吉報!

ニュースとドキュメンタリーはだめでもドラマだけはおおむねハイレベルなNHKが、大河ファンにたいへんな朗報をもたらしてくれた。2020年の大河は明智光秀主役の『麒麟がくる』と決定。脚本は池端俊策でしかもオリジナル。そして主演は長谷川博己。『真田丸』も『おんな城主 直虎』も変化球のおもしろさはあったし、現代とは違う価値観で動く時代をきちんと描いてはいたが、長年の大河ファンとしてはときどき食い足りないと思ったのも事実である。2020年はひっさびさの本格大河を拝めそうだ。

公式HPいわく
大河ドラマの原点に戻り、戦国初期の群雄割拠の戦乱のなか、各地の英傑たちが天下を狙って、命をかけ愛をかけ戦う、戦国のビギニングにして「一大叙事詩」です。


ネットで見る限り、文句を言ってる大河ファンが一人もいない。なんだか奇跡が起きたかのようである。光秀主役の理由が「側室がいないこと」かもしれなかったり、「愛をかけ」にへんな平成ロマンが混じっていたりしたら嫌だなと思ったりするが、脚本家が「英傑たちが生き生きと走り抜けた時代」を描くと宣言し、制作統括の落合将氏も「毎週わくわく見てしまう英傑たちの青春群像劇」を届けるご意向なので、わくわくが止まらない。

オープニング音楽も、久々に重低音が響くタイプのものだとよいなぁ。なんなら男性コーラスつきで。

池端氏にまた大河を書いてほしいといっても高齢だから無理そう、と思ってきたが、現時点でまだ72歳。ジェームス三木の一回り下とか。『経世済民の男』くらいの長さが限界……ではなくてよかった。ということは、『太平記』執筆時はまだ四十代半ばだったのか!

光秀については理知的なだけでなく、勇猛果敢な面も描くとのこと。ハセヒロが理知的人物を得意とするのは周知のことだが、「若き虎」をどう演じるか楽しみだ。「武士としては身分の低い美濃の牢人として生まれる」そうで、「ほんとうは信長より自分の方が血筋が上だから下剋上の意識はなかった」説は今回は無し?

信長像に最近の学説を反映させるとのこと。『織田信長』(池上裕子、吉川弘文館、2012)しか読んでいないが、池上説の「別に天才ではなく、癇癪持ちで、細かいことを根に持つキャラ」を魅力的に描くのはたいへんそうだ。熟練した時代劇俳優で〈敦盛〉をきちんと舞えて、できれば光秀より若く見える役者というと、誰がくるのだろう。危なげがない梨園出身者? 小栗旬とも思ったが、今年出てまた再来年は可能性が低そうだ。

登場する英傑たちに松永久秀も含まれるからには、久秀役の人は人気が出そうだなぁ。3年ぶりに平埜生成の登板がないものか。
シンゴジ・ファンの期待にこたえて松尾諭が抜擢されるとしたら……またハセヒロの親友役?
アシガール』で若様役に嵌りすぎるくらい嵌っていた健太郎もぜひ。
それから、今年空気にされているとかいう高橋光臣も、きっと戦国時代に合うので、ちゃんと大役で、細川藤孝あたりでお願いしたい。

ヘタレとか等身大とかいうのはよそでやってくれればいい。才知に溢れ熱い血潮をたぎらせる漢たちを拝める日が待ち遠しい。
紹介文に「妻たちの」なんてフレーズがひと言もないのが清々しい。でも英傑たちの正室側室がまったく出てこないはずもない。尾野真千子が、ずいぶん前は得意だった"知的で教養あふれる女性"の芝居をまだやれるのなら、煕子か濃姫でも演じていただきたい。むやみに庶民的な役柄は食傷気味だ。近年の大河では、宝塚出身者がちょいちょい画面を引き締めていた。野々すみ花が帝のお側に侍る高貴な役で出てくれないものか。あるいは、美人でなければ演じてはいけないことになっているガラシャとか?

池端氏といえば、極私的に大河ベスト3に入る『太平記』をものした人である。『太平記』は脚本家以外のスタッフもすばらしく、それまではタブー扱いだった南北朝動乱が大きな視点で描かれ、格調と娯楽性のバランスが取れ、合戦シーンにリキを入れすぎて予算切れとなり、密室では白熱した議論が演出されていた。台詞の格調が高いといっても、『花の乱』ほどむずかしくはなく、『武田信玄』ほど長々しくもなく、今の十代二十代が聞いてもそんなに違和感はないのではないか。大根が数本まざっていても、演技のレベルはおおむね高かった。暗君に見えて観察眼はするどい北条高時を演じた片岡鶴太郎が印象に残る。戦功にしかるべく報いなかった権力者からは人心が離れることを冷徹に描きつつ、ときには義に殉じるもののふのロマンを描く。一人強敵を倒すと、それまでの味方の結束が崩れてしまい、主人公の尊氏は「みな、変わってしまったの」とつぶやく。尊氏がいくら太平の世を望んでも、争いの火種は尽きず、火をつける者がしばしば身内から出る。やむなく身内を成敗する尊氏……と書くと陰鬱な話のようだが、たえず無常観が漂っていたわけではなく、前半は若者たちの夢や情熱の物語でもあった。
来年は前座としてBSで『太平記』を再放送するのだろうか。
とすれば、『太平記』再放送に便乗して、脚本家&主演(真田広之)が再度タッグを組んだ『僕が彼女に、借金をした理由』をTBSが再放送すれば、キョンキョンのファンも喜ぶと思う。これは、借金を巡る都会の男女の哀歓を描いた佳作である。お金に対する感覚が今と違うけれど、窮地に陥ったサラリーマンの起死回生の――日9と比べると静かな――物語は、大人の視聴者の共感を呼ぶのではないか。

ともあれ、5月には池端氏も参加するBSドラマ『そろばん侍』、秋はハセヒロ助演の朝ドラ『まんぷく』、来年1月はクドカン大河『いだてん』、来年春からは大森寿美男の朝ドラ『夏空-なつぞら-』放映ということで、ニュースとドキュメンタリーはだめでもしばらくはドラマは見たいものを放送してくれるNHKに足を向けて寝られない。

大森氏の大河再登板が当分先になりそうなのは残念。2021年以降の大河でいろいろ予想されるパターンのうち、当たってほしいのは"脚本&主演=羽原大介&玉山鉄二"くらいだが、どうなることやら。