『フェイクニュース』

ドキュメンタリーに関しては日本よりましなおふらんすアメリカやオランダ制作でも、フェイクニュースが絡むと我田引水なしろものしか見たことがない。"フェイク・フェイクニュースドキュメンタリー"のオンパレードである。
善男善女が怒ったり呆れたりしているのは、オールドメディアにとって都合のよい世論誘導を試みるフェイクニュースなのだが、今回のドラマもその点は予想通り完全スルーであった。ジャーナリストの株を暴落させる――いまどき信じている一部の人々にとってだけだが――事件があったばかりで、なんだか逆タイムリーな企画を見た印象。

見ていていささかでも溜飲が下がったのは、『イタい速報』と『まとめサヨ速報』を運営する神崎が出てくる場面くらい。
東雲:つまり、お金儲けのために対立を煽っている、と。
な~にを言ってる。対立を煽るのと人の心に不満の種を植え付けるのがおまいさんの古巣のお仕事だったじゃんか。

神崎:両者の声を公平に取り上げてるつもりです。
この御仁に正義感なんかは無いのだろうが、左寄りの声しか取り上げないオールドメディアより公平なことは、まあたしかかも。

神崎:まとめてるだけ。フェイクニュースなんか"作ったら"犯罪になるし、やりません。
神崎以上にぎりぎりセーフで阿漕なことやってる頭のいい人は多そうだ。

東雲:言論の自由は、権力による規制から情報を守るために作られた条項です。
メディアこそ大権力という自覚のなさが怖い。

神崎:あんたたちマスコミだって、人のプライバシー暴いたり、好き勝手してるじゃないですか。自分たちはプロだから違う? 同じですよ。適当にググって、いい加減な記事書いて。
前編は"ネットメディアと違ってテレビや新聞は自力で取材して記事を出してる"的な雰囲気を醸し出していて、けっ通常運転だなと思ったが、この台詞でアリバイ作りしたつもりかしらん。この管理人を演じる坂口涼太郎という人が実にそれらしかった。


東雲と猿滑が鶴亀風うどんを食べる場面。アスパラガスが色もサイズも青虫そっくりでなかなか悪趣味。
おかやまはじめ演じる沖田工場長まわりの人間関係がのどかでよかった。あのへんのユーモラスな場面でかなり救われた。
演技面では光石研のうまさが画面をけん引していた。転んでもただでは起きない八ツ峰社長を演じる岩松了もはまり役。B太はA太より良い役者と再認識。髭面の神尾佑はなかなかセクシー。

カオスで終わるのか、それともめでたしめでたしか? 予想の中間くらいの終わり方だった。
セクハラ最上の糾弾の優先順位をトップに置かなかったのは意外な見識。

エンディングで堀切園健太郎の名を見て少々驚いた。そのわりには趣味に走らない演出だった。

野木亜紀子は『重版出来!』の脚色がすばらしかった。今のところ極私的にはあれをこえる民放ドラマはない。評判につられて再放送で見た『アンナチュラル』は、プロットはおもしろいものの、本人が決め台詞のつもりで書いているであろう台詞はまったく心に響かなかった。今作にも、いかにもメディアの世界にいる人が頭で書いている感がある表現が多い。