上半期の映画

『マダムのおかしな晩餐会』(監督:アマンダ・スティール)
階級社会フランスを舞台にした有毒成分高めのコメディ。リッチなマダムの強引さにドン引き。最後をポジティブに終わらせたいにしても、若干無理のあるエンディングと感じた。

ヴィヴィアン・ウェストウッド 最強のエレガンス』(監督:ローナ・タッカー)
タッカー初の長編ドキュメンタリー。パワフルなファッション・デザイナーの一代記としては手堅い出来。本業に才能を発揮してきた人が、最後は浅薄な流行に乗った活動家もどきになってしまったのはかなり残念。

『映画 刀剣乱舞』(監督:耶雲哉治)
ゲームはしないしミュージカルのことは知らないし、内容についてもほとんど知らなかったが、チャンバラが見たくて鑑賞。
予想以上の満足を得た。一流のアニメ脚本家として名高い小林靖子が脚本担当。音楽は北野武作品や数々の時代劇ドラマでかっこよいメロディーを聞かせてくれた遠藤浩二。キャストは知らない若手が多かったが皆さんハイレベルであった。とくに三日月役の主演、鈴木拡樹の演技に感嘆した。野村萬斎を彷彿させる落ち着いたたたずまい、若いころの西村雅彦に似た性質、完璧なせりふ回し。じつは千年以上前から生きていた、という設定に説得力を持たせていた。

ヴィクトリア女王 最期の秘密』(監督:スティーヴン・フリアーズ
ヴィクトリア女王と、即位50周年記念式典に記念金貨を運んできたインドの若者の心の交流を描く。信じがたい内容だったが、実話ベースであるとのこと。異文化の衝突、身分違いの人間同士の相互理解。盛られた話と真実の違いとは? 
ジュディ・デンチの名演技を堪能。アブドゥル・アリ・ファザルは実力派二枚目という印章で、今後もイギリスのドラマや映画で活躍しそうだ。撮影は『英国王のスピーチ』のダニー・コーエンということで、画面は豪華だが決してけばけばしくならない。潤沢な資金によるコスチューム、大道具小道具を堪能。インドがからむイギリス映画というと、昨年公開の『英国総督 最後の家』は流血多めだったが、やはり歴史ドラマとしておもしろかった。イギリスは世界各地に迷惑をかけてきたうえに、旧植民地がらみの小説や映画でがっぽり儲けており、まあいろいろとブリカスの名に恥じない国ではある。

『サムライマラソン』(監督:バーナード・ローズ)
チャンバラが見たくて鑑賞。
監督が外国人ゆえの違和感はとくになし。しいて言えばBGM(フィリップ・グラス)とスローモーションのかぶせ方が邦画とは違うとかんじたくらい。
金栗四三が生まれる前に日本人が長距離競走をやっていた!? 行きはマラソン、帰りは戦。縄のひっかけ作戦がつまらないと思ったアクション映画ファンもいたようだが、自分は快哉を叫んだ。
佐藤健の芝居のうまさ、高いアクション能力は期待通り。小悪魔的なイメージが強かった小松菜奈だが、まっとうな姫のムードも出せてちゃんと銀幕の花をやっていた。板倉の殿のキャスティングが長谷川博己とは、なかなか贅沢。

『キングダム』(監督:佐藤信介)
原作未読。脚色担当は佐藤信介、黒岩勉、そして原作者の原泰久
内容はほとんど知らず、アクションが見たくて鑑賞。
血沸き肉躍る活劇を拝めて大満足である。なんだ~、日本映画も現代ではない時代、日本ではない国を舞台にすればおもしろい戦争映画が撮れるんじゃん! 大規模なロケ、敵に容赦しない将軍たち、頭をフル回転させ、体もめいっぱい使わなくちゃ生き残れない過酷な世界。なにより戦いに際して余計な躊躇趣味を発揮する人間がいないのがよい。長澤まさみのかっこよさに惚れた。映画やドラマの監督たちはこれまで彼女の素質の何を見ていたのだろう! 始皇帝の若き日を演じた吉沢亮にも目を見張った。やんちゃな兄ちゃんをやれる若手は多々いるが、王の冷たい威厳を体現できる人は希少である。
気分爽快で映画館を後にできたが、『空母いぶき』予告編にただよっていた微妙な感じが気になった。鑑賞済みの映画ファンによれば、原作無視なんて生易しいものではなく、中国軍が敵から有志連合の一員に変更という噴飯ものの大改悪映画だったとか! 『沈黙の艦隊』同様、OVAにすれば原作のまま映像化できそうなものだが、そっちの話はないのだろうか。

『ねじれた家』(監督:ジル・パケ=ブレネール)
上半期の洋画としてはこれが一番の好み。原作はアガサ・クリスティー。『ダウントン・アビー』や『ゴスフォードパーク』で名高いジュリアン・フェロウズが脚色。
無一文から巨万の富を築いた大富豪レオニデスが毒殺され、その孫ソフィアが私立探偵で元恋人のチャールズに捜査を依頼する。
立派な屋敷に三代にわたる家族が同居しているのだが、同じ建物内とは思えないほどそれぞれ室内の装飾が異なる。登場人物のキャラの違いをここまでインテリアで際立たせた作品は近ごろ記憶にない。
ミステリになじんだ観客なら、なかばあたりで犯人の目星はつくと思う。あとは犯人確保の瞬間をどう描くかだなぁ~~となかばドキドキしながら画面を眺めていたら、まさにぶった切るようなエンディング! 2時間かけなくても濃厚人間ドラマはじゅうぶん作れるお手本のような映画であった。懐かしのテレンス・スタンプやらごひいきの――でもちょっと老けちゃった? ――ジリアン・アンダーソンやら、思春期の少年には目の毒な感じのクリスティーナ・ヘンドリックスやら豪華キャストの丁々発止も見ごたえたっぷり。チャールズを演じるマックス・アイアンズはなんとジェレミー・アイアンズのご子息なのか! 父上のおもかげはまったく感じなかった。アマンダ・アビントンはワトソン博士の奥さんやってる時とはまた違うおもむき。オナー・ニーフシーは末恐ろしい子役である。
ケネス・ブラナーのリズム感やアクション・センスがまったく肌に合わない当方としては、今後のクリスティーものは極力パケ=ブレネールに撮ってもらいたい。