『ワンダーウーマン』(監督:パティ・ジェンキンス)

訛ってるけど可愛いお姫様だった!
母上も訛らせるためにデンマーク出身のコニー・ニールセンを使ったのか、それともガボットの発音を真似させた?

アメコミにはまったく不案内だが、あまりにも目利きの方々が推奨するので、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(GotG)につづいて『ワンダーウーマン』を鑑賞。
原作ファンのあいだで高評価のようだが、戦争映画ファン、古き良きハリウッド映画ファンにも安心して勧められる出来だ。ローマ軍団オタもちょっぴり喜べるはず。

以下ネタバレあり


パラダイス島――背景のデザインがまさにパラダイスのごとく美しい――はアマゾネスの島というより、"女だけのローマ帝国"に見える。戦闘場面の兜や甲冑がローマ風なだけでなく、「セネター」という呼びかけがあったので、ますますその印象を強くした。
NHKも負けそうなかわいい子役が出てきたが、パラダイス島の場面はアンティオぺ将軍に持っていかれた。ロビン・ライトは『ハウス・オブ・カード』でいつもシェイプアップしていて凄いなと思っていたが、アンティオぺの役作りのためだったのかな? まあ、クレアがふつーのアメリカのおばさんみたいな体型になったら興ざめだが……。(たった今ググったが)アラフィフであの筋肉質というだけでなく、弓矢も短剣も強そうに操れるし、かっこよく馬に乗れるし、なにより武人の魂全開で痺れた。スター以外の兵士役女優たちもそろってすばらしかった。ワイヤーアクションがごく自然に撮れていることにも感動。
古代ローマの装備で銃に立ち向かうとかどうすんだ!? と危惧した自分がおまぬけで、スピード感あふれる魅力的な戦闘シーンが展開した。DVDで見ることがあったら、浜辺の闘いを一番繰り返し再生したい。

SFの人間関係が古い王政時代にのっとることが多いのが興味深いが、今作はローマ神話までさかのぼるのか!

ロンドンでのダイアナにはときどき『ローマの休日』の王女様のようなあどけなさが漂う。トレバーの秘書エッタが、声から雰囲気から一番テンション高い時の濱田マリみたいなノリで愉快だ。ウィットに富んだ台詞を一番多く担当したのは彼女かもしれない。

一癖あるけど頼りがいありそうに見えない仲間を集めるくだりに、物語が始まるワクワク感あり。チャーリーがスカートを履く設定だから、スコットランド出身のユエン・ブレムナーをキャスティングしたのだろうか。

ノーマンズランドの戦闘シーンも、DVDになったらリピート確定。通常の映画でヒロインが「あの人たちを助けなくちゃ!」と言い出したら、「ったく、足引っ張んじゃねーよ、どんだけ皆の予定が狂うかわからないのか! (怒)」となるところだが、今作では超人的に強いヒロインなのでイラつかずにすむ。主人公一人の活躍でなく、仲間との共闘というのも胸熱。監督インタビューによれば、ノーマンズランドをワンダーウーマンが歩くシーンは、9割方実写だったとのこと。撮影はすごく寒かったそうだが、敢行してくれてありがとう。

ドイツ軍に占拠された村での鐘楼シーンは『プライベート・ライアン』を彷彿させる。一度しか見てないのに"盾"を作るトレバーの学習能力がすごい。このあたりの手作りとハイテクの組み合わせみたいな戦法がおもしろかった。

空軍基地でのダイアナとルーデンドルフの肉弾戦も見ごたえあり。冒頭のルーブルのダイアナはいかにもモデル体型で、こんな細くてアクションこなせるのかと思ったが、ちゃんと体格の良いルーデンドルフ相手に優勢に見える動きをしていた。(邦画で男女が格闘すると、どーも男が手加減してるのが見えて興ざめなことが多い)

「悪い人間が戦争を始めるわけじゃない」。ふむふむ。邦画でもこれくらい言わせろよ……でも悪い人間はともかく悪い神様はいて、ラスボスはアレスだった! 予備知識ゼロで映画館に行くといちいち驚けて楽しいな! 名優デイビッド・シューリスが演じるおかげでアレスに重みが出る。最後のアレスVSダイアナのバトルシーンは、おそらく予算を半分くらい注ぎこんだのだろうが、CGや火薬の使用があるラインを超えると、逆に平板に感じてしまう。戦闘シーンのおもしろさは、1.パラダイス島の浜辺、2.ノーマンズランド、3.空軍基地。別に映画がどんどんつまらなくなっていったわけではない。
「さよなら、兄さん」の台詞で、「あ、そうか」と気づいた。男が主人公の父親殺しはときどきあるが、女が主人公の兄殺しの映画は初めて見た。

知恵と優しさと(スパイにしては高すぎる)戦闘能力をかねそなえ、ロンドンではおてんばプリンセス状態のダイアナの世話もたくみにやってのけたトレバーは、爆撃機に乗り込み上空で毒ガス爆弾を爆発させる。身を挺してロンドンの同胞を守ったのだ。GotGでも似たような場面があった。"みんなのための自己犠牲"は讃えられるという共通認識があるのだ。邦画でこんなことやったら絶対文句言いそうな批評家たちも、ハリウッドがやると黙ったままなんだなぁ。

初めは笑いのネタに使われた腕時計が、最後は感動的な形見の品に変化した。トレバーの言葉もよかった。「ぼくは今日を救う。君は世界を救え」
愛を信じるようになってワンダーウーマンさらにパワーアップ、ということだったようだ。が、ゴッドキラーの剣をへし折られて以降のロジックが、見ている最中はいまいち腑に落ちなかった。

ガスマスクを取ったドイツ兵がほぼ美(青)少年なのは、なんでかいな? でもその青少年の一人が酋長(チーフ)と肩を組むのは、ハリウッド映画にしては柔軟でよいシーンだった。

トレバー役のクリス・パインは、あまりマッチョマッチョしていないのでイギリス出身かと思ったら、ハリウッドで最もホットな俳優なのか。タフな女戦士の相手役として出過ぎず引っ込み過ぎず、いい塩梅の助演ぶり。
ガル・ガドットはとにかく吸引力抜群のヒロインだった。下界の卑俗な人間どもを見てとまどう場面ではときおり童女のような表情も見せるが、かといって幼稚っぽくはならず、帝王教育の証を示す場面に説得力があり、強くて美しくてかわいくて、言うことなし。彼女もパインも、日米両方で同じくらい人気が出る貴重なタイプでは?

クリエイターについて男だ女だとあまり言いたくないが、作家や脚本家ならともかく、監督として戦闘場面ふくめてここまでウェルメイドなエンターテインメントを作れる女性が出るだけでも、米国は侮りがたい国である。『ハート・ロッカー』のキャスリン・ビグローとはまた別種の才能を感じる。日本では、男でも戦いをエンタメにできる人はほとんどがアニメに行ってしまうのだが、この状況がいずれは変わるだろうか。

しばらくは、ルパート・グレッグソン=ウィリアムズのメインテーマを思い出すだけでも元気になれそうだ。