『いだてん』第27回『替り目』

とっくに折り返したのにと思ったが、今回が本当に主役の替り目だった。
クドカン&大根仁のコンビにしてはしんみりしちゃったなと思ったが、しんみりついでに人見選手の最期を入れなかったのは見識。
前回がりっぱな『人見絹枝の一生』で、若くして亡くなったことにも紀行で触れたので、今回登場したら興ざめというもの。
しんみりしたふうでも、若き日の孝蔵があいかわらずギスギスしているおかげで、全然お涙頂戴なんかにはならない。

まーちゃんは全方位失礼だけど愛嬌もある、というキャラ設定だが、もう一つ極私的な魅力ポイントを発見した。日本人にはめずらしくいろんなことに"余計なストーリーを加えない"のだ。陸上や水泳のタイムがよければ性別にこだわりなく評価する。前畑に「貧乏なんだろ?」と失礼な言葉をかけて松澤にひっぱたかれるが、「金がない」という事実を述べているだけで、別に貧乏だから見下しているわけでもないし、貧乏なのにがんばってるからと妙な感情移入をするわけでもない。ああいうところを風通しがいいと感じる。この調子でGHQにも失礼なことを言ってくれるのかしらん。それとも白洲次郎の専売特許は奪えない?

四三をきびしく育て、家長として並々ならぬ援助をしてくれた実次が若くして死ぬ。中村獅童は『八重の桜』のもののふぶりが魅力的だったが、今回もたいへん印象深いよき兄さまだった。愛情の深さも忘れがたいが、もう幾江の顔を見た瞬間の「すいまっしぇん!」芸に笑わせてもらえないのかと思うと寂しい。嘉納しぇんしぇいに会えてよかったな!

幾江が「子に先立たれるくらい辛いことはない」とシエに声をかける。あの時代、その経験をしなくてすんだのは例外的に幸運な一握りの女性だけである。このあたりのさらりとした演出も好もしい。
「故郷に帰る潮時。老いた母親に孝行もせねば」という金栗。「妻のためじゃないのか?!」と某界隈が噴きあがるかと危惧したが、それはなかった。

田畑政吉は誰もいないところでは人を褒めたりする。時代遅れだのメダルが取れなかったのと金栗をけなしてきたものの、最初に道を切り開いた人間への敬意を吐露するシーンの美しさよ。思い出は「甘い紅茶と菓子」と語る金栗。もっとも個人的で内面的な味覚をピックアップするクドカンのセンスに痺れる。その後の人生で金栗は甘い紅茶に菓子をひたすたびにストックホルムの記憶が蘇るのか……。

土曜スタジオパーク』を見て以来、ロサンゼルス五輪のエキシビションが楽しみでたまらない。