『いだてん~東京オリムピック噺~』最終回と初回

『時間よ止まれ』終了後、マジで拍手してしまった。スタッフ、キャストの皆さん1年間ありがとう!

最終話の雑感
*老けメーク技術の進歩にしみじみした。イギリス映画の『炎のランナー』は冒頭、いきなり顔にゴムくっつけたみたいな老けメークが映って、「こんなんだったら本物の老人を使えよ(怒)」と思ったものだ。
*前回に引き続き、最終聖火ランナー平和プロパガンダに利用される人間の苦しみが描かれる。こういうのは、日本の実写作品では貴重な一こま。坂井から、なぜ走るのかを問われる金栗。「走りたいからじゃ」とか「気持ちよかろうもん」とかいう答えかと思ったら、「自分でもようわからん」。水を所望するのでてっきり飲ませるのかと思いきや、若者の頭にぶっかける。若き日の自分を落ち着かせた方法を実施する。やはりクドカンは一貫して、金栗を言葉の人ではない、行動の人と描くのだな。
*坂井くんが国立競技場に入っていく後ろ姿とBGMの組み合わせに胸が熱くなる。
*観客席に数話ぶりの懐かしい面々が集う。「万歳」は、この回だけ見た人でも感動させる力があるが、土砂降りの場面を見た視聴者にとっては感慨もひとしお。文字通り Long live の思いで皆両手をあげているのだ。野口も大横田も河野もその他の人も、なんと気持ちのいい晴れ晴れとした日本男児の顔をしていることか! ひと目で重厚と感じさせる『坂の上の雲』とは違う作品だったが、こういう場面の主要登場人物にただよう雰囲気には共通するものを感じる。河西たち女性陣もまた、いい面構え。安藤サクラの戦士のまなざしがかっこいい。
ブルーインパルスの飛行が成功してよかったな。上空から五輪の模様を見る場面の撮影法にも、技術の進歩を感じる。
*役者として特にうまいと思ったことはないビートたけしだが
「忘れねえで来たんだな。よし、出入りを許してやる」の
懐の深さを感じさせる師匠の顔に感動。
*「志ん生のよぉ、『富久』はどうだった?」「それも……絶品でした」→BGM→志ん生の破顔→赤ん坊の誕生を知らせる電報
この一連の流れが最高。いろいろなものの再生と誕生を象徴するようで。人間の主人公たちと同じくらい「志ん生の『富久』は絶品」と書かれたハガキは超重要な存在だった。物質としての主人公と言いたい。
*まさか『木更津キャッツアイ』みたいに坂井主体の聖火ランナー編と五りん目線の聖火ランナー編と、二回描くとは思わなんだ。
*全国旗掲揚のシーンは胸アツ。出場できなかったインドネシア北朝鮮の旗を室内で掲げてあげるのは吹浦忠正役の須藤漣の判断だとか。『なつぞら』じゃあジイジに殴られていい気味としか思えない役だったが、今回はよい役だった。
*水泳と陸上に重きを置いてきたドラマだから東京でも水泳を出すかと思ったら、それはなかった。1時間におさまりきらないか。
*バックステージものというのは大抵おもしろいが、開会式と閉会式の裏側をこれだけ見せてくれて大満足。ザンビアの独立の日に国旗を用意できた吹浦氏は立派!
*誰にでも分け隔てなく失礼だったまーちゃんが、「俺のオリンピックがみんなのオリンピックになった。いわちん、ありがとう!」と頭を下げる場面。涙を浮かべてその言葉を受けるいわちん。見事な総括だ。
*人から人へとつながれていくのは聖火だけではなかった。「インドネシアに次こそは出て欲しい」という委員会の思い。オリンピックを作ってきた先輩から後輩への理念の継承。小松家の血統。陸上競技、水泳競技の育成の持続。まだほかにもありそうだ。
*お笑い芸人が皆達者に演じていた。クドカントークショーでネタバレしちゃったウマの結婚式シーン。徳井義実は、鬼監督を好演しただけでなく、花嫁に向けて父性を感じさせる表情を作っていて感心した。それにしても、リアルの大松もイケメンだな。
*もともとドキュメンタリー風のドラマ造りを得手とする井上Dだが、今回のドラマと記録映像のつなぎ方は絶妙。


久々に初回を再見。記憶以上に内容が濃密だった。伏線はここから張られていたのか!の再発見あり。円盤発売を待たず、8話ごとにダビングしといてよかったなー。
*オープニングでアベベの靴が映ったような映らなかったような……。
*五りんの初登場時の役名は「小松」。それを覚えていたら、小松勝が出てくる時点でピンときたはずなのに(少々悔しい)
*すでに東知事も、外務省の運動会で転んじゃう不運な外交官、北原英雄も、彼にピンチヒッターを託される平沢和重も出ていた! まだ若い可児助教授もいる。よかったなぁ、92歳で東京オリンピックを観戦することができて!!
IOC総会で、平沢が「ジゴロー・カノーの最期を看取った」と紹介されたとたん、海外の代表者たちの見る目が変わる。嘉納治五郎が出てくると、ナレーションで「次々出てくるおじさんの中でもっとも重要」。どれだけ重要か想像がついていなかった。
*海外のフィールド競技の写真を見てはしゃぐ治五郎たちがほほえましい。「おー、なんか投げとるよー」「おー、スポーツですね。スポーツですねえ」
*タクシーの運転手が志ん生に「おじいちゃん、噺家さんですか?」。最終回のクドカンの台詞と同じだ!
*歯でビール瓶の栓を開ける天狗連中。暑苦しくも魅力的な痛快男子ども。

*あとでみんなの愛しいシマちゃんになるとは予期できなかった、ちょっと軽そうな女中さん!
*治五郎はすでに「600円を返してない!」と三島弥太郎に怒られている(笑)。
大隈重信が出ていたのもすっかり忘れていた。クドカンなら大隈主人公のドラマも書けそうだ。
*日本が招待への返事をしないうちから、ストックホルム五輪のポスターに日の丸が描かれていた。国旗の重みが軽やかに演出されている。
*最終回と同じく演出は井上剛。今もっとも信用できる、力のある画面を作れる人だ。