『密使と番人』(時代劇専門チャンネル)

ネタバレあり。

 

8/11、29、9/30再放送あり。
渋谷ユーロスペースで上映中。

 

ドキュメンタリータッチの時代劇。
19世紀初め、蘭学者の一派が日本地図をオランダ人に渡すため、若き蘭学者、道庵を密使として江戸から出発させる。彼を追って山狩りする番人たち。道庵はとある番小屋を訪れ――。

三宅唄監督は、『THE COCKPIT』(2014)でヒップホップ・アーチストの二日間にわたる創作活動を撮ったそうだ。どうりで、台詞が極端に少ないこともあり、今作で一番印象に残ったのはBGMの〈Searchin'〉(HiSpec)と〈Miss It Burning'〉(OMSB)だ。

ふれこみどおり、冬山の空気感はじゅうぶん伝わった。当時でも都会人にはとても住めそうもない厳しい土地のようすはなんとなくわかるが、江戸から長崎をめざすならともかく、北上しているように見えてしまうのはどうなのかとか、小屋と高山が倒れる場所の位置関係がどうなのかとか、地理的な違和感が残った。
ドキュメンタリー風だからと言っても、太陽光や囲炉裏の火の処理がちょっと雑な感じ。
映画らしいアクションが生まれた!と感じたのは、高山がいきなり画面に飛び込んできた瞬間。しかし、道庵はどうやって高山を倒したのか? 片手を負傷しているにしてもあまりにも動きがぎこちなく、刀で刺したようにも見えず。高山が勝手に疲労困憊で動けなくなったように見えなくもない。雪の中を進むもどかしさを表したかったのだと思うが、それにしても何をしたいのかわからない動きが多すぎた。
追う者と追われる者のあいだに感情の交錯があまりない。この辺のドライな作りは新鮮。40分くらいでまとめればもっとぴりっとしたのではないか。

最後、晴れやかな若者たちが映るったのは気持ちがいい。幸たちが旅に出た理由は考えるだけ野暮なのか……。

冒頭の妙な植物群はなんだろうと気になった。最長6mになるというヨシだろうか。

森岡龍の主演作が増えたのはめでたい。嶋田久作の顔がこんなに安堵感を与えるとは! 新人、石橋静河は新鮮味とたのもしさを同時に感じさせる。河の字のごとくスケールの大きな女優に育ってほしい。