぱらエッセイで示されてきた。百歩譲って、柚原の労働観が作者のそれにつながるとしても、あの森氏が社会に対して義憤を抱くなんてちょっと信じられない。

*『すべてがFになる』は初刊行当時、倫理的に映像化は不可能と思われたが、部分的に表現の自由が増したこともあり、ドラマ化された。『馬鹿』は――実写化を見たいとはまったく思わないが――今のところドラマ化はないと思われる。犯人が警官の前で開陳する自論は、法律的には間違っていないものの、いちじるしく視聴者の神経を逆なでするに決まっているので。

*ひんやりとした話だが、喪失感を抱えて生きる人々への優しいまなざしが微量に混ざっている。

*『ωの悲劇』がどうなるのか見当がつかない。刊行が楽しみだが、刊行されてしまうと、彼の小説を読む楽しみがなくなるかもしれないという不安がある。