今年の海外ミステリ追加

鳥頭が感銘を受けた作品を二つ思い出した。

 

『ライン・オブ・デューティ 汚職特捜班』(2012年BBC2)

イギリスの警察署内の不正を捜査するAC-12に配属された男がじわじわと汚職警官を追い詰めたりネチネチといたぶられたりするお話。

ここに注目
その1:映画出身で演技派のキャスト陣
綿密な脚本を支えているのが、主に映画で活躍する演技派俳優たち。華やかなテレビスターとは異なり、その確かな演技力で物語にリアリティを与えている。
その2:先の見えないスリリングな展開
次々と起こる事件、言い逃れようとする汚職警官。その裏にある警察と犯罪組織の癒着。急展開に次ぐ急展開で、思わずイッキ見してしまう見事な脚本だ。
その3:英国警察の厳しい規律や制度
取り調べの際は被疑者より階級が上でないと質問ができないなど、階級社会ならではの厳しい規制の中で上官を追い詰めていく様はまさに英国ドラマの真骨頂。

上記の「ここに注目」はシネフィルWOWOW公式サイトの言い分であるが、少なくとも日本が輸入する英国ドラマでいかにもなテレビスターを見た記憶がない。ほとんどが演劇学校で基礎技能を身に着けたプロフェッショナルな役者だという印象。自分が見るものが偏っているからかもしれないが、ルックスやオーラが売りの派手なスターというより地味な職人肌が目に付く。その2とその3については異議なし!
毎度のことながら、階級社会イギリスの底辺の描写がエグイ。

見ている間も息が詰まるし、シーズン1を見終わった時点でも実に後味が悪く、だけど興味深いという意味でたいへんおもしろい実にイギリス的なクライムドラマであった。マイノリティ差別だと言われかねないから汚職警官を叩きにくいといった逆差別問題にも触れる。こういう部分では、日本のドラマよりはるかに表現の自由があると感じる。
主人公アーノットを演じるマーティン・コムストンが、平たい顔族というわけではないがどことなく日本人顔だし、マッチョな連中や押しの強い連中に舐められがちなところにも若干日本人風味があり、思わず応援したくなる。
"AC-12のメンバーで、スティーブの頼れる相棒。潜入捜査のスペシャリストで、危険を顧みず容疑者に近づいていく行動派"ケイト・フレミング巡査を、ヴィッキー・マクルアは全然肩に力を入れずに無理なく表現。体格もほどよくたくましく任務にふさわしい感じ。色が薄くて時としてどこを見ているのかよくわからない瞳も魅力的だ。
ジーナ・マッキーがセクシーで悪くてしたたかな女を演じて見事に嵌まっている。カテリーナ・スフォルツァをやった人にこんな役はお茶の子さいさいであろう。

大評判でシーズン6まで作られたそうだ。精神的に疲労している時には視聴を避けたいタイプの作品だが、シネフィルWOWOWで続編放送があったらたぶん録画してしまいそうだ。

『埋もれる殺意~39年目の真実~』(2017年BBC
関係なさそうな複数の事件の意外な接点が突き止められる……の逆を行く新鮮なパターン。
紳士顔のニコラ・ウォーカーかっこよし。『ルイス警部』での演技が忘れがたいサンジーヴ・バスカーが大きな役で助演。インド系の役者は、マイノリティ枠ということでなく、知的専門職で活躍する在英インド系が多い現実を反映するために、これから露出が増えてしかるべきであろう。この人コメディも得意なうえに、なんとサセックス大学の学長もやっているとか!
よくできたミステリだったが、"手首の骨の穴"の件が回収されなかった点だけが気がかり。