『サラメシ』雑感

ランチをのぞけば 人生が見えてくる
働くオトナの昼ご飯 それが「サラメシ」


いったいいつまでやるんだと思いながらも、家人が録画してまで見たがるのでつき合っていたら、とうとうシーズン8に突入。今回は、ある種究極のオタク人生の一コマを拝めて楽しかった。ところは国立科学博物館の研究施設。働くオトナは標本を作成する研究者。素人目には「動物の死骸」としか形容できないようなモグラやらなんやらが、専門家が腑分けして縫合してドライヤーをかけるうちに、少々ぬいぐるみめいた愛嬌のある物体に変化していく。自分の仕事は後世の人々のためのもの。腹の坐ったプロの言葉を聞けた。

渡瀬恒彦行きつけのラーメン店が出てきた。喧嘩の話は出なかった。

何シーズンも見てきて思うのは、昼のメニューがどうこうよりまず、この番組に出てくるような名もないおじさんおばさん、おにいさんおねえさん、そしてときたま出てくる矍鑠とした後期高齢者がまじめに働くから、今のところ日本はもっているのだな、ということ。取材班を招くのは職場が嫌いじゃないタイプの人々だろうが、それにしても仕事場が"金を稼ぐためだけの場所"とはかぎらないのも日本ならではか。

この番組の影響で、社員のために定期的に厨房で腕をふるう中小企業の社長さんや部長さんが増えてきたようだ。本人も周りもそれで満足ならけっこうだが、「おれら若いもんはもっと肉中心のメニューがいいっすよ~」と言いたくても言えない平社員が増えているとしたらお気の毒。作ってる方も、止めるタイミングを逃すとたいへん。

シーズン7だったか、高校を出たばかりの新人を職場で育てているようすが映った。世間は安易な若者の大学進学を勧めるより、こういう現場を増やすべきではないか。
六次産業化に成功した和歌山のみかん農園も忘れがたい。高卒から大学院卒まで、適性に合った仕事がある。この分野はまだのびしろがありそうなのも嬉しい。皆さんが何を食べていたかは完全に忘れてしまった。

サラメシそのもので一番記憶に残るのが、"貝合わせ"の絵付師の昼ご飯だ。ハマグリの貝殻に毎日毎日、百人一首を書いて絵付けして、中身の方も毎日毎日食べなくてはならないという。ハマグリはどちらかと言えばごちそうだけれども、連日義務で食べるのはたいへんだろうなぁと(余計な)同情をしてしまった。

主として若者にウケていたテレビがいつのまにか、主婦と退職老人のものになってしまった。そんなご時世に「働くオトナ」にスポットを当てた番組が続いているのはおもしろい。我が家のように録画してまで見るもの好きばかりではないだろうから、働いて帰ってくるオトナのために、せめて10時台に放送すればよさそうなものだが……。


この番組だけは妙な変化球は投げて欲しくない。たとえば以下のような事態はマツピラである。
「今日は趣向を変えて、ファミレスで何時間もがんばってるママ友グループにおじゃましましたぁ! 何をそんなに盛り上がってんですか? なになに、A子さん、子供の担任のここが気に入らない(傾聴タイム)はいはい、で、B子さん、うちの亭主が言いやがった台詞が(傾聴タイム)もー少しかいつまんでお話ししてくれませんかね。で、C子さんは、タロちゃんの主治医のここがだめ(傾聴タイム)もー時間切れだよ、また来週っ」