『ベトナムのひかり~ボクが無償医療を始めた理由~』

日本とベトナムを往復しながら、日本ではフリーの眼科医として稼ぎ、ベトナムでは無償医療を続ける実在の医師をモデルにしたヒューマンストーリー。

歌、画面とも美しい冒頭の数分間とクライマックスが見事に呼応する佳作である。
適度な笑いをちりばめつつ、医者の本分とは、人が生きるとは、といったテーマもまじめに描く。説教がましくならずお涙頂戴にもならず、本木一博の演出センスと濱田岳の演技のセンスがかみ合って心に残る一作となった。濱田とキムラ緑子の軽快な達意の芝居は絶品。いつか二人で『おもろい親子』なんてタイトルで10分とか15分でいいから連続ドラマをやってくれないかなー。

なんでベトナムの若い男性外科医がやたらイケメンなのかと思ったが、別に深い意味はなかったらしい。ベストイケメンがなかなか主人公の羽鳥となじめない理由も、嫌みなく明かされる。

羽鳥夫人は、まだ子供もいないことだし、離婚して金儲けに邁進するタイプの男と再婚したほうがいいんじゃないかという気がした。が、夫の人となりを憎むことはできないらしく、マイホーム資金をポンと差し出す。今どき珍しい美談である。

「治療費を払えない人には自分が立て替える」なんて宣言したら、そのうち払えるのに払わない患者が出てくるんではないか。個人で大金を負担するのではなく、治癒した人が少額でも寄付する制度とか、何か基金を作る案はないのだろうか。

「人は人を助けるようにできてんねん」は羽鳥の亡父が残し、羽鳥自身、それと意識せずに口にしていた言葉である。これは、"己の背中を見せる"ことにより、我が子に偉大な教育をほどこした父の物語でもあった。近頃は、いかにして「助けてもらう側」に滑り込むかを人々に吹き込みたがる活動家の存在が邪魔くさい。

眼科業界やベトナムの庶民の暮らしを知っていたら、もっと複雑な感想を持ったかもしれない。