『悦ちゃん』第2回~第4回

『4号警備』もよかったが、この調子なら『悦ちゃん』が今年のNHKドラマ、マイベストになりそうな勢いだ。
第2回でお嬢様との縁談は破談決定かと予想したら、意外と引っ張っている。

見合いののち、碌さんは心機一転名作をものするかと思いきやあいかわらず評価されない。カオルは芸術を楽しめなくなる。鏡子にふられて夢月が作曲できなくなる。
いちどきに三人のスランプ人間が出てくるが、いちはやく抜け出すのは一番ぐだぐだだった碌さんであった。
春奴だけは最後まで安定して涼しい顔をしながら碌さんに片思いしつづけるのか?

浮世離れした日下部カオルが恋に目覚めた!
石田ニコルのしなやかな肢体といい、モノクロ時代のハリウッドのコメディエンヌめいた軽みといい、小学生も見ているような時間に贅沢なものを見せてもらってありがたや。

中流の上に属するのがメインな登場人物のなかで(ばあやさんをのぞけば)池辺鏡子は唯一の庶民。思ったとおりに行動したりしゃべったりとはいかない境遇にある。門脇麦は、いろいろ辛いことも多い若い女性を体現しながら、過度に湿っぽくならず、困惑する場面でもユーモラスな雰囲気を醸し出して、とにかく巧い!

彼女の義母を演じるのが、これまた何をやらせても安心な堀内敬子なのだが、黙って座るさまが黒田清輝の絵を彷彿させる。しばらく停止画像で見ていたいような風情があった。

碌さんは、カオルの前で詩を論じる時は、当時約5パーセントしかいなかった学士様らしく教養を感じさせてうっかりかっこよくなってしまったが、あとはしょぼくれたりあわてたり、ユースケ・サンタマリアの面目躍如である。そういや『踊る大捜査線』でも現実の東大出ってこんな感じだよなと思わせた人だ。

本作の成功の三分の一くらいは平尾菜々花をキャスティングした時点で決まったのではないか。はつらつとして多感そうで、見ているだけで楽しくなる名子役だ。

碌さんの姉夫婦の小芝居も愉快。
岡本健一のコメディアンぶりも楽しい。思い込みが激しすぎるハンサムを演じてここまで吹っ切れた芝居ができるJ俳優がほかにいるだろうか?

演出は大原拓、清水拓哉、二見大輔。うだつの上がらない中年男と闊達な女性たちのお話を、大正昭和モダンのセンスで魅せてくれている。繊細ぶったしなしなした女を出さない作風を、ほかでも拝みたいものだ。
最後の一秒まで、家冨未央Pが宣言したとおり「超絶楽しいドラマ」でありますように!